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旅の途中で‐01

 

【旅の途中で-01】




「報いだよ」


「だか……ら、って、ここまで」


「ここまで? お前は慈悲を乞う相手に何をした」


「わ、悪かった! 許してくれ!」


 快晴の空の下、ガレ場の続く山道で1人の中年男が泣き叫んでいる。

 狐耳の青年はそんな男を見下ろし、表情を変えることなく淡々と言葉を放った。


「自分のための言葉を謝罪とは言わない」


 青年の言葉に、泣き叫んでいた男は一瞬固まった。図星だったようだ。


「お、お前だって悪者じゃないか! こうして俺を殺そうとしている! この人殺しめ!」


「悪党のことをヒトデナシと呼ぶだろう? おれはヒトじゃないものを処分しただけさ」


「い、生きてるのを殺すのは一緒のことだろ! お前は動物を殺して楽しむ下衆と一緒だ!」


「ならず者のことを、血が通っていないって言うじゃないか。血が通っていないんだから、動物じゃなくてただのナマモノだ」


「そ、そんな屁理屈……」


「つまりおれはナマモノを処分するだけ。とても喜ばれる仕事なんだ、誇りに思っているよ」


 狐耳の青年は金色と青の瞳を細め、小さな牙が覗く口だけで笑みを浮かべる。金色の髪がさらりと揺れた後、汗ばんだ褐色のおでこに張り付く。


「わ、分かった! 今すぐ被害者に謝りに行く、どんな償いでもするから!」


「ではこれが済んだらそうしろ。おれは与えられた仕事を遂行する義務がある」


「じゃ、じゃあ俺が今から雇う! 今から俺が雇い主だ! ほら、幾らだ!」


「金貨幣を500枚 (※1金貨≒10万円)だ。もちろん紙幣でもいい。依頼主に渡して契約破棄の伺いを立てる。お前からの慰謝料と伝えてもいい」


「そっ、そんな大金……わ、分かった! か、帰ったら必ず!」


 青年は誰かの依頼を受け、男を置き去りするためここに来た。

 彼の仕事は自称何でも屋。とりわけ始末屋稼業、つまり誰かへの復讐は得意だった。


「帰ったら払う? ならず者の言う事を信用すると思うかい」


「必ず、必ず支払うから! 今手持ちがないのは、あんたも分かってるだろう!」


「ああ、分かっている。で? 信用に値するものを、何か1つでも態度で見せてくれたかい。可哀想な人々の懇願を、1度でも聞き入れた事があったかい」


 狐耳の男の傍にいた黒猫が懺悔する男の襟首をくわえ、まさかの力で強引に引っ張っていく。

 黒猫はあっという間に数十匹にも増殖し、男は抵抗も出来ない。


「あー、忘れてた。伝えないといけないんだ。質問を1ついいか」


「な、なんだ」


「虐げた相手から復讐されて、今どんな気持ちかな。聞いてくれと依頼主から頼まれているんだ」


「はっ……?」


 青年の言葉がよほど予想外だったのか、男は口を開けたまま言葉を発せずにいる。


「特にないか。ガッカリするよ、残念だ」


「待ってくれ! 許してくれえ……」


「その旨を伝えておくよ。許されるかどうかはおれの関与するところじゃない」


 男は成す術もなく泣きじゃくる。大声で許しを乞う声がどんどん遠くなっていく。


「ジェイソン、慎重にな」


 狐耳の男が黒猫ジェイソンに声を掛ける。それと同時に号泣する男の姿がふと視界から消えた。

 数秒滑り落ちる音が続いた後、微かな呻き声が助けを呼び始める。


「こ、殺し屋レオン! こんな事をして、タダで済むと思うなよ……」


「おれは殺し屋じゃない、ならず者が勝手に死ぬだけ。さて、靴はちゃんと脱がせとるね。ジェイソン、偉い偉い。ようやった」


 角張った岩や小石ばかりのガレ場を裸足で歩くのはさぞ辛い事だろう。


 いつの間にか2匹まで減っているジェイソンの頭を撫で、狐耳の男「レオン」がそれぞれから靴を受け取る。

 言葉使いが変わり、雰囲気も穏やか。仕事モードは終わり、といったところか。


 ジェイソンが1匹に戻り、レオンは元来た山道を引き返す。


「あと何人のならず者を始末せんといけんのかな」


「……」


「なんで人族の決まりは、ならず者に従順なんやろね」


「……」


 レオンは眼下に広がる平原を見下ろし、空を見上げた。


「……ご主人。エーテルの海、まだ遠いかもしれん」


 彼の目的は何か。主人やエーテルの海は何を示すものか。

 レオンの旅は、およそ7年前に始まった。




 レオンの怨返し―LEON SEEKS VENGEANCE―

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