表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄対策室  作者: 神楽 紫苑
1/4

事案発生

初夏の夜…

美しく着飾った男女はその表情を隠すかのように仮面を纏う。

今夜は未婚の男女が集う仮面舞踏会マスカレード

身分と名前を偽った男女が囁き合う中…一人の男が叫んだ。


「ミシェル・ブラウニー侯爵令嬢!!君との婚約は破棄させて貰う!」


覚えのある声に思わず目を向ければ、そこには何故か俺に指をさして睨みつける…かつての友がいた。

この匿名で参加する仮面舞踏会にて俺の妹の名を叫んだのは、紛れもなく…このルイード・ガルシャラ侯爵子息だったのだ。




ーーーーー仮面舞踏会・三日前


久しぶりの休暇で屋敷にいた俺は主君からの手紙で職場に呼び戻された。

リラクレア王国の王城…第三王子殿下の執務室に足を踏み入れると、我が主のヨハン・リラクレア殿下が執務机で嬉しそうに笑みを浮かべる。


「いやぁ、休みのところ申し訳ないね…ミカエル。」

全く悪びれる事なくそう告げたヨハン殿下は、手元の書類を俺に差し出した。


ーーーー婚約破棄事案・調査報告書(極秘)ーーーー


この婚約破棄事案というのは第三王子殿下の執務の一つで、十数年前から流行り出した小説の影響で貴族の間で年に数回は行われる婚約破棄を王室が秘密裏に調査及び処理をしている。

元は次期国王陛下の王太子殿下が発足し、第二王子殿下、第三王子殿下へと引き継がれたものだ。

王太子殿下とヨハン殿下は15歳と年が離れており、第二王子殿下とヨハン殿下は2歳差。

そして彼らは全員が腹違いの異母兄弟だ。


王太子殿下も第二王子殿下も16歳で婚姻を済ませている中、ヨハン殿下は俺と同じ21歳で未だ婚約者すら居ない。

婚約破棄事案を任されてから更に婚期が遅れているように思うが…そういう俺も婚約者は居ない。


婚約破棄対策室室長は俺より一つ年上の侯爵家長男で、既婚者だ。

その室長は俺と目が合うと申し訳なさそうな顔を向け、その表情に俺は首を傾げる。


今までも休暇中に呼び出される事はあっても、こんな顔をした事がなかったからだ。

そもそも彼は表情筋をあまり必要としていないタイプで、常に何を考えてるのか分からない。

そんな彼を不思議に思いながらも俺は手元の書類に目を通した。


この事案は室長と数名で調査されていた物…俺が関わっていなかったのは同時期に別件の調査をしていたからだ。

見たところ既に調査を終えており、令嬢側には何ら問題は無かったという。

つまりは婚約してる男側が勝手に浮気して、その相手とくっつきたいが為に罪をでっち上げたのだ。

それを正当化する為に社交場である夜会やら舞踏会で婚約破棄を宣言しようとしているらしい。


両家の親同士は話し合いを済ませ、男側の家からは賠償金も支払われる手筈も整っている。

そればかりか、令嬢には既に新しい婚約者も紹介済みなのだとか…さすがは室長だと俺は最後の頁を捲り…目を疑った。


残すは婚約破棄を宣言する場での対処となるのだが……その場所がまさかの仮面舞踏会。

おいおい…と頭を抱えたのは言うまでもない。


匿名で参加する仮面舞踏会で名前など出されたら醜聞どころの話ではないのだ。

だが、そもそも婚約破棄対策室では断罪劇を最後まで行わせなければいけないという謎の決まり事がある。

こんな事を考えてる時点で貴族としては問題だがそれを実行しようというのだ。

権力を振り翳し、相手を貶める行為。

まわり回って王家を敵にすると考えられているからこそ、王室が自ら調査してる訳で。


その分の賠償も相手方から上乗せにはなってるらしい。

今回は特に賠償金の額が多いなとは思ったが…まさかの仮面舞踏会とは。


「さすがに仮面舞踏会だからね、令嬢ご本人に参加してもらう訳にはいかないんだよね。そこで…ミカエルに白羽の矢が立ったと言う訳だ。」

ニコニコ顔の主君はどうやら俺に令嬢の身代わりをさせたいらしい。


「お相手の令嬢とミカエルは背格好も似てるし、髪も目の色も似通っていてね。特に今回は仮面舞踏会だから髪の色は何とかなっても目の色だけは誤魔化せない。」

そう…今までも同じように身代わりになった事があるのだが、その時は全く似てなくてもカツラと化粧で誤魔化せた。

だが、顔の半分を覆う仮面を被らなければならない為…どうしても瞳に目がいってしまう。


つまり、休暇中だが俺しか出来ないって事らしい。


「ドレスや装飾品は既に妹君であるミシェル嬢に話は通してあるからね。」

…なんて根回しの良い事か。

俺より先に妹ミシェルに話を振ってる辺り、俺に拒否権は無いらしい。

まあ、仕事だから拒否もしないけども。

だが…なぜ妹のドレスを?

確かに女装するにあたり、妹はいつも協力してくれてはいるが…。


「じゃあ三日後、最終調査と報告を忘れずに!心細いといけないから、ラファエルも助っ人で会場入りさせておくよ。」

そう言ってヨハン殿下は隣に座る室長に目を向けた。

室長は申し訳なさそうに眉を寄せ「宜しく頼む。」と一言告げてきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