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11 幼なじみの胸の谷間

 夜9時過ぎ、僕のタワマンに部活が終わった美沙がやって来る。

 美沙は疲れ切った表情だ。


 1週間の猶予を得たとはいえ追い詰められた状況には変わりない。

 ソファーに腰を下ろす。


 美沙はICレコーダーをテーブルに置いた。


 僕が蒲との会話を録音するよう頼んだものだ。裁判で勝つにはセクハラが行われていたという証拠が必要と上杉さんにアドバイスされた。


 美沙には訴えるかは置いといて、まずは録音を承諾させた。

 僕が再生ボタンを押す。


 蒲の野太い声が聞こえて来た。


「美沙、どうするか決めたか」

「先生、もう一度確認させて下さい。私が先生にしょ、処女を捧げたらレギュラーにしてくれるんですね」


「ああ。何度も言っているだろう。美沙が先生の言うとおりにすれば上達するし、レギュラーは確実だ」

「じゃあスポーツ推薦も大丈夫ですね」


「先生に任せておけ」

「やった」


 美沙は今の元気のない様子とは別人のようにハキハキと蒲と会話している。


「ふふ、ようやく値打ちがわかったんだな」

「先生に捧げたなら一生の思い出になります」


「そうだ。つまらん男に処女をくれてやっちゃいかんぞ。美沙は将来のある女だからな」

「はい」


 話の流れが蒲と性交渉する方向に展開して、マズイんじゃないかと思う。


「よし、じゃあ今日の部活が終わったら先生と付き合いなさい」

「どこに行くんですか」


「ホテルだよ。下品な所じゃないから安心するんだ。高級なホテルを予約しておくよ」

「わー」


「美沙との大事な思い出になるようにするからな」


「うれしい。ところで……蒲先生、私が断ったら、志乃ちゃんを代わりに選ぶっておっしゃってましたけど、もう志乃ちゃんがレギュラーってことはないんですね」


「大丈夫だ。志乃はずっと控えで、美沙がスタメンだ」

「でも志乃ちゃんの方が上手いと思いますけど」


「今はそうだが、いずれ美沙が追い抜く。実戦を積めば美沙が伸びると先生は見ているよ」


「蒲先生がそうおっしゃるならそんな気がしてきます……私が選ばれたのは志乃ちゃんよりおっぱいが大きいからだって、他の部員に噂されるんじゃないか心配してました」


「俺の決定にどうこう言う奴は部にいないから心配するな」

「じゃあ私のおっぱいで選んだわけじゃないですね」


「当然だ、と言うところだが、美沙のためにここだけの話をしておこう。美沙のスタイルは志乃よりずっと魅力的だよ」


 蒲は美沙が喜ぶと思ってか、本音をさらけだしている。調子に乗ってきているようだ。


「やっぱりそうなんですね」

 美沙はすごくうれしそうな声を出す。


「ああ、俺は美沙の方を応援したくなる。後は美沙が期待に応えて、誰からも認められる実力をつけてくれよ」

「はい」


「話は以上だ。後で待ち合わせをLINEで送る」

「……それが先生」


「ん、どうした」

「……実は今日、生理が始まってしまって」


「なんだと」

「すみません、こればっかりは」


「ちっ早く言えよな」

 舌打ちをして露骨に蒲は不愉快そうにした。


「本当にすみません。1週間ほどお待ちいただけないでしょうか」

「たく、仕方ないな。いいか次が本当に最後だぞ。嫌なら志乃を使うからな。その方が楽に勝てるんだ」


「わかりました」

「ふん、体調は大丈夫なのか。よほど辛かったら練習を休んでもいいぞ」


 蒲は気を取り直して美沙に気遣いをする。もう美沙を確保した気になったのだろう。


「大丈夫です。今はそんなに痛くないので」


 二人が部屋から出てきて録音が終わる。


 僕は美沙の演技に感動した。


 セクハラの証拠になるような発言を蒲がする会話の流れを作ってくれ、と美沙に頼んだが、ここまで上手くやってくれるとは。


