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いじめられっ子エイリアン  作者: Satoru A. Bachman
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第3章 桜舞町の少年たち(Ⅱ)

 第3章 桜舞町の少年たち(Ⅱ)


 ある日、信也は給食の時間に、馬場にデザートのプリンをくれと言われた。だが、信也はプリンを食べたかったから勿論あげなかった。その日は信也にとって人生で最悪の日となった。給食の後にうんこがしたくなったが、なるべく学校のトイレではしたくなかった。小学生の男子にとって学校のトイレでうんこをすることは死を意味する。個室でうんこをしている奴がいると、それを覗いてからかう奴が必ずいる。そして、その後3日間はいびりの対象となる。だから個室に入ることすら勇気がいる。

 昼休みはほぼ毎日、クラスの男子全員が馬場率いるいじめっ子連中に付き合わされてボール当て鬼をやっていた。みんなして嫌いな奴を一人狙いしたり、仲の悪い奴どうし1対1でボールのぶつけ合いになってケンカになったり、これは遊びというよりも日頃のうっぷん晴らしの時間だ。信也もその日、胸騒ぎを覚えつつうんこを我慢しながら仕方なく付き合った。嫌な予感は的中した。案の定、馬場はプリンをもらえなかったことが気に入らなかったようで信也を一人狙いしてきた。執拗にボールをぶつけてくる馬場。

「やめろよ!なんで俺ばっか狙うんだよ」

逃げて息を切らしながら叫ぶ信也。

「お前がうぜーからだよ」

嫌がる信也を見て嬉しそうに笑みを浮かべる馬場。

バコンっ、と逃げる信也の背中にまたボールがぶつけられた。鬼になった信也がボールを拾う。思いきり投げ返す。馬場はそれを楽々キャッチすると、また信也を追いかける。校庭の脇に追い詰められ、逃げ場を失う。そばの花壇に上がり、理科の授業で育てている花々の種が植えられていることもお構いなしにその上を突っ走る。意地でも逃げる。馬場はどこまでも追いかける。校庭を抜け、昇降口を抜け、ついには校舎の裏まで逃げる。息も切れ、とうとう道も行き止まり。信也は後ろを振り返る。そこには勝ち誇ったように右手にボールを持って、左手をポケットに突っ込んだ馬場がにんまりしていた。はっきりとした目鼻立ちで歯並びも良いその悪ガキは笑いながら一歩一歩こちらへ迫ってくる。むかつくが、同じ男から見てもハンサムだと思える。馬場が突然、立ち止まる。

そして、ボールを地面にとんと置く。何をしようというのか。馬場は突然後退し始める。その途端、信也は察しがついた。馬場は助走をつけ始める。あいつはボールを蹴ってぶつけてくる気だ。

「やめろよっ!」

と叫んだときには遅かった。馬場はサッカーのPKさながらのシュートを決め、6-1(6年1組)と書かれたドッヂボールを信也の腹にぶつけた。

ぐはっ。地面に倒れ込む信也。尻の穴から熱い物が噴出し、トランクスを汚してしまった。信也は大声を上げて泣いた。

人生最悪の日。馬場にボールをぶつけられてうんこをチビってしまった日。

いつか馬場をぶっ飛ばしたい信也。だけど、あいつは強い。



 馬場たちがゲートボーイアドバンスSPで通信プレイに夢中になっている隙に信也は隠れていた自動販売機の後ろから出て国道を離れ、住宅地を突っ走った。また桜舞貝塚公園を通って都川を目指した。縄文人が住んでいたという竪穴住居がいくつか再現された広場を抜けた先の川岸に親友と一緒に作った秘密基地があるのだ。緑豊かな桜舞町には子供の遊び場が至るところにある。川岸の芝生に乗り捨てられたポンコツのボートが見えてきた。トルネード号だ。あれこそが信也たちの秘密基地。そのそばに転がっている丸太に杉田知宏が腰掛けて待っていた。

「とも!待たせたな」

と信也。

「よう、信也。やっと来たか」

振り向いてそう言い、微笑む杉田知宏。彼は友人たちからはともと呼ばれている。くりっと大きな目をして天然パーマのともはちょっぴりか弱いが優しくていい奴だ。


 2人でトルネード号と名付けたボートに乗り込み、青空の下、航海している気分で語り合った。しばらくして信也はボートの座席の下にしまっておいたエアガンを取り出した。

「とも、俺、弾買ってきたぜ」

と信也は1800発入りのBB弾をジャンパーのポケットから取り出した。

「お、サンキュー!久しぶりに何か撃とうよ」

ともが嬉しそうに言う。

信也はオートマグⅢのピストルの弾倉にBB弾を込め始めた。ともも座席の下から自分のコルト・ダブルイーグルを取り出し、弾倉に弾を込めた。2人はトルネード号から降りて、川岸とそばのランニングロード周辺に生えている木々を敵軍やエイリアンと見立てて銃をぶっ放した。

「おう、アメ公が来たぞ!バンッ、バンッ」

ともが叫んだ。

「待ってろ!今、援護する。バンッ、バンッ!お、あっちにはキャベツ野郎がいる!向こうからは北朝鮮も攻めてくるぞ。バンッ、バンッ」

信也も叫びながら四方八方に撃ちまくる。

「川の向こうには露助のスナイパーが潜んでいる!」

信也とともは川の向こう岸の芝生に向かって発砲した。

「おい!空にUFOが表れたぞ!バンッ、バンッ」

2人とも今度は空に向かって発砲した。

「うおおお!UFOからビームが!」

「うわあああ、さらわれる!」

こうして2人は夕方までずっと鉄砲ごっこを続けた。





※アメ公(米軍のこと)、キャベツ野郎(ドイツ軍のこと)、露助(ロシア軍のこと)、北朝鮮。これらの言葉を含む台詞は鉄砲ごっこを楽しむ少年たちのうわ言であり、差別や蔑称を意図したものではありません。


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