第1巻 VS超巨大ブラック企業~美少女の顔をした悪魔と一緒に無双する~1 デリヘル呼んだら……【挿絵付き】
金があったらやりたいこと。
女だ。
美沙は確保しているけど、他にもたくさんの女と遊びたい。
とりあえずコンビニバイトは速攻で止めてやる。
「ハゲッ 虎児郎だけど、バイト辞める。今日からもう行かないからなっ」
「い、いきなり何だい。辞めるなら、代わりのバイトを紹介するルールだろう」
「知るかっ」
なんでバイトが辞めるのに、代わりを自分で探さないといけないんだよ。
これだからブラックバイトは嫌だ。
一方的に電話を切ってやる。
すがすがしい気分だ。
だが、ハゲから受けた数々の仕打ちからすると辞めるだけでは許しがたい。
ハゲには報いを受けさせねば。クラーケンもな。
奴らを破滅させるほどの復讐はおいおい考えることにして、今は……
女、女、女、女、女。
放課後、児童養護施設に帰ると相部屋には他に誰もいない。
スマホでデリヘルを調べる。
以前はデリヘルのサイトはエロ本代わり。
女性とエッチなことができたらなあと妄想するためだけのものだった。
でも今や、実際に女性とエッチなことができると思うと胸の高まりを抑えられない。
地元が営業エリアのデリヘルのホームページを見て回る。
記念すべき最初の相手は記憶に残る美人がいい。
デリヘルは本番禁止という建前らしいが金を積めば何でもありだろう。
鞄には五百万ほどあるのだ。
とある女性に目を止める。
アリスちゃんという名前の二十台前半の子は、目を手で隠しているが、髪型、口元が穂香ちゃんに似ている。
スリーサイズは88-58-84のFカップ。これが嘘じゃなければ文句なしのいいカラダだ。
紹介文には『今夜初出勤。業界経験皆無の私をあなたの好みに育てて下さい』とある。
あまりエッチが上手じゃないのかもしれないけど、憧れの穂香ちゃん似であれば初めての女として不足はない。この女に決めた。
デリヘル業者に電話を掛けてアリスちゃんを指名した。待ち合わせ場所は親不孝通りと言われている県内で一番大きな歓楽街で、ラブホテルがたくさんある辺りだ。
私服に着替えて、職員さんに今日は遅くまでバイトと嘘をついて出掛ける。
日が暮れてからラブホテル街の入り口で待つ。
警官に補導されないよう時折周囲を見回した。
ちょっと早めに来てしまったせいで待ち遠しい。
これから来る女はどれくらい穂香ちゃんに似ているのだろうと期待した。
本当にそっくりだったら穂香ちゃんとエッチなことをした気分になるのかな。
「す、すみません、お、お待たせしました」
背後で緊張しまくった声がした。あれ? どっかで聞いた声? 振り返ると、
「は、はじめましてアリスです」
笑顔を取り繕った女と目が遭う。え、ええええ―――
お互いのけぞった。
「穂香ちゃん!?」
「虎児郎君!?」
本人だった。
なんで教師の穂香ちゃんがデリヘル? うちの学校の給料が安くて夜の副業? 頭の中が?マークでいっぱいになる。
びっくりしたのは穂香ちゃんも同じで、凍りついている。
「あの、ええと」
言葉を探していると、穂香ちゃんが我に返った。
「こ、こっちに来て、虎児郎君」
腕を引っ張って歩いていく。向かう先はラブホテルだ。
「……利用の仕方は一応説明されたけど」
穂香ちゃんは独り言を呟きながら窓口で空き部屋の番号を告げる。
鍵が差し出されると穂香ちゃんはひったくるようにしてつかんで、また僕を引っ張っていく。
エレベーターの閉まるボタンを連打する穂香ちゃんはめちゃめちゃ焦っている。
僕の方は穂香ちゃんがデリヘル嬢だったというショックから放心状態だ。なすがままに穂香ちゃんに付いていく。穂香ちゃん似の女性を選んだのがバレて恥ずかしい気分もある。
部屋に入るとムーディーな音楽が流れていた。照明は薄暗いがベッドの掛布団のツヤが怪しく光っている。
向き合って立つ穂香ちゃんが軽く胸を指でつつく。
「さ、虎児郎君がなぜデリヘルを利用したのか説明してくれるかしら?」
「それは……先生の方こそ、なんでこんな仕事をしてるんですか?」
「先生はいいのよ、大人だから、あなたは未成年でしょ」
強引にごまかそうとしている。
「んなわけないでしょ、教師がやっていい仕事じゃない」
学校にバレたら確実にクビだろう。
「……私を脅すのね……」
「へ?」
「学校に黙っておいてやるから、やらせろ、そういうことね」
一人でいじけている。教師の穂香ちゃんは毅然としたところがあるけれど、今の穂香ちゃんはおかしい。他人に知られたくない一面を見られたんだから狼狽えても仕方ないけど。
「いいわ。させるから、学校には黙っていてね。約束よ」
「えええ!?」
穂香ちゃん似の女性とはするつもりだったけど、穂香ちゃん本人とするつもりはなかった。
硬直していると穂香ちゃんがそっと腕を回して僕を抱きしめてきた。僕の方が少し背が高い。穂香ちゃんが小首をかしげて上目遣いに見てくる。いい香りが鼻孔をくすぐる。
「でも初めてのお客さんが虎児郎君でよかったのかも」
そう呟く口が近づいてくる。キス? 穂香ちゃんとキス?
