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5 僕をイジメた不良たちは人生終了

 翌朝。

 1限目と2限目はサボることにした。

 これまでどうしても高校に行きたくない時にサボって公園などをうろついたことはある。


 だけど今日は事情が全然違う。金を早速使いたいことがあるのだ。

 銀行に行って金を引き出し、あることを仕込んだ。


 三限目が始まる前の休み時間に教室に着いた。次は体育だ。

 更衣室に移動するため出て行こうとする毒島と鉢合わせする。


「おお、コジロウ、遅かったじゃないか」

 毒島は満面の笑みを浮かべる。新しいイジメを思いついた時の顔だ。


 穂香ちゃんがやり込めてくれたおかげで、毒島は教室ではおとなしい。

 だが毒島がこのまま卒業まで何もしないはずはないと思う。そろそろ何かやってくる頃だ。


 毒島は肩組みしてスキップで僕を引きずっていく。

「今日は体育館でバスケだとよ。早く行かねえと遅れるぞ」


 体操服に着替えて、体育館に行くと不良の男子達が床やゴール板にボールをバンバンぶつけている。

 カス校は女子用と男子用と体育館が二つあるので、いるのは男子だけだ。


 体育教師と一緒に準備体操。

 まだ毒島はおとなしい。


 だがバスケの試合が始まると、毒島が他の不良たちに目配せしたのがわかった。

 不良たちが十人ほど教師に近づいて行って取り囲む。


「お、おい、なんだ」

 教師が恐怖を感じて後ずさる。


「先生には日頃の感謝を込めて校庭で胴上げをさせていただきますんで」

 一人がそう言って、全員で教師の手足を掴む。いかに屈強な体育教師と言えども、同じくらいの体格の連中にはなすすべもなく、運ばれていく。


 僕を守ってくれる可能性が皆無ではない存在が消えて行った。


 僕の周りには毒島と、ダチが4人残って、鋭い眼光を向けている。

 他の弱小組の男子は巻き添えになることを恐れて散っていく。


「コジロウ、どうせなら一日サボってたらよかったのになあ。体育に出てくるとはよぉ」

 毒島の独り言を僕は黙って聞いている。


「この前の穂香ちゃんの借りはお前に返してやる」

 毒島は胸元で両手を組んで、ポキポキ鳴らす。


「体育ならスマホを持って来ないからよ。隠し撮りされる心配はねえ。念のため体育館にカメラが仕掛けられてないことも見回ってある」


「僕をイジメるためだけに、随分と入念な準備をしたんだね」

 ため息をつき、両手を広げて呆れて見せた。


「もっと怖がれよ。せっかくの仕込みに張り合いがねえぞ」

「そのエネルギーを有意義なことに使いなよ。まあバカはいまさら上を向いても手遅れか。下をイジメることにしか人生の楽しみがないよね」


「ああっ今、バカっつったか? 俺を?」

「ああ、バカをバカって言ったよ」

 びしっと指さして宣告する。


 毒島のこめかみに青筋が見える。


「バカが最悪なのは、自分がバカだって自覚がないことなんだよな」

 火に油を注ぐように付け加えてやる。


「てめえ、半殺しにするつもりだったが殺してやる」

 毒島が目の前に来る。


 後ろから別の男に羽交い締めにされた。

 毒島が鉄拳を喰らわせようと腕を引いた瞬間でも僕は笑っている。


「やめやぁ――――」

 重低音の声が体育館にこだまする。


 扉が左右に開いて、学ラン姿の男達が十人ほど入ってくる。


 リーゼントにパンチパーマにモヒカン。腕にはタトゥーがびっしり。極道に今すぐ就職できそうな人達ばかりだ。


 木刀やバットを持っているのもいる。

 この人たちが向かってきたら気の弱い人なら絶対にしっこをちびる。


「せ、先輩方、な、なんでこちらに!?」

 明らかに毒島は狼狽えている。


 やってきたのは三年生の不良グループ。

 毒島などは超格下の存在で、普段から三年生の視界に入らないようにこそこそしている。


「緒方さんに頼まれてのう。お前らシメに来たわ。先公もおらんようやし、ちょうどええわ」

 リーダーの冨樫さんが木刀の先を床に打ち付ける。


 冨樫さんはスキンヘッドで眉を剃り落とし、鼻と口元にピアスをして、人一倍イカれた目つきをしている。木刀を全力で人に振り下ろしそうなヤバさがひしひしと伝わってくる。


