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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【常識ある村】

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常識ある村-07



 村の中に諦めと悲壮感が漂う。


 明日からの暮らしは、昨日までとは違うものになる。もう理不尽な決まりや監視社会も終わる。だが、年に1度ほど来る海賊にはどう対峙するのか。これからも人数調整をし、牛や山羊を差し出し続けるのか。


 海賊の懐事情が悪くなれば、貢物を掻っ攫うだけで満足してくれるのか。

 大人を連れていくと言い出したなら、抵抗する術を持たない村はまた衰退してしまうのか。


 昨日までとは違う未来が待っているものの、決して手放しに喜べる状態ではない。知らない方が良かったと言い出す者までいる始末。


 一方、レオンは村人ではない。もっと言えば、村の実態を暴きに来たわけでもないし、人助けのつもりもない。


『嘘はついておらぬ。追放した者は奴隷にされてはおるまい。だが村人を騙し、まっとうに生きる機会を奪った者を被害者としては扱えまい』


「まあ、おれからすればね。だけどこれ以上タダ働きするつもりはない。あとは村の問題だから」


 レオンは村長の処遇も、これからどうするかも何も決まらない様子に見切りをつけ、早く寝たいなと呟く。村長を始末しないのならレオンの出番はない。


 もちろん海賊がこの場にいるのなら捕えて煮るのも焼くのも裂くのもいい。しかし、いつ来るかも分からない者を待つ程暇ではなかった。まだエーテル村の手掛かりすらないのだ。


