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第七章 休息

 不愉快そうな表情で、ガルリアは溜息とともに呟いた。


「……そんなに俺の元から離れたいか?」


 どことなく拗ねたような言い方に、エステルはどきりとした。

 傲岸不遜と謳われるグレンリベット帝国のガルリア皇帝が、こんな顔をするなんて反則だ。


「いや、そういう訳じゃなくて……晩餐会のために急にレナルド殿下から呼び出されて王城に来ていたから、そのまま帝国へ来てしまったら皆が心配すると思って……」


 エステル自身、聖女としての活動が続行できるならば、拠点は神殿だろうが帝国だろうがどちらでも良いと思っている。

 ディングル王国は既に先の戦争で帝国に敗れて配下に下っている。そのため王国の聖女が帝国の聖女として活動する事については何も問題はない。


「あの阿呆に敬称はいらん。廃嫡になったのだからもう王子でもないしな」


 癖でレナルド殿下と呼んでしまったエステルに対し、ガルリアは冷たく言い切ったが、その後すぐに何か思案するように唇に指を当てて視線を落とした。


「だがまぁ、仲間への別れの挨拶は必要だろう。よし、明日、神殿に行くか」

「まさか、ガルリアも一緒に行くつもり?」


 立ち上がったガルリアに、エステルが目を瞠ると、彼はさも当たり前という顔で首を傾げた。


「? 当然だろう?」

「いやいやいや! 神殿に突然皇帝がやってきたら皆卒倒しちゃうよ!」


 ただでさえ、ガルリアはその圧倒的な美貌と覇気で存在感が桁違いなのだ。

 加えて帝国の皇帝という肩書きで、神殿中が委縮してしまうのは想像に難くない。


「それに、皇帝って忙しいはずでしょう?」

「そうでもないぞ? 戦争中はそれなりにやることがあったが、今は何処とも争っていないからな。内政はオクトや他の大臣も良く働いているから、俺が出る幕はあまりないんだ」


 けろりと、自分は暇だと言ってのけるガルリア。

 確かに、帝国ともなれば、優秀な大臣もさぞ多いだろう。しかし、皇帝が暇な訳がない。


 何と言って説得しようかと考えていると、ガルリアは名案と言わんばかりに手を叩いた。


「俺が同行する事がそんなに気になるのなら、変装すれば大丈夫だな!」

「変装?」

「ああ、ついでに、神殿近くの町を散策するとしよう。当然その辺りではお前の顔も知られているだろうから、お前も変装すると良い」


 妙にはしゃぐガルリアにエステルが置いてきぼりを喰らった心地でいると、彼は側近を呼び寄せた。


「……という訳だ。明日は終日不在にする。何かあれば知らせろ」


 相談でも確認でもなく、明日外出するという決定報告に、側近の男は額を押さえつつ頷いた。

 どうやらガルリアの気まぐれな行動は今に始まったことではないらしい。


「よし、今日はもう遅い。部屋は用意させてあるから、ゆっくり休め」

「ありがとうございます」


 帝国に戻ってからずっと一緒にいただが、いつの間にそんな指示を出していたのだろう。

 頭の中で記憶を巻き戻してみる。そういえば、椅子を持って来てくれた従者に何か言っていた気がする。あの時か。

 

 エステルは玉座の間を退出し、従者に促されるまま、客間と思われる部屋に移動した。


 これまた華美な装飾の施された、美しい上にかなり広い部屋だ。

 エステルが部屋に入って程なくして、一人のメイドがやって来た。

 

「エステル様、この度お世話をさせていただくことになりました、ダリア・タリスカーと申します」


 夕焼け色の髪に青い瞳の美女がにこやかに一礼する。


「よ、よろしくお願いします」


 エステルは緊張気味に頭を下げた。


 ダリアの世話能力は凄まじく、湯浴みの準備から着替え、マッサージに至るまで、エステルが何か言うよりも早く先回りしてやってくれた。


 庶民出身のエステルにとって、命令する事は不慣れで心苦しい気持ちになるため、先回りしてやってもらえるというのは非常にありがたかった。


「あ、あの、ダリア、ちょっとお願いがあるんだけど……」


 可能であれば頼みたいことがあり、エステルは迷惑かと思いつつ、控えめにそう切り出した。

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