19 ツインテール美少女と心が一つになったのは気のせいか
ようやく落ち着いてきてケーキとジュースを平らげていると上杉さんが話しかけてきた。
「おじいちゃんには、私は日本の弁護士資格持ってないよーって断るのにね。司法試験受かるまで勉強だけして仕事はしないでいい。いっぱい給料払うからって、しつこかったなー」
「で、承諾したんですか」
鼻をすすりながら聞く。
「まあねー 試験は一発で受かったよ、ふふーん」
上杉さんは鼻を高くしている。
容姿に対するコンプレックスがあるから、難しい試験に受かることで、自分はすごいと証明したいのだろう。
「司法試験て、最高に難しいんでしょう。天才ですね」
「それほどでもないよー」
上杉さんは謙遜しているけど、もっと褒めてほしそうだ。
「尊敬します。いつか僕みたいなバカでも頭が良くなる方法があったら教えてください」
「無理。いくら私でも、虎児郎君のバカは直せなーい」
「そんな……絶望的な言い方しないでも……」
「だってー クリスタルにケンカ売る高校生なんて世界に虎児郎君しかいないよー バカじゃないの」
「うう、確かにバカでした……」
「ふふ、虎児郎君の素直なところが好き……あ、いや、なんでもない。バカでもいいんだよ、おじいちゃんと同じで上に立つ人は度量がおっきければ」
上杉さんは何か言ったようだが、小声で聞き取れなかった。上杉さんは本当は僕に感心しているのかな……嫌味な感じの言い方ではないけど。
ちょっと顔を赤くしているのはなぜだろう。
上杉さんはじいちゃんと僕を重ねているのだろうか。
じいちゃんを強引な人だと思いつつも、好感を持ったから日本に来てくれた。
僕がじいちゃんみたいに上杉さんに接していたら印象がいいのかもしれない。
「で、じいちゃんと仕事をするのはどんな