序.旅芸人の少女
1話あたり1000字程度、全5話同時投稿です。
よろしくお願いいたします。
表記のゆれを修正しました。
元気な少女が草原を歩いてゆく。
低い位置で二つ結びにした灰色がかった金髪に緑の目。
ゆったりした筒袖のチュニック。袖、裾、襟ぐりには葉っぱの連続模様が刺繍されている。つば広の道中帽子は茶色い革に花柄が焼きで入っている。足元を見れば、緑のブーツに繊細な花柄が描かれていた。
踊るように軽やかに、幅の広い袖をはためかせて進む。遠い山並みへ届けとばかりに伸びやかな歌声も好ましい。
少女は歌の合間に三ツ孔の片手笛を吹き、歌や笛に合わせて腕に掛けた太鼓を叩く。
野うさぎが跳ね小鳥や蝶の遊ぶ叢は、やがて緩やかな丘陵を作り高く白い塀へと導く。少女の足元では、驚いて逃げ出したバッタやてんとう虫が、小さな羽を出したり引っ込めたりしている。
「今日はー!」
少女は元気に門番へと話しかける。揃いの黄色い上着をピシッと着込んで、門番2人は身の丈の2倍はありそうな巨大な門の前に並んで立っていた。
「毛織の町ヨトへようこそ」
「旅行手形はお持ちでしょうか」
2人の息はピッタリだ。まるで1人が話しているように、声まで似ている2人組だ。
少女は太鼓にバチをさして片手を空けると、キレのある動きで首にさげた通行手形を取り出した。小さな四角い板に「アルレッキーナ•ブフォン」とだけ書いてある。
旅芸人などそんなものだ。彼らに市民権も故郷もない。どこかの村か町で気に入ってくれた貴族や役人が、簡易通行手形を発行してくれるのだ。
木片は魔法木と呼ばれる特殊な樹木から作られている。通行手形を作成出来るのは魔法職人という専門職で、国際資格を持っている。
彼らの刻む名前は、必ず本名しか示さない。犯罪を犯すと色が変わるので、町の門や国境を通過しようとすればすぐに捕まる。
もちろん高価な技術だが、これまた国際法で通行手形を求める者に対価を課してはならない決まりがあった。
それは、全て自治体の一般会計から一旦支払われ、国際魔法連盟本部から後日払い戻される。国際魔法連盟は各国の税金で運営されているため、つまりは使用者が支払っていることになる。旅芸人も通行税やら興業税やらを支払うので、通行手形を発行して貰えるのだ。
「確認致しました」
「どうぞお通り下さい」
2人組はすっと真ん中を空けて横にずれる。ずれて両方から手を伸ばす。見上げる程に大きな門の下方、2人組で隠れていた場所には、普通サイズの扉があった。観音開きの頑丈そうな戸である。
2人組に開けてもらうと、アルレッキーナはいよいよ壁の中へ入った。扉の向こうは短いトンネルになっている。中には小さなテーブルがあり、手荷物検査官がいた。
腰の袋に笛をしまい、テーブルに太鼓を置いたアルレッキーナは、背中の荷物を下ろす。旅人らしくコンパクトな荷物を係員が無表情で検閲する。
「はい」
と短く促され、アルレッキーナはトンネルを進む。突き当たりには重たい木の扉があって、内側に座る係員が合図を送ると外側の門番が扉を開けてくれた。重たそうなのに軋みもしない。きっと魔法の効果なのだろう。
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仙道企画その1参加作品です。
仙道アリマサさんの課題曲を自由に使って作品を書くという企画です。
この作品は、全体を「ロングバージョン」のイメージで書きました。最終話では、ロングバージョンに合わせて歌える歌詞も作りました。