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第三章 晩餐会

 晩餐会はディングル国王が主催している。

 主賓はグレンリベット帝国のガルリア皇帝。弱冠二十一歳にして帝国全土を統べる名君と謳われる人物だ。


 その他、王国の高位貴族達が招かれている。


 晩餐会当日となり、料理の準備を全て終えたエステルは、ジスランが用意してくれたドレスに身を包み、大広間に向かっていた。

 晩餐会に出席できるようなドレスを持っていなかったため、裏で待機していようとしたら、ジスランがドレスを持って登場したのだ。


「本当は愚弟が君のドレスを用意すべきなのに、出来の悪い弟でごめんね。席も用意させたから、給仕は城の者に任せてこちら側に座ってくれ」


 ジスランは申し訳なさそうにそう言って、綺麗な水色のドレスを差し出してくれた。

 採寸などしていないのに、ドレスはエステルにぴったりだった。


 大広間の前には国王とジスラン、そしてレナルドがいて、何かを話しているようだった。


「は? エステル、そんなドレスを着て何をしている? お前は給仕でも……」


 心底馬鹿にした様子で言い出したレナルドを、ジスランが盛大な溜息で黙らせる。


「僕がドレスを用意したんだよ。レナルド、本来なら君が婚約者であるエステルのドレスを用意して、ここまでエスコートすべきだろう? 彼女は聖女でありお前の正式な婚約者なんだ。席もお前の隣に用意させた」


 ジスランの言葉に、国王もうんうんと頷いている。

 それを受け、レナルドは黙り込み、エステルを恨みがましく睨みつけてきた。


「さあ、そろそろガルリア皇帝がお見えだ。出迎えの準備を」


 国王の一声で、大広間の扉が開く。

 美しく整えられたテーブルのセットには、豪華な花も飾られている。


 エステルはおずおずとレナルドの横につくが、彼が腕を差し出すことはなかった。


 程なくして、大勢の護衛を引き連れた人物が大広間にやってきた。


 ディングル王国ではなかなか見られない艶やかな黒髪と、全てを見透かすような黄金の双眸、そして見る者を圧倒する美貌と覇気を有する青年、彼こそがグレンリベット帝国を統べる皇帝、ガルリア・グレンリベットである。


 思わず見惚れたエステルだったが、彼と目が合い慌てて会釈と共に視線を逸らす。


 気が付けば他の来賓は既に席に着いていた。

 驚いた事に、あのルミナと呼ばれていた令嬢も、招待者の末席にいた。

 どうやらそれなりに地位のある貴族令嬢だったようだ。


 形式ばった国王の挨拶が終わると、すぐに料理が運ばれ始めた。


 自分の作った料理を皇帝が口にすると思うと、緊張してしまうエステルだったが、幸いにもガルリアは黙々と料理を口に運んでいく。


「……まだか」


 食事中、レナルドがガルリアの方をちらちらと見ながら、剣呑に呟く。

 まだ晩餐会が終わらないのか、という意味かと思ったエステルが彼を一瞥すると、何か企んでいるような表情をしており、嫌な予感を覚えた。


 と、フルコースを完食した皇帝は、唐突に立ち上がった。


「……今日の料理は全てが美味かった。料理人を呼べ」


 思いもよらぬガルリアの言葉に、エステルが戸惑いながら立ち上がる。

 その横で、レナルドは動揺して呟いた。


「エステルの作った料理を食べて、まだ平然としているだと……?」


 その言葉の真意を問う間もなく、エステルは皇帝の従者に手招きされるまま、ガルリアに歩み寄った。

 彼の目の前に立ち、深々と一礼する。


「……私が皇帝陛下のお料理を担当いたしました。エステル・アードベッグでございます」


 その言葉に、事情を知らなかったらしい国王は愕然とした様子でレナルドを振り返り、大広間の貴族達はどよめき出す。


「聖女様がっ?」

「まさか、我々の料理も?」

「いや、そんなはずはない! 食事を終えても何も起きていないんだ!」


 ひそひそとそんな事を言っているのが聞こえたが、皇帝は何故かその綺麗な唇を吊り上げた。


「お前は第二王子の婚約者だったな? 何故お前が?」

「畏れながら、私は聖女の地位を賜っており、我が婚約者第二王子レナルドの指示により、殿下にお料理をご提供した次第です」

「そうか、お前が噂の聖女か」


 納得した風情で頷き、皇帝は国王とレナルドを一瞥した。


「ディングル国王よ、これは反逆だ」

 

 皇帝の言葉に、国王はおろおろと狼狽し出す。


「皇帝陛下! これは何かの間違いでございます!」

「間違いなものか。俺の分の料理だけ聖女に作らせる……俺を毒殺する気だったとしか思えん」

「毒殺なんて! 私は誓って毒など入れておりません!」


 咄嗟に声を上げたエステルに、ガルリアは怪訝そうな顔をする。


「お前、噂通り本当に自分の属性のことを知らないんだな」

「属性? 私は光属性ですが……」


 だからこそ、エステルは聖女としての地位を得ているのだ。

 実際、光属性しか使えないと言われている浄化魔術を使うことができる。


「もう一つの属性の方だ。この様子だと、本人以外は知っているようだな」

「もう一つの属性?」


 属性は、一人に一つだけ与えられるもの。

 父か母、どちらかの属性を受け継ぐのだ。


 エステルの母は同じ光属性で、先代の聖女だった。神殿を飛び出して父と駆け落ちしてエステルが生まれた。

 数年前に神殿がエステルたちの居場所を突き止め、エステルを聖女だと認定したのだ。


「……今日の晩餐会でお前に料理を振舞うよう命じたのは、第二王子だと言ったな?」

「左様でございます」


 エステルが首肯すると、皇帝はついと視線をレナルドに据えた。

 悪巧みが暴かれたレナルドは、びくりと肩を震わせたが、しかし開き直ってエステルを指差した。


「違う! 今回の件は、そいつがどうしても皇帝陛下に料理を振舞いたいと懇願して来たんだ! 全てそいつの責任だ!」

「レナルド、流石にそれ以上は僕も黙ってはいられないよ」


 ジスランが制止するも、そこへルミナが飛び出してきた。


「私も、エステル様がレナルド様に、皇帝陛下のお料理を作らせてほしいと懇願しているところを見ましたわ!」


 彼女の証言がレナルドを擁護するつもりの嘘なのは明白だが、責任の全てをエステルに擦り付けようとする彼は、まるで百万の味方を得たかのように、更に続ける。


「そいつは自分が毒属性だとも知らず、手料理を皇帝に振舞うつもりだったんだ! 浅はかな女め! 俺は今此処で、お前との婚約破棄を宣言する! 皇帝に毒を盛った責任は全てお前ひとりにあるんだ!」


 自己保身に必死になるあまり、彼は重大な事を見落としていた。


「……ほとんど語るに落ちているな。あんな阿呆が婚約者とは、同情に値する。ああ、もう破棄されたのか」


 ガルリアは心底呆れた様子で呟くと、エステルを見てふむ、と呟いた。


「お前の料理が美味かったのは本当だ。その褒美に、この場において言いたいことを言う権利をやろう。どんな暴言も、この俺が許そう」


 何かを見透かしたようなガルリアの言葉に、エステルは大きく目を瞬いた。

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