「こいつはどうする。始末するのか、しないのか。ならず者をどうする」


「……確かに村長は俺達を騙していた。他所の暮らしを取り入れていたなら、もっといい生活ができたかもしれねえが。でも海賊の奴隷よりはいいべ」


「村長があたしらを差し出して自分だけ助かるならともかくよ、あたしらを差し出さねえようにこうしてたのは分かったからねえ」


「この村の祖先は老人と子供だけで立て直したんだ。必死に考えてこれが精一杯だったのなら、今の村長を責めても仕方ねえべ」


 村人達は、村長を罰しないと決めた。騙してはいたが、それが村のためである点を評価したのだ。


「確かに当時残った老人がなくなり、まだ大人にもなりきれない子供が知識教養のない中、必死に守り続けた常識は、子孫を騙すためだったとは思えないけど」


『皆が巨悪を知らずに狭い世界で生きてきた事で、ずいぶんと呑気な性格をしているようだ。ピッピラを出た頃のレオンと変わりない』


「……そう言われると、まあ、確かにおれは何も知らなくて呑気だった」


 村人が怒りを感じない理由を把握し、レオンは自身が鉄槌を喰らわす事を断念した。

 そうなると、次に気がかりなのは盗賊が来た時の対応策だ。


 レオンが去った後、村人達が適切な対応をするとは思えない。そこまで面倒を見る義理はないが、海賊を野放しにしているのもレオンの信念に差し障る。


「……あんたら、その海賊を退治したいと思わないか」


「え?」


「どうせまた来るんだろ? 牛や山羊で満足するかどうか、分からないんだよな」


「まあ、そうだども……」


「お前たちが何か悪い事をしたせいで奪われるのか? 違うよな。じゃあそんなならず者は生かしてはおけないと思わないか」


 レオンの言葉を聞くまで、村人達は反抗する事さえ思いつかなかった。そして、いざ反抗するとなれば、今度はどうすれば良いのか分からない。


 海賊とは何か、聞いた事はあっても実際に襲われたことがない。徴収に来る男の事を商人だと言っても気づかないくらいだ。


「どうすればいいか、わからない……」


「じゃあ、おれに任せるか?」


「えっ」


「報酬はその海賊でいい。そいつらをおれの好きにしていいか」


「海賊……を? どうするつもりだべ」


「そうだなあ、奴隷として売り飛ばしてもいいし、代わりに殺してもいい。動かせるなら船を貰ってもいいかな」


 レオンの声色に、村人の間で動揺が走る。しばらく意見が纏まらない中、夜更けという事もあって話し合いは朝になってからとなった。





 * * * * * * * * *





「はぁ。水源があの小川しかないから、水が大量に必要なお風呂は簡単に入らせられないだって」


『吾輩は困らぬが』


 翌朝、レオンは村長の家を訪ねていた。家畜や畑の世話がある者以外、全員が庭に集まっている。


「村長、どうすんだべ。旅の人にお願いすんのけ?」


「……それしかない。本当に大丈夫なのかは分からないが、託すしか」


「おはようございます。皆さん早いですね」


「ああ、レオンさん!」


 数十人が集まる中、村長は丁寧に頭を下げてきた。昨晩とは全く違う態度だ。


「レオンさん、お願いします。海賊に怯えない生活が出来るのなら……私が海賊のアジトの場所を知っているので、私も行きましょう」


『近いのか』


「いえ、実際に行った事がある訳ではないのです。海賊をやめた者の村で地図を貰っていますから」


 レオンは地図を見るのが苦手だったので、村長が来てくれるのなら願ったりだ。早速支度をし、島の南西にとめているという船へと向かった。


 南西の島は、僅か数百メルテの浅い海峡を渡った先だ。海賊を抜けた者達の集落は島の北側にあり、村がある島からは見ることが出来ない。


 船で進み始めて3時間。ようやく見えてきた集落で船着き場に降り立つと、すぐに男達が駆けてきた。


「村長!」


「元気そうで良かった。今日は様子を見に来たわけじゃないんだ」


「何かあったんですか? まさか海賊が……」


「いやいや、そうじゃない」


 駆け寄ってきたのは、元村人の男だった。数年前に追い出され、この村に連れてこられたという。村長が定期的に様子を見に来れるため、この村が一番都合がいいらしい。

 と言っても、男達は島から出る際に目隠しをさせられているので、村の場所は分からない。


「この方はレオンさん。狐人族で、始末屋をしているんだ」


「し、始末屋……」


「どうも、レオンです」


「海賊のアジトの地図を貰っていたが、場所は変わっていないのかを聞きに来たんだ」


「まさか、この方……海賊退治、ですか」


「ああ。レオンさんが任せろと言ってくれた」


 男は元海賊の村人の許へ案内する間、ずっとレオンの心配をしていた。元海賊と一緒に住んでいる事で、海賊の恐ろしさを知っているのだ。


「おれじゃ勝てそうにないのかな。山賊を相手にしたこともあるし」


「まあ、会って貰えば分かります」


 そう言って男は1軒の木造平屋の戸を叩いた。このベリリュ村の村長の家だ。


村長むらおさ! コスカさん! 外から海賊退治の人が」


 男が訪ねて数秒後、扉が勢いよく開けられた。出てきたのは50代くらいの男で、小柄だが眼光が鋭い。


「ほう……海賊退治か」


「あ、ごめんください、レオン・ギニャです。こっちはジェイソン」


「レオンさんに……精霊のジェイソンさんか。私はこの村を治めるコスカと言う。あんた、狐人族って事は腕っぷしには自信があるな」


「はい」


「海賊について知識は」


「えっと……船に乗っていて、寄った村から人や物を奪うならず者だと」


 コスカは深くため息をつき、レオンに着いてこいと言って歩き始めた。土の道、簡素な木造の家々。それらは閉鎖的な村とあまり変わりないものの、石造りの見張り台が至る所にあるなど、少々物騒な雰囲気だ。


「あんた、その鋼材でぶん殴ればなんとかなる、そんな戦いしかしてきておらんのだな」


「え? ああ、まあ」


「そんなもん、乗り込むまで役に立たん。いいか、海賊と戦うなら、こういうもんが必要になる」


 そう言ってコスカが大きな倉庫扉を開いた。その中にあったのは、レオンが想定していないものだった。


「これ、銃と、大砲?」


「海賊は誘い出して沈めるのが一番だ。準備を始めて20年、今はこちらの戦力の方が勝っている。あんたが海賊を潰したいならちょうどいい、のるかい」

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