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第五章 皇帝

 転移魔術によって瞬き一つの間に移動したエステルは、その光景に目を瞠った。


「……すごい」


 豪華絢爛、その言葉が浮かぶ。

 おそらく、帝国の城の中だと思われるが、派手な壁と柱は、ディングルの王城と毛色の違う文化を表していて、とても美しい。


 部屋の最奥には、一際細かな装飾の施された椅子が一脚置かれており、一目で玉座だとわかった。


「気に入ったか?」


 エステルの顔を覗き込み、ガルリアが得意げに笑う。


「気に入ったと言うか、帝国の文明は文献で読んだことがありますが、実際目にするのは初めてなので、驚きの方が強いです」

「そうか。まぁ、王国の聖女となれば、囲われていて当然か」


 確かに歴代の聖女の中には、神殿に囲われて外へ出なかった者も多いと聞く。

 だが、エステルは比較的自由に外へ出る事を許されていた。

 それは先代聖女であるエステルの母が、神殿内に縛り付けようとする神官と盛大に揉めて自由を勝ち取ったからだとジャックが教えてくれた。


 だからエステルは炊き出しにも参加できていた。できてしまっていた。


「……私が毒属性というのは、本当なんですか?」

「ああ、だろうな。俺が口にした料理、俺でなければ死んでいただろう」

「……では陛下も……?」

「ガルリアだ。陛下はやめろ。敬語もなしだ」


 強く遮ってきた皇帝に、エステルは動揺する。

 帝国の皇帝相手に呼び捨てするなんて、畏れ多すぎる。


「しかし」

「命令だ」


 そう言われてしまうともう反論できない。

 渋々了承すると、彼は満足げに頷いた。


「俺は闇属性と毒属性の二つ持ちだ」


 ガルリア皇帝が闇属性というのは有名な話だ。

 光と闇はどちらも希少で、魔力も強い。


「属性を二つ持つことは非常に稀だ。俺も、自分以外ではお前が初めてだ」

「へえ……ガルリアは自分が毒属性を持っている事、隠しているの?」

「ああ、公表しても良い事はないからな」


 毒属性は、その特性故に迫害される事が多い。

 皇帝となれば迫害されることはないだろうが、国内外に闇属性のみだと思わせる方が都合が良いのだろう。


「……私は、此処で何をしたら良いの?」

「何も? 今のお前は客人だ。好きに過ごせば良い」


 思いもよらぬ返答に、エステルは虚を突かれた顔をする。


「……グレンリベット帝国のガルリア皇帝、もっと残虐で酷い人かと思っていたわ」

「まぁ、皇帝とは、ある程度非情でないと務まらんからな」


 肩を竦めて嘆息すると、彼は玉座へ腰を下ろした。


「まずはお前の話が聞きたい」

「私の話? そんなの聞いても面白くないと思うけど……」

「惚れた女の話なら、何でも聞きたいと思うのが男だろう。面白くなかったとしても構わん。お前が話したくないことは言う必要はない。身の上話でも聞かせろ」


 しれっととんでもない口説き文句を言ってのけるガルリアに、エステルが赤面する。

 そんなエステルに気付いているのかいないのか、ガルリアはふと周りを一瞥する。


「ああ、お前の椅子がなかったな」


 ぱちんと指を鳴らし、顔を出した従者に椅子を持って来るよう指示する。

 従者はてきぱきとした動きで、玉座ほどではないがしっかりとした造りの椅子を一脚運んできてエステルに勧めてくれた。


 妙に機嫌の良いガルリアに促されるまま、エステルは自分の身の上話を始める事になった。

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