放課後、道端にて
帰り道、僕は自転車を走らせながら考えた。朝からの違和感の正体を探していた。まず一つ、僕と毬臼が土日に何をしていたのか、2つ目が、今朝のニュースのキャスターが時間を忘れた話、そして、明日廃校に行く話。いきなり降って湧いてきた問題に辟易としている。埋まらない答えを満たすように午後の風が入りこんでくる感じがする。
思考もほどほどにペダルを踏みこむ。傾く日を眺めつつ繁華街から少し離れた道を走っていると、ふいに声をかけられた。
「あっ、献十くん、奇遇だねえ」紙袋を提げている軽市が声をかけてきた。「おっ笑理さん先帰ってたよね」「んーそうだけど買い物してたのがそんなに不自然?」いや、そこまでいてってないの読まないでくれ、と内心思いつつ僕は「いや、別に、さっきの虫取りと比べれば常識的と言わざるを得ないよ」と言った。
「あれも考えがあって、と言ったでしょう。」「いやそれを実行しようとするのが珍しいんだよなー」まあ、そこが軽市らしいとこなんだけどな、と僕は思う。考えるように少し黙って「私はね普通のことをやっていてもつまらないと思うの。」などと軽市は言った。
この会話、僕は彼女が感情を吐露したのに驚いた。不意打ち、と形容したくなる様な気分だった。人の内情など、知りたくもなかった、知ってしまうと無視できなくなるからだ。それはつらい、だから避けたい。そんな猫宮献十のポリシーはこの時破られたのっだった。
「それは、なんで」と返したが、月並みを好み凡庸を愛する僕には看過しがたい言葉だった。それでも、そこで言い争うのすら僕には難しかった。我が強くない。
「私はさ、埋没したまま死にたくないの、70億人の中で埋もれていったっていいとどうして思えるの」そう聞く軽市に僕は、「まあめんどくさいからな、別にダウナー系気取ってるわけじゃないけど」そう思われても仕方ないな。やる気を見せるのはメンドイのだ。
しかし、「めんどくさい、かーなんか嫌いだな。」笑いながら軽く否定された。「嫌いって、どういうこと」多少ショックを受けながら聞いた。「そういう諦め、ニヒリズムみたいなのってつまらないよ。たとえ失敗してでもやってみたほうがいい、紆余曲折だってなければ悟れないじゃない」と教義でも唱えるかのように、決まりきった答えをするように、ただゆっくりと言葉を紡いだのだった。
きっとこの時僕の胸に冷たいものを感じたのは、陽が落ちたからだろう。そう思いながら僕らは駄弁りながら歩いていた。自転車を押しながら歩速を合わせながら歩いたせいか、長い時間に感じられた。
軽市と別れ自転車にまたがり道を進む、些か登下校に時間がかかるのが家の欠点だ。でも孤独は嫌いではない、考えることは孤独でなくてはできない。こんな風に、ドラスティックに捕らえる節が良くないと毬臼にも言われたことがあるなーと思い出していた。
ありがとうございます!