唇どうしが触れ合うまで体感的にはあと1ミクロンというところで僕は頭を引く。そして穂香ちゃんを引き離した。
「ま、待って」
「まさか、一回させるだけじゃ物足りなくて、私を一生あなたの奴隷にするつもり?」
本当に今日の穂香ちゃんはどうかしている。落ち着きがなく、被害妄想に捕らわれた別人のようだ。
そういえば本日初出勤、業界未経験とある。僕が初めての客と言ってたし、デリヘル嬢になりたてで、体を売ることに気持ちの整理ができていないのか。
「もう見てられないよ」
首を振る。
僕が何を望んでいるかわからないようで、穂香ちゃんは不安げな視線を向けている。
「穂香ちゃんはさ、僕の憧れの先生なんだよ。僕を助けてくれた、恩人だ」
僕は穂香ちゃんの手を引いてベッドに並んで腰かける。
「どうして穂香ちゃんがこの仕事を?」
横を向いて尋ねると穂香ちゃんはむっとする。
「あのね虎児郎君、事情を聞くもんじゃないよ。おっさんみたいに女に同情してるふりをしながら実は見下して興奮するなんてマネはしないで。私はお金を儲けたい、それだけのことなんだから」
早口で言い切った。誰かに言われそうなことだから、事前に考えておいたんだろう。
「……しつこくて悪いけど事情を教えてよ。僕が力になれるかもしれないからさ」
「虎児郎君が……?」
僕が大金持ちになったことを穂香ちゃんは知らない。口には出さないが児童養護施設のド貧乏で、バイトで貯めた金で女を買うクズ野郎だと思っているだろう。力になれるはずないと呆れている。
穂香ちゃんがすっと立ち上がる。
「先にシャワー浴びてくるね。一緒に入りたかったらどうぞ」
穂香ちゃんの横顔は言葉とは裏腹に緊張していた。
内心で怯えている穂香ちゃんを襲う気分にはなれない。ベッドに座ったまま、シャワーの音を聞いている。
穂香ちゃんは絶対何かを抱えている。穂香ちゃんの弱みにつけ込んで体を貪る、そんなことをしても後悔するだけだ。
なんで穂香ちゃんがお金を欲しがるんだろう。身なりからは大してブランド品にこだわりがあるように見えない。借金があるのか。女性が体を売る理由ってやっぱりそれだよな。
借金なら僕が返してやる。だけど穂香ちゃんは素直に受け取りそうにない。どうやったら穂香ちゃんの借金を突き止めて、代わりに払うことができるだろうか、と考えたところで閃いた。
スマホで銀行に電話すると、残業していた木下支店長につながる。
「銀行って、人がどれだけ借金してるか調べられるんですよね」
そうでないとお金貸せないよね、という気がする。
「まあ、そうですが」
突然の質問に木下支店長は戸惑っている。
「じゃあ至急調べて欲しいんです。山岸穂香っていう二十四歳の女性が借金してるか?」
「失礼ですが、緒方様、個人情報保護法がありまして、お教えすることはできないんです」
「だったら預金を別の銀行に移して、そっちで調べてもらいますんで」
「すぐお調べします」
木下支店長は即座に手の平を返した。
さて、穂香ちゃんの借金はどれくらいかな。いくらだろうが僕にとってはゴミのような金額にすぎないけどね。
お読みいただきありがとうございました。
続きで、先生がデリヘル嬢になった理由はブラック企業が関わっていることが明かされていきます。