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3 憧れの女性を汚す奴はボコる

 九時過ぎだが、ビルの2階には明かりがついている。

 消費者金融は大手じゃなくて、聞いたことのない会社名だ。

 この辺で小規模にやっている会社なんだろう。


 ビルの前で木下支店長が待っていた。ペコペコお辞儀をする支店長を見て、穂香ちゃんもようやく僕の話が嘘じゃないと実感してきたようだ。

 支店長から金を受け取って、待っているよう指示した。

 

 僕はドアを蹴破るような勢いで店の中に乱入する。穂香ちゃんが続いて入る。


 中年の男がカウンターに出てきた。

 顔がイボだらけで脂ぎっている。お腹も突き出ていて、ガマガエルのように気持ち悪いことこの上ない。


 横目で穂香ちゃんを見ると、表情を曇らせている。こいつが担当者か。

「これはこれは、山岸さん、どうなさったんですかぁ?」


 男は僕、穂香ちゃんを順番に見る。

「今は初出勤の時間のはずですなあ。お客様が山岸さんを気に入って延長料金のお金がご入用になったのですかねぇ」


 下卑た笑みを浮かべた。

「あいにく未成年にはお金を貸せないんですよ、うぷ」


 うるさい口を封じたくて、僕は1千万円の札束を顔面に叩き付けた。


 ガマ男は後退りながら、札束を手に取った。


「穂香ちゃんの借金、きっちり返すからな、借用書を渡せ」

 この店の借用書こそが穂香ちゃんを身体を売らせた元凶だ。確実に処分して、二度と穂香ちゃんと関わりを持たないようにさせないといけない。


 ガマ男は札束をしげしげと見た後で

「あなたは山岸さんとどういうご関係で」

と不審な目を向けてくる。


「お前には関係ないだろ」

 金貸しにはタメ口で十分だ。ガマ男はムッとして睨んでくる。


「山岸さんには、何年も働いてもらって、この金額の何倍も儲けさせてもらうつもりだったんですがねぇ」


 デリヘルで穂香ちゃんが働いても、借金はなかなか減らない。返すまでに時間が経てば経つほど返さないといけない金額が増える蟻地獄にハマっていたのだ。


「早くしろ。お前と同じ空気を吸いたくない」

 ちょっと前までなら僕は大人の男にタンカを切るなんてありえなかった。でも穂香ちゃんを守るための戦いだから、怖さなんか感じない。


 ガマ男は鼻を鳴らしながら、奥に行った。


 穂香ちゃんの方を振り返る。穂香ちゃんは緊張した面持ちで手を握りしめていた。


「あいつが穂香ちゃんにデリヘルで働けって?」

「う、うん、いい業者さんを紹介してやるっていわれて、断れなかった」


 ガマ男は穂香ちゃんを含む多くの女性を泣かせてきたんだろう。やはり金を返すだけじゃ済ませたくない。


 どうすれば正義の鉄槌を食らわせてやられるか。考えているうちにガマ男が書類を持って戻ってきた。

「山岸さんの借用書に領収書ですよぉ」


 忌々しそうに突き出してくる。引ったくって借用書を穂香ちゃんに渡す。

「これで間違いない? しっかり確認して」


 穂香ちゃんはじっと書類に目を落としてから

「これだよ、これが私の借金の全部だよう」

震える声で答えた。


「よし、いいか、二度と穂香ちゃんと関わるなよ」

 ガマ男に指を突きつけて宣告する。ガマ男は眉根を寄せながら言う。


「へえぇ、山岸さんとは今晩一緒に寝る約束をしているんですけどねぇ。勤務先の学校にバラさないよう口止めする約束で。ひぇひぇひぇ」


 それを聞いて絶句した。このキモい男に穂香ちゃんが抱かれる。そんな最悪の事態が起きる所だったのか。


「いいんですかねぇ、学校に知られても。クビになりますよぉ。すると風俗で一日中働くしかありませんよねぇ」

 ガマ男が話を続ける。


 穂香ちゃんが一度でもデリヘルで働いたことでガマ男に弱みを握られてしまった。穂香ちゃんはうつむいて縮こまっている。


 絶対絶命だ、と穂香ちゃんは感じている気がした。

 どうする。どうすればガマ男が学校に言うのを防げる?


 こいつの口を塞ぐことなんか不可能じゃないか。

 でも、どうにかしないと、穂香ちゃんは憧れの先生ではいられなくなる。


 僕はガマ男に向き合う。


「いいか、穂香ちゃんは僕が買ったんだ。これからは僕が穂香ちゃんを体で稼がせる。学校なんかもう関係ない。言いたきゃ言えよ」


 こっちはお前以上の極悪人だ、そう思わせるしかガマ男を抑え込めない。


「こ、子供が言うことと思えませんね」

 ガマ男は動揺している。ハッタリだと思われないように僕は言葉を浴びせる。


「穂香ちゃんにちょっかい出したら、お前の命がなくなるかもよ」

 1千万もの金をポンと出せるからには、僕のことをガマ男はただ者ではないと思っているだろう。ヤクザの親分の息子とでも勘違いしてくれればいい。


「ほ、ほぉぉ」

「わかったか」

 念押しする。


「わかりましたよ、トラブルは御免ですからね」

 ガマ男が諦めた様子で、ホッとする。


「行くよ、穂香ちゃん」

 長居は無用。穂香ちゃんの手を引いて出て行く。


 ◆◇◆


 店の外に出ると木下支店長が待っていた。歩きながら話す。

「支店長、金貸しの弱みって何?」

 

