真相へと
「入る」
中からの返答を待つ事無く、扉を開け放つ。
ベッドに横たわるのは、肩を貫かれ応急処置を施した例の冒険者だ。
あの後、奴を担いで治療院へ運び込むやいなや血相を変えた治癒士が駆け寄り「貴方も後で治療しますからね!」と言って半ば強引に治療室へと奴を叩き込んだ。
冒険者である以上これよりも酷い怪我など幾らでも経験してきたのだが、些か辺境の地に住まう治癒士に取っては衝撃が強かったらしい。
仕方の無い事だ。
ここらで怪我をすると言ったら、酔っ払いの喧嘩で受けた傷や野犬に嚙まれる等といった、その程度の物なのだろうからな。
そこへ全身に切り傷を負った男が、尋常ではない出血痕を残した相方を連れて来ようものならば、泡を吹いて倒れてもおかしくはないだろう。
「ごめんなさい」
未だに全身をケープで覆う冒険者は弱々しく謝罪の言葉を口にした。
まぁ、あれは不可抗力と言っても差し支えないだろう。
水面からの急襲、近接戦闘を武器としない魔術師であれば反応出来た筈もない。
寧ろ、戦闘が終了したと思い込み奴が戦場まで踏み込んだ事を許したこちらに非がある。
それにしても…
病室の寝台を汚してまで脱がないあのケープの下はどうなっているのだろうか。
人にはそれぞれの事情というものがあり、詮索をするべきではない。
ただ見えたとしても口元程度までだろう。
たかが口元、されど口元。
徹底したまでの隠匿は逆にその内側を想起させる。
気にならないと言えば嘘になるが、紳士的に接するべきだという俺の理性がそれを引き止めた。
「気にするな、あれは俺の不手際だ」
そんな事よりも川辺で抱いた疑問を解消する方が先決だ。
俺は寝台の傍らにある椅子を引っ張り出し、冒険者と向かい合う形で座った。
「あの川の上流には街が並んでいると言ったな。おそらくだが、サハギン共は街の下に走る下水道に巣を作っていた」
こくりと冒険者の首が縦に傾く。
「それもそれで問題だが…一番の問題点はまだ女王が生き残っている可能性がある事だ」
焦点は河川に屯していた雑魚の群れではなく、それらを統括していた筈の個体が未だに姿を見せていない事にある。
これが単純に愛想を尽かしたサハギン共が女王の元を去ったのであれば、それはそれで構わない。
女王なんて仰々しい名前は付いているが、所詮はサハギンの亜種。
他の魔物と比べて特別な力を持っている訳ではなく、精々が群れの統率といった小手先の技術が優れている程度だろう。
しかし、今回の一件はそんな簡単な話ではないかもしれない。
立て掛けていた盾を手に取り立ち上がる。
「どこへ…?」
徐に立ち上がった俺を冒険者は不安げな眼差しで見つめた。
「下水道だ」