20 ツンロリがかわゆい
初体験だったジェットコースターの座席でぐったりしている上杉さん。
「しっかりして下さい」
僕は微笑を浮かべながら手を差し出す。上杉さんは手をつかんでよろよろと立ち上がった。
「ひどいよー 考えた人は頭おかしー」
ふふ、よほどショックだったようだ。いつもの上杉さんらしいキレがない。
「はあはあ」
上杉さんが立ち直るまで、近くのベンチで10分くらい座ってないといけなかった。
頭は天才だけど、体は見た目どおり子供で安心するよ。
「もう怖いのは嫌だー」
早くも上杉さんは遊園地の楽しみをかなり捨てることにした。
「まあ怖くないやつもありますよ。メリーゴーランドとかどうです」
僕は上杉さんを引っ張っていった。
メリーゴーランドも空いている。すぐに次の番がやってきて、僕たちは馬にまたがることにした。
上杉さんは馬車の中に腰掛ける。
僕は上杉さんがあまりにも可愛らしいので硬直してしまった。
「あ、あの、写真撮っていいですか」
「別にいいけど」
許可してもらえて、とてもうれしい。僕はスマホを構えて、金キラの装飾の中にいる上杉さんを撮った。
写真を見つめて思う、子役タレントより断然可愛いよ。やっぱり子供っぽいのが似合う。
ため息出るわー お姫様みたいだな。
開始のベルが鳴るので、僕は馬車の外側の馬に跨った。
僕はメリーゴーランドを楽しいと思わないので、ずっと上杉さんの方を見ていた。
上杉さんは笑顔。回転したり、上下に動くのが満足そうだ。
「なかなか良かったよー 次はどれにする」
上杉さんは調子が出てきたようだ。
今度は花畑を遊覧走行する電車に連れて行った。
電車の車両で向かいあって座る。
軽快なメロディに乗って、ゆっくりと電車な動く。
途中バラとかの綺麗な花壇の間を進んだ。
上杉さんはニコニコしている。カラフルなものが好きなんだなあ。やっぱり女の子なんだなと思う。
さて、次はと。
ティーカップに目が止まる。
「あれ、乗りましょう」
「何あれ」
「乗ってみればわかります」
なんだかわかっていない上杉さんの手を引いて、僕たちはティーカップに並んで座る。
開始のベル。
「う、動いた」
びっくりする上杉さん。
「それっ」
僕は真ん中のハンドルを思いっきり回す。
「わわわわわわ」
ぐるーっと遠心力が付いて、カップが回り始める。
上杉さんが僕の方にもたれかかってきた。
「それそれー」
「ひゃー」
ますます勢いをつけて回るから、上杉さんが可愛い悲鳴を上げ続けている。
「うりゃあああああ」
「やめてえー」
いつも上から目線の上杉さんが苦しんでいるのが面白くて、僕は調子に乗ってしまった。
終了のベルが鳴り、カップが停止する。
さすがに回し過ぎた。僕もぐわんぐわんと目が回っている。
「うううう」
上杉さんがうなだれて、うめいている。
「立てます?」
僕は地面に降り立って、上杉さんに手を差し伸べる。
上杉さんが手の平を置くので、つかんで引っ張った。
立ち上がった上杉さんだが、すぐに倒れ掛かってきた。
僕は上杉さんを抱きしめる。
軽い。
細い。
やわらかい。
いろんなことに驚いた。
僕は、そっと上杉さんを地面に降ろしてあげた。
「ばか」
上杉さんが顔を赤くして、ちょっと怒った。
倒れそうなのを助けてあげて、僕はなんで怒られるのかよくわからないけど、
「すみません」
と謝っておく。
「まったく……私を罠にハメるなんて、虎児郎君にしてはやるじゃない」
「え、ハメてませんよ」
ほんとはちょっと、してやった感を持っているけどね。
「今度やったら消すよ」
「大げさですね」
本当に魔法で消されることはないと思うが、次はおとなしい乗り物にしておこう。
僕たちは小舟で川を流れて行くのを楽しんだ。
お昼ご飯はレストランで食べる。
僕は高校生男子らしくカツカレー。上杉さんはお子様ランチ。
周りの人からは、兄妹で遊園地に来ていると思われてそうだ。
高校と小学校をサボってはいかんと言われそうだけど、幸い誰も言ってこない。
潰れかけの遊園地にとったら貴重な客だもんね。
オレンジジュースをストローで、ちゅーちゅー飲む上杉さんを見ていると微笑ましい気分になる。
「なに? ニヤニヤして」
上杉さんが僕の視線に気づいた。
「上杉さんが可愛いな~と思って見てました」
僕がそういうと、上杉さんは、かあああっと真っ赤になる。
「見たらだめー」
え、あかんの……
子供に怒られているみたい。
「すみません。見ないようにします」
「……ちょっとだけなら許す……」
なんだ、いいのかよ。
「ふふ、とにかく虎児郎君が元気になってきたみたいで良かったよー」
「ええ、楽しいです」
この前から解決しがたい悩みにぶち当たってばっかりだったからな。
「サユリは役に立ってるかなー」
上杉さんはサユリさんを紹介した手前、気にしているようだ。
「まあ、一応」
曖昧に答えておく。
サユリさんのゾンビ化魔法を発動させるには、蒲の部屋に忍び込まないといけないのは黙っておこう。余計な心配を掛けたくないからな。
「ふふ、まだ虎児郎君はサユリの真の実力を見ていないんだねー」
「まだ始まったばかりなんで」
「サユリと組んでから、私は負ける気がしないんだー サユリのおかげで私は極大魔法をピンポイントで放つことができるし、サユリ自身も相手に即死魔法を使うからね」
上杉さんが邪悪に口元を歪める。
なに……サユリさんはザキとかザラキを使えるのかよ。
サユリさんがハッキングすることで、敵の情報は上杉さんに筒抜けになる。それで上杉さんの攻撃がベストタイミングで決まるというのはわかる。
でも即死魔法って、どういう意味かわからない。
「表の私と、裏のサユリ。使いこなせば敵に両面から大打撃を与えられる。でも私たちを使いこなせるかな。使いこなせるとしたら、世界でも虎児郎君、あなただけでしょうねー」
上杉さんにそう言われると照れる。
確かに、サユリさんに報酬は全財産の1兆2千億円と言われて、OKするバカは僕くらいだろう。
「使いこなしてみせますよ」
僕は謙遜せずに答える。美沙や女子バレー部員を救うためなら、何でもしてやるさ。
「そうこなっくちゃー」
上杉さんは僕の気概に満足そうだ。
「じゃあまた行きましょう」
遊園地巡りを再開である。
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