4.歌声
1話あたり1000字程度、全5話同時投稿です。
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謎の余白を削除しました。
旅の魔法使いサッジ•ストレゴーネは、驚くほどの美声の持ち主だ。魔法使いは歌えないとそもそも魔法を使えないのだが、歌手としての芸術性も美声も必須ではない。
「わぁ」
アルレッキーナは思わず小さな歓声をあげる。
音とリズムだけは正確でないとならないが、それとて極端に外れていなければ大丈夫だ。
だから、その場の景色が変わるほどの技量など普通の魔法使いには求められない。
魔法使いの青年サッジは、アルレッキーナの演奏した『星屑』の曲に即興で詩を乗せてゆく。剣士リッターに「夢がある」と言われた柔らかく伸びやかな曲調に、都を目指して旅をする若い画家の物語が寄り添う。
アルレッキーナは口を拭く。給仕にそっと水を頼んで軽く濯ぎ、手も清めると楽器を取った。取らずにはいられなかった。
リッターはパッと顔を輝かせ、待ってましたとばかりに拍手する。気付いた周りの人々に拍手が広がる。2人は席に座ったまま、気楽な様子で演奏した。
サッジの歌には魔法がなかった。純粋に素晴らしい歌であった。そこがアルレッキーナの心を大きく揺り動かしたのだ。
(この人が紡ぐ魔法はどんなにか素敵なことだろう)
そんなことをチラリと思いながら、アルレッキーナは頭部管を僅かにいじって小さな音でチューニングを終えた。
ふるさと遥か
星屑はふる
今宵もひとり
星空のもと
夢見る男の
絵筆が走る
歌は単純で短いフレーズがいくつか組み合わされている。最初と最後がつながって何回でも演奏出来るのは、村祭りで踊りの伴奏になるからだ。
サッジが描く歌の世界は、歌い出しがリフレインになっていて、続く部分で物語が展開してゆく。この国のバラードによく見られる技法である。
アルレッキーナは三本指を上手に操り、滑らかなメロディーで控えめな演奏をした。一人で曲を披露した時と違い、楽器はあくまでも歌の引き立て役に徹する。
リフレインには手拍子がおこる。すぐに覚えて多くの人が共に歌い出す。剣士リッター•ヴァンダーシャフトも温かな低音でリズムを支える。
ふるさと遥か
星屑はふる
今宵もひとり
星空のもと
夢見る男の
絵筆が走る
何度目かの繰り返しで、物語の画家はついに都にやってきた。
憧れの
色は踊るよ
都の空に
都乙女のスカーフに
踊る小花の愛らしさ
描かせておくれよ娘さん
絵筆片手に歌う街角
ふるさと遥か
星屑はふる
今宵もひとり
星空のもと
夢見る男の
絵筆が走る
「もう一回」
素早く挟まれたサッジの掛け声が曲の終わりを予告する。
ふるさと遥か
星屑はふる
今宵もひとり
星空のもと
夢見る男の
絵筆が走る
リフレインをもう一回歌い、若い絵描きの物語は閉じた。
一瞬の空白を経て、その場は拍手と歓声に包まれた。杯を掲げて乾杯する声もあちこちに湧き上がった。
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