表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/171

8 推薦が欲しかったら、先生の言うことを聞くんだな

 蒲が胸を見せろと命令するんじゃなくて、美沙が自主的にそうするように仕向けているところが悪質だ。


 後で問題になっても、蒲は生徒が自分でやったことだと言い張るつもりだろう。


「……でもブラを外そうとした時に、もういいって先生は止めてくれたんだ。お前の誠意はわかった、また頑張れよって」


「じゃ、じゃあ、見せてないんだな」

「うん」


 美沙の答えに、ホッとする。


「とんでもないな。想像以上に狂ってる」

 ソファーにもたれかかる。


 美沙はギリギリで大丈夫みたいだけど、こんな調子でエスカレートしていったら、裸を見られるのは時間の問題だろう。


 先輩の中には、蒲に裸を見られたり、触られたりしている者がきっといる。

 犯されている子がいたっておかしくない。


「で、美沙が屋上から飛び降りようとしていたってことは、蒲からまた無茶苦茶なことを言われたんだろう。何を言われたんだ」


 僕はいよいよ美沙の苦しみの核心に踏み込んでいく。


「……それは」

「教えてくれよ」


「……私がね……スポーツ推薦を目指していることを先生が知ってね……先生の言うことを何でも聞いたら、レギュラーになれるし、スポーツ推薦も確実だって……」


「何でも……か」

 蒲が匂わせていることの意味は美沙でもわかったのだろう。


 目標にしているスポーツ推薦を手に入れるためには蒲に体を差し出さないといけない。

 やはり行きつくところはそこだ。


「先生の言うことを聞かないならスポーツ推薦はなしだし、代わりに志乃ちゃんていう仲良しの子がスポーツ推薦を受けることになるって言われたんだ」


 美沙はぎゅっと身を強張らせる。


 スポーツ推薦は絶対欲しいけど、体を差し出すのは嫌だし、友達を不正な方法で蹴落としたくない。


 かといって美沙が断れば、親友が美沙と同じ選択を突き付けられて、蒲の餌食にされる。


 自分が苦しむのも嫌だし、親友を苦しめるのも嫌。


 美沙の頭では悩みの出口を見つけられずに、行き詰った結果が飛び降り自殺未遂だったわけだ。


「美沙、すぐ部活辞めろ。で、蒲を警察に訴えろ」

 衝動的に命令する。


「ダメだよっ そんなことしたらバレー部で何が起きていたのか知られちゃう」

 美沙は真っ青になって拒否する。


「え……いいじゃないか。蒲が逮捕されて解決だろう」


「バレー部のみんなが蒲に汚されたって、世間の人に悪く言われるじゃない。今の部員だけじゃなくて、OGも。全員がそういう目に遭ったわけじゃないと思うけど、ずっとそう言われ続けちゃうよ」


「む……」


「それに早慶大への推薦が決まってる先輩も、推薦が取り消しになっちゃうよ」


「…………」

 早慶大は難関だ。


 金を積んでも、先輩を送り込めないかもしれない。

 僕は美沙に上手く言い返せない。


「蒲先生がいないと、バレー部は勝てないし……」

 追い打ちを掛けるように美沙が呟く。


 クズ野郎の蒲だが、バレー部員にとっては人生唯一の希望なのだ。

 問題の深刻さがようやく見えてきた。


 蒲を追放しただけでは解決しない。

 しかも蒲を追放する時に、蒲の悪事が明るみに出る。


 バレー部員は蒲の被害者のはずなのに、世間から白い目で見られるのだ。

 おかしいけど、日本人てそういうものだというのは想像にかたくない。


 女の子たちを守りながら、蒲を倒す。

 どっちも達成するのは不可能に思える。


 アホの子の美沙に教えられるとは……美沙が自分で考えたとは思い難い。


 バレー部の先輩が美沙に言い聞かせたんだろうな。美沙が言いふらして回らないように堅く口止めしたんだ。


「ちょっと考えさせてくれ……」

 頭を抱える。


 思案するが、僕の頭では名案を思い付きそうにない。

 上杉さんや穂香ちゃんと相談することにして、美沙は帰すことにした。


「いいか、蒲には絶対に美沙の体を許すんじゃないぞ」

 きつく言い聞かせたつもりだが、美沙は


「うん……」

と力なく答えただけだ。


 早く手を打たないと美沙が危うい。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