 さっき考えていたことは自分では結局思いつかなかった。金貸しのことは金貸しが一番詳しいだろう。

「そ、それは……」

 木下支店長が言葉を濁すから何か知っているんだろうと直感する。


「教えて」

「……消費者金融は人に貸し出すお金がないと仕事になりません」

 木下支店長は渋々答えるが、それのどこが弱点なのか理解できない。


「んん? お金持ってんじゃないの?」

 金貸しはお金が余るほどあるから、人に貸しているのだと思っている。


「いいえ、実は自分のお金は大して持ってないんです」

「へえ、じゃあ、あいつらはお金をどっから持ってきてるの?」


「……銀行です。銀行から金を借りて、それを人に貸しているんです」

 知らなかった、金貸しは実は金借りだったとは。


「ええと、じゃあ銀行から金を借りられなくなるとどうなるの?」

「貸し出すお金がなくなったら仕事になりません、倒産です」


 木下支店長は確かに金貸しの弱点について話してくれていたのだとわかった。

「いいねえ、さっきの店が金を借りられなくできないもんかな」


 さらに質問すると、木下支店長が押し黙った。

「ねえ、どこの銀行から金借りてるか、支店長だったら調べられるよね」


「……じ、実はうちの支店です」

 木下支店長が言いづらかったことを白状する。自分の支店のせいで、僕がトラブルに巻き込まれてしまったから、居心地悪いだろう。でもまあ、これで話は早くなった。


「すぐにあの店の金を返させて、息の根を止めて」


「う、それは」

 木下支店長が苦渋の表情を浮かべる。


「できないの?」

「緒方様には申し上げにくいのですが、あの消費者金融への貸し出しはかなり儲かっておりまして、それを無くすのは当支店の業績にかなりのダメージでして」


 支店長は歯切れが悪く、つまり止めたくないということだ。

 そりゃ儲かるよね、穂香ちゃんのような女性に身体を売って稼がせているんだから。


 銀行もおこぼれに預かっていたわけだ。腐った商売をする奴らに吐き気がしてくる。銀行もまとめて潰してやりたくなるが、まずはガマ男の店だ。


「じゃあ支店長、僕があの金貸しの店以上に儲けさせてあげたら、金を貸してやるのを止めてくれませんか」

「そ、それは」


 木下支店長の目が泳ぐ。どっちが得か考えているんだろう。


「何かありませんか、僕が支店を儲けさせる方法」

 うりうりと肘でつつく。


「では、投資信託を十億円ほどご購入いただけるのでしたら」

「オッケー」


「ありがとうございますっ」

 一転して支店長が満面の笑顔になる。


 きっとすごく僕に吹っかけていて、金貸しよりも何倍も儲かるのだろう。

 気前が良すぎたのかもしれないが、まあいいや。


「……でも、他の銀行からお金を借りるんじゃないでしょうか」

 穂香ちゃんが話に割り込んでくる。恐怖で震えていたのが落ち着いてきたのかな。


「そうだよ、穂香ちゃんの言う通りで支店長が金貸すの止めても他から借りられたらダメじゃん」

 他の銀行全てにあの金貸しと付き合わないよう圧力をかけないといけないのだろうか。できなくはないかもしれないが、なかなか大変そうだ。


「いいえ、お金の貸し借りというのはそう簡単ではありません。信用が大事なので、これまで付き合いのない他の銀行がすぐに貸すはずはないのです」

 木下支店長が説明する。


「ほんと?」

「ええ、まして当支店と取引停止になった金貸しですからね。他の銀行は警戒して、絶対に貸さないでしょう」


「じゃあ、あの金貸しは倒産するんだ?」

「確実に」

 木下支店長が断言する。


「あの金貸しで働いている社員はどうなるの? 他の金貸しに転職するんだと嫌だな」

 倒産してすぐにガマ男が再就職したら、苦しめたとは言えない。


「消費者金融業界は規制が厳しくなって、どこもリストラをやってるくらいですからね。転職は難しいでしょう」

 気持ち悪いガマ男を雇うまともな会社があるとは思い難い。


 ふふふふふ、ざまあみろ、ようやく気分が晴れてきた。


 さらに、冨樫さん達不良グループに、ガマ男を闇討ちしてもらっとこう。

 指の骨を全部へし折る激痛を味わわせて、僕の大事な穂香ちゃんを汚そうとした罪の重さをわからせてやる。


 さて、残る課題はと……


「山岸プレスの借金三億円と穂香ちゃんの奨学金。僕の金で帳消しにしといて」

「かしこまりました」


 木下支店長と僕のやりとりを、穂香ちゃんは、ぽかーんとして聞いている。現実の出来事と感じられていないのだろう。

 全ての話がまとまって木下支店長とは別れた。


「穂香ちゃん、家まで送るよ」

 ガマ男が付き纏うことはないと思うけど、念のため穂香ちゃんのボディガードを務めることにする。


「う、うん、ありがとう」

 穂香ちゃんは素直に応じてくれた。まだ心細いのだろう。

 

 穂香ちゃんの家……当たり前のように言っちゃったけど、なんかドキドキしてきた。

お読みいただきありがとうございました。


ブラックな奴らって、いくらボコってもいいから気持ちがいいですね。

ゾンビ映画でゾンビを良心の呵責なく吹き飛ばすようなものでしょうか。

どんどんボコっていきます。


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