3 イワナのつかみ取り
「あんちゃんたちの人数で50匹っちゃあ初めてやちゃ。川に行っとられ」
方言丸出しのおじいちゃんは笑って、手網とバケツを持って、水槽に行く。
僕たちは方言がわかるので、川に向かって小道を降りていく。
川辺は岩や小石がゴツゴツしている。
僕たちは靴と靴下を脱ぎ、素足になる。長ズボンの僕と穂香ちゃんは裾をまくった。
「久しぶりだな。ワクワクするよ」
穂香ちゃんも興奮している。
「先生はいつ、つかみ取りをやったんですか」
志乃ちゃんが尋ねる。
「中学校の時……楽しかったな」
懐かしい思い出って感じだ。
上杉さんは困った顔をしている。ワンピースの裾が水に濡れそうだ。
「しょうがないわねー 車の中で着替えてくる」
上杉さんはトタトタと戻って行った。
入れ違いで、バケツを持ったおじいちゃんがやって来る。
「ほらっ」
バケツを川に傾ける。イワナが一斉に放たれて、すごい速さで泳いで行く。
イワナはあっという間に岩陰に隠れてしまった。
でも目で追っていたからどこに隠れているかは見当がついた。
「残り半分また持ってくるちゃ」
おじいちゃんは引き返して行った。
「よし、行こう」
僕は川に足を入れる。水深は30センチくらいだ。
「何匹捕まえられるか競争だよ、虎児郎」
美沙がパシャパシャと川に入っていく。
「私もやる」
童心に帰ったような穂香ちゃん。
イワナを捕まえるのは結構難しいからな。競うのが楽しみだ。
「やったあ」
早速、志乃ちゃんが近くの岩の隙間に腕をつっこみ、引き抜いた右手がイワナを握っている。
「すごーい」
「ふふ、どんなもんだー あ、あれっ」
得意げにする志乃ちゃんの手からイワナがヌルりと抜け出していく。宙でまた捕まえようとした志乃ちゃんをすり抜けて、イワナは川に落ち、ぴゅーっと泳いで逃げていく。
「はは、イワナは滑るんだよな」
ヌルヌルしているのだ。
動きが早いことに加えて、滑るから捕まえても生簀まで運ぶのは容易ではない。
50匹捕まえるにはかなり頑張らなくちゃな。
「それっ」
美沙が捕まえた。
ピチピチするイワナを両手で握る。
美沙は岸辺に向かってゆっくり歩く。
岸に岩を並べて水槽みたくしている。そこが生簀で、捕まえたイワナを放っておくのだ。
「やるな」
僕も負けてられない。
岩の隙間に手を突っ込む。いるいる。
蠢くイワナを握りしめた。
「やったぜ」
逃げられないようしっかり両手でキープして、生簀に運ぶ。
志乃ちゃんも穂香ちゃんも捕まえてきた。
2人ともニコニコだ。
生簀に放ってから振り返る。
美沙がしゃがみこんでいる。
「よしっ」
また1匹捕まえたようだ。
美沙の胸元でイワナがピチピチと尾を揺らしている。
「あ、あ、あれれ」
美沙の手から、すぽっとイワナが上に抜け出す。宙でつかまえようとするけど、イワナは美沙の手の平でバウンドしまくる。
そしてなんとイワナは美沙の首筋からTシャツの中にスルリと滑り込んで行った。
「ひゃああああああ」
美沙が悶えまくる。おっぱいや腹の辺りをイワナが跳ね回っているっぽい。美沙が巨乳だから、Tシャツのネックラインに隙間があったのだな。
なんてエッチなイワナだ。けしからんな。僕もイワナになって美沙の服の内側でピチピチしたいよ。
美沙はTシャツの裾をまくって、ようやくイワナを外に出す。イワナはぽちゃんと川に落ちていった。
「はあ、くすぐったかったあ」
「相変わらずドジだなあ」
僕は笑いかける。
「ううう」
「くじけるな。俺たちの戦いは始まったばかりだ」
「そうだよね。こらー」
美沙がイワナを追いかけていく。もうどいつがエッチなイワナかわかんなくなっているけどね。
ふと岸辺を見ると、上杉さんが戻ってきた。
上杉さんは白いTシャツとショートパンツに着替えた。長いツインテールの髪もお団子のようにしている。
ますます小学3年生の子供って感じ。
サンダルを脱いで川に足を浸す。
「ひゃ、冷たい」
「大丈夫ですか」
僕は歩み寄って声をかける。
「川遊びなんて初めてだよー」
英才教育を受けた人だからな。友達はゼロだったらしい。大自然で遊んだことなんかないんだろう。
「子供が川遊びで死ぬニュースをよく目にします。気をつけて下さい」
「ふん、私は子供じゃないもんねー」
というものの、上杉さんの身長では膝まで浸かってしまう。
上杉さんはぎこちなく一歩ずつ川の真ん中の方に行く。
心配だから、そばについていてあげよう。
上杉さんは大きな岩の水面下を探っている。
岩と岩の隙間に隠れていることが多い。
「あ、動いた」
上杉さんが両手を突っ込む。
多分、上杉さんの小さい手では片手で捕まえられないからな。
「わ、いるいる」
指先にイワナが触れているようだ。
「捕まえたっ」
元気な声で上杉さんが両手を引き抜く。
手の中にはイワナが握られている。
「おお、やりますね」
こんなにすぐに上杉さんが一匹捕まえるとは思わなかった。
「ふふっ 私だってやればできるのよ」
「いや、別にできないとは言ってませんよ」
微笑ましく見ている僕の横を通って、上杉さんが生簀に向かう。
その時、イワナが急にピチピチッと暴れ出した。
「うわわ」
びっくりする上杉さんの手からイワナが抜け出す。
宙に浮いたイワナを上杉さんがつかもうとするが前に倒れ込む。
僕には、上杉さんが足元の石につまづいてコケる様子がスローモーションで見えた。
バシャアアアアア
盛大な水飛沫を上げて、上杉さんは川の中に倒れた。
「上杉さーん」
僕は駆け寄って、上杉さんの二の腕をつかんで引っ張り上げる。
「けほっけほっ」
上杉さんはむせまくって、口から水を吐き出す。
上杉さんはずぶ濡れで、Tシャツが肌に張り付いている。
びしょぬれのロリっ子……
マニアが見たら泣いて喜びそうな姿になってしまった。
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