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第十二章 反逆

 静まり返った神殿内で、エステルははっと我に返った。

 ルミナは出て行ったが、神官たちは目の焦点が合わない状態で立ち尽くしているだけだ。


「皆に掛けた魅了魔術、解除していってよ!」


 叫ぶが、既にルミナの姿はない。


「あの小娘の魅了魔術程度、お前の浄化魔術で解除できるだろう」


 隣から呑気な声が聞こえてきて驚く。


「ガルリア!」


 彼は、にやにやとした笑みを浮かべてエステルの隣に立っていた。


「魅了魔術に掛ったんじゃ……」


 思わず呟くエステルに、ガルリアは心底心外だと言わんばかりに顔を歪めた。


「あぁん? 俺があの小娘程度の魅了魔術に掛かると本気で思ったのか? 反撃して縛り上げようと思ったんだが、丁度ディアナの気配がしたから、任せてみようと思ってな。魔術に掛ったフリをして動かずにいただけだ」

「ディアナの気配って……お母さん、ガルリアと知り合いだったの?」


 驚いて二人を見比べる。

 ディアナはガルリアを見て、懐かしそうに目を細めた。


「ああ、少し前に、先代皇帝に頼まれごとをしてね。その時に、ガルリアが使いとしてわざわざ私の元を訪ねてきたんだ」

「えっ、ガルリアがわざわざ?」

「父上の切なる願いのためだ」


 そう答えたガルリアの目が虚空を見つめている。

 何かあったのだろうか。


「アデスは猛反対だったんだけどね。アデスの同行を条件に旅行がてら帝国へ行って、先代皇帝の頼まれごとを聞いてやったんだよ」

「頼まれごとっていうのは何だったの?」

「ん-、それは先代皇帝の名誉に関わるからな。アタシの口からは言えないよ」


 珍しく苦い笑みを浮かべるディアナと、その後ろで不愉快そうな顔をしているアデス。

 エステルはただ首を傾げるしかできなかった。


「それより、さっきの小娘は何だったんだ?」


 腰に手を当てて嘆息するディアナに、エステルは一連の出来事について簡単に説明した。


「……へぇ、あの阿呆王子、阿呆だと思っていたけど、そこまで本物だったか……だから婚約には反対だったんだ」


 腹立たし気に頭を掻くディアナに、ガルリアは頷く。


「ああ、だがあの阿呆の廃嫡はもう決定事項だ。今後エステルに関わる事はないだろう」

「それは何よりだが……それより、ガルリア、お前こそどういうつもりだ? エステルを花嫁にするなんて」

「ディアナの娘というだけでも興味があったが、実際に会ったら期待以上だった。俺はエステルに惚れた。だから花嫁に決めた。問題あるか?」


 強気で言い切るガルリアに、ディアナが心配そうにエステルを見る。


「エステルはそれで良いのか?」

「えっと、私は、まだガルリアの事が好きか、自分でもわからないんだけど……」

「ほぉ? 嫌ではないんだな?」

「え、うん。嫌という訳では……」


 少なくとも、レナルドに婚約者だと決めつけられた時の方が、正直嫌な気分だった。


 ガルリアは、レナルドと決定的に違う。エステルが嫌がる事を無理強いはしないし、ちゃんと意見を聞いてくれる。


「……なら、アタシから言う事は何もない。エステルの人生はエステルのものだからね。好きに生きな。困った時は、いつでも力になるから」


 男前な母親の言葉に、エステルは笑顔で頷く。


「エステル、父さんもエステルの味方だからね。忘れないでくれ」


 遠慮気味に名乗りを上げる父に、エステルはすんとした顔になる。


「あ、うん。ありがとう。でも、お父さんはお母さんがいないと役立たずになるから、気持ちだけ受け取っておくよ」


 幼い頃から、頼りない父の背中を見過ぎているエステルの、正直な感想だったりする。

 アデスは、ディアナと共にいる時は、格好つけようとして何でもこなして見せるのだが、ディアナが不在になると途端に集中力を切らして使い物にならなくなるのだ。

 そんな背景もあり、アードベッグ家で最も頼りになるのは、母ディアナで間違いない。


 エステルにバッサリ断じられた事でショックを隠せないアデスだが、事情を知るディアナはけらけらと笑っている。 

 そんな彼女達を眺めて、ガルリアは目を細くした。


「……仲が良い家族だな」


 家族仲を褒められたことが嬉しくて、エステルがはにかむ。


 その時だった。


 突然炎が一閃し、ガルリアを貫いた。


「っ!」


 彼の口から血が流れ出る。


「ガルリア!」


 エステルが悲鳴を上げると同時に、ディアナが右手を突き出して叫んだ。


防御魔術ディフェンシオ!」


 淡い光が半球状に彼らを包み込み、そこへもう一撃、炎の矢がぶち当たる。

 しゅうしゅうと音を立てて炎が消え、煙が上がったその向こうに、見知った人物を見つけてエステルは愕然とした。


「ジスラン殿下!」


 金髪に赤い眼の青年、ディングル王国王太子がそこにいた。


 ジスランの属性は炎。

 今の攻撃は、彼の放ったものか。

 だとしたら何故。


「エステル、もう大丈夫だ。僕がその男の魔の手から君を守ってあげるから。さぁ、こちらへおいで」


 昏い瞳で語り掛けてくるジスランに、エステルはぞっとした。

 目の焦点は合っている。間違いなくエステルを見ている。

 操られている訳ではなさそうだが、様子は明らかにおかしい。


「エステル、行くなよ」


 ガルリアが、口の端から流れる血を右手の甲で拭いながら、左手でエステルの手を掴む。


「ガルリア、血が……」


 炎の矢が貫いたガルリアの腹部からは、止めどなく鮮血が滲んできて、床にぽたぽたと落ち、血だまりを作り始めていた。


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