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3•乾杯の後で

1話あたり1000字程度、全5話同時投稿です。

よろしくお願いいたします。



 数曲終わる頃には、リッター•ヴァンダーシャフト青年はアルレッキーナ•ブフォンの奏でる楽しい曲に夢中であった。


 ひとしきり拍手をし、帽子を持って回ってきたアルレッキーナに話しかける。


「アルレッキーナさん、素晴らしい音楽でした。一杯奢らせてくれませんか?」


 旅芸人にとって、驕りはお祝儀のうちだ。


「ありがとうございます!」

「頼んでおきます。お祝儀を集め終える頃には届くでしょう。何か食べたいものは?」


 リッター青年は食べ物まで取ってくれるという。


「では、貴方のお勧めを」

「看板メニューを頼んでおきましょう」

「ありがとうございます」

「では後ほど」

「はい!」



 この町は毛織りの町で、とくに名物料理はない。豆と野菜のスープ、きめの粗い茶色いパン。厚手の焼き物で出来た片手コップには、並々と注がれた穀物酒。黄金色に泡立つこの酒は、多少の違いはあれど大陸中どこにでもある。


 看板メニューは子羊のロースト。網焼きにした子羊が数切れ、分厚く切られて木皿に乗ってくる。裏庭で育てたいろ鮮やかなベリーのオレンジ色をしたソースは、甘味と酸っぱさの中にピリリと胡椒が効いている。


「さあ、乾杯しましょう!」


 リッター青年はテーブルに戻って来たアルレッキーナにずんぐりとした片手コップを差し出すと、自分も同じ酒杯を持ち上げる。


「では、遠慮なく」


 アルレッキーナが腰を下ろして穀物酒のコップを受け取る。互いににっこり笑って杯を合わせると、カツンと陽気な音がする。


「この町にはいつまで?」

「そうですねえ。次の宿代が貯まるまでかな」

「アルレッキーナさんならすぐじゃないですか?」

「今日はたまたまですよ」


 そうなのだ。

 今夜はリッターから奢られた他にも、御祝儀を弾んでくれるお客さんが多かったのである。


「実力ですって。『星屑』は夢がありましたし、『二重橋』は明るくて『乙女と龍』は壮大ながらも可憐でした」


 リッター青年は酒も手伝ってか、アルレッキーナの演奏した曲について滔々と語りだす。どれもアルレッキーナの故郷ではお祭りのダンスに使われる軽い曲なのだが。



「ねえ、さっきの曲に歌詞はあるの?」


 唐突に小柄な青年が話しかけてきた。髪は中途半端に伸びている。片手に穀物酒、片手に煎り豆。豆はこの地方でよく見かける細長く茶色っぽいものだ。


「え、歌詞は特にないけど」


 アルレッキーナは戸惑いながら、そのうねる赤毛をした青年が向ける薄青色の双眸を見た。


「じゃあ歌うからさ、もう一度やってよ」

「えー?」

「きみ、失礼だね」


 赤毛の青年は人懐こそうににっこり笑うと、2人の戸惑いをものともせずに歌い出した。

 途端に宿屋の食堂が、満天の星を戴く夜空を見上げる草原となった。



お読みいただきありがとうございます

続きもよろしくお願いいたします

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仙道企画その1
バナー製作猫じゃらしさん
― 新着の感想 ―
[良い点] 豆と野菜のスープ、きめの粗い茶色いパン。厚手の焼き物で出来た片手コップには、並々と注がれた穀物酒。黄金色に泡立つこの酒は ⬆⬆⬆ なんでしょね?めちゃめちゃ旨そうなんだよなぁ〜 素焼のコ…
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