 蒲に従うふりをして、最後には蒲を怒らせずに逃げ出した。

 普段はアホな美沙の頭がよく回転したものだ。


 この前からも、美沙は蒲の邪な感情に気づいていてギリギリ避けてくれている。

 女の子は本能的に身を守る術ってものが身についているのかな。


 蒲は録音を全く警戒していなかった。

 部活中は体操服だ。


 体の線がかなりはっきりするし、激しく動くから何も身につけられないだろう。

 レコーダーを持っているなんて思わない。


「美沙はレコーダーをどこに隠してたんだ?」

「……胸だよ」


「胸?」

「胸の谷間にブラで押さえておいたんだ」


「……さすがだ」

 美沙がレコーダーを胸に挟み込むエロい想像してしまう。


 蒲は美沙の巨乳に惹かれたことが仇になったか。


「……ううう、虎児郎に言われたとおりやったけど、訴えるなんて無理だ」

 一転して、美沙が魂の抜けたような声を出す。


「録音は十分な証拠になると思うけどな」


 蒲がレギュラーやスポーツ推薦を餌に部員に体を求めたのは美沙が初めてってことはないだろう。大勢の部員が同じ目に遭ったはずだ。


 こいつを校長に聞かせたらいいんじゃないかと思う。校長が蒲に辞表を書かせてくれないかな。蒲が注目を集めずに辞めていってくれれば一番いい。


 だが、すぐにそれはありえないと思い直した。


 校内で蒲の権力は校長以上だ。

 美沙との会話の録音程度では、校長は蒲の味方になって揉み消しにかかる。

 

 蒲は顧問に居座り、美沙は退部に追い込まれるだけだ。

 揉み消せないようにするには裁判に訴えるくらいしないといけない。


「裁判の勝ち負けじゃないよ。秘密がバレれたら先輩たちが傷つく」


「この先も蒲をのさばらせておいていいってのか」

 僕がそう言うと、美沙はぎゅっと拳を握りしめた。


「いいわけじゃない。志乃ちゃんにも、来年入ってくる後輩も、こんな嫌な目に合わせたくない」

「だったら」


「穏便な方法にしようよ」

 美沙はおずおずと提案する。


「うーん、示談でいいのかって僕も考えたんだけどな……」

「そうしようよ、虎児郎。私が蒲先生とお話しすればいいんでしょう、先生にもう止めて下さいって」


「でもなぁ示談じゃ解決しないと思う」

 僕は考えていたことを説明する。


「蒲はもう止めるって誓うけどな。示談交渉なんかしたら、美沙は部活を辞めないといけなくなるだろ。美沙がいなくなったら、蒲はまた別の子にセクハラし始める」


「……そうかもしれない」

「蒲が心を入れ替えるなんてありえないよ。解決するには、奴をクビにするしかない」


「部員やOGが蒲先生と関係を持ってたって知られちゃう、絶対にダメッ」

 美沙は声を張り上げて拒絶する。


 一体どうすればいいってんだ。

 上杉さんから聞いたとおり、被害者は案外訴えたがるという話を美沙にするけれど、聞き入れない。


 これじゃバレー部員は泣き寝入りじゃないか。

 蒲の思う壺だ。世間に知られたくないという女子の弱みを蒲は突いている。


「悔しいけど諦めるしかないよ。スポーツ推薦で大学にいったOGは後悔してないかもしれないし。カス高生が特待生で大学に行けるなんて宝くじに当たるような幸運なんだから」


「……待て」

 僕は美沙の話を止める。何か引っかかった。


 何だろう。そうだ。


「OGは後悔してないって言ったよな。本当か」

 なんで美沙はそう思うんだ。


「え」


 問い詰められた美沙はキョトンとする。


「ド底辺の女子高生の分際は蒲に体を差し出すくらい安いもんだって? ふざけんなよ、美沙。お前らどんだけ自分を見下げてるんだ」

投稿開始20日ほどで評価ポイントが300を超えました。


時々しかランキング入りしない当作を目に留めてくださり、誠にありがとうございます。

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