「えええ、緒方さんてどなたですか!?」

 後ずさる毒島。僕の苗字を覚えてないらしい。


「あはは、先生を連れ去ったのが裏目に出たね」

 羽交い締めを解かれた僕はせせら笑う。


 体育の時間に毒島が仕掛けてくることは予想できた。ちょっと前までの僕だったら学校をサボって逃げていただろう。

 でもずっと体育を欠席にすると単位がもらえないから、いつかは出ないといけない。 


 そして毒島にやられても泣き寝入りするしかなかった。

 でも今は金がある。


 朝、銀行の窓口で通帳を見せると、木下という名前の猿顔の支店長が飛んできて、来賓室に案内された。

 木下支店長は這いつくばるような応接で、2千万円を恭しく用意してくれたし、お金の持ち運びを手伝ってくれた。千億円の預金がある僕は特別だよね。


 木下支店長と一緒に学校に来ると、冨樫さんの教室に行って、一人に百万ずつ配ってボディガードを頼んだ。

 偽札じゃないかと疑う奴もいたが、木下支店長が本物だと保証した。

 狐につままれたような冨樫さん達だったが、やがて目の色を変えた。


「今までものすごく僕をイジメてくれたね。これからは僕が君らをイジメる番だよ。毎日毎日、学校に来なくなるまでイジメてあげるね。あははははははははは」

 もう笑いが止まらない。


 毒島らは恐怖で立ちすくんでいる。

 逃げ道を探してキョロキョロしている奴もいるが、出入口は三年生が塞いでいる。


「歯応えなさそうやけど、緒方さんに迷惑かけたケジメつけさせてやれやぁっ」

 再び木刀が打ち付けられたのが合図だった。


 冨樫さんらが毒島らに襲いかかる。

 一方的な殺戮に僕は目を細めていた。


 抵抗すれば余計に酷い目に遭う。

 イジメられっ子の気持ちを毒島らは知ることになった。


 15分間ほど毒島らは殴る蹴るを受け続け、顔は原型がわからないほどに膨らんでいた。

 床にぶっ倒れ、動かなくなった毒島。気を失ったのか。


「これ以上やったら死ぬわ。殺していいんやったらオレがお世話になっているヤクザに頼んで、海に沈めてもらいますがね」

 冨樫さんが僕を振り返って確認する。


「そうですね……」

 僕は思案する素振りを見せる。そこで毒島はガバッと顔を上げた。


「ゆ、許してくれ、殺さないでくれ」

 なんだまだ意識はあったのか。案外丈夫だな。

 毒島は跳ね起きて土下座をする。


「冨樫さん、海に沈めた死体って見つかりますか?」

 毒島に聞こえるように大きな声で言う。


「ヤクザはやり慣れとる。見つかる心配はないで」

 けけけ、と冨樫さんは気持ち悪く笑った。


「じゃあ、殺して下さい」

 殺しまではやらないはず、という毒島の希望は打ち砕いてやる。


「おっしゃ」

 喜々として毒島らに歩み寄る冨樫さん達。


「ひいいいいいい」

 毒島のズボンの周りに液体が広がっていく。


「漏らしやがった。きったねえ」

 三年の一人が後ずさる。


 冨樫さんのヤクザに沈めてもらう発言は事前の仕込みだ。

 実際のところ、冨樫さんでもヤクザと付き合いはないという。でも本当らしく聞こえるので、毒島を戦慄させるにはちょうどよかった。


「ほんとにすみませんでした。お詫びに何でもしますから、助けてください」

 毒島はションベンの池の中で頭をこすりつけている。

 無様だな。実に愉快だ。


「それじゃあ……裸にして、恥ずかしい写真を撮っておくことにしましょう」

 毒島らは裸にされて、横一列土下座のポーズになった。


 毒島にはケツにバットの持ち手が突っ込まれている。

 泣き続けている様子を三年がスマホで撮影する。


「先輩、写真を僕に下さい。毒島がまた僕をイジメたらネットに流出させます」

 写真は毒島が仕返ししてこないための保険。


 金は人間を変える。僕はもう暗黒面に落ちてしまった。

 悪って結構楽しい。

 今までやられた恨みを何倍にもして返してやれる。僕は全能感に包まれている。

お読みいただきありがとうございました。

次回から本編第一部に入ります。メインの敵はブラック企業ですが、途中ブラックバイト、モンスターカスタマーを破滅させます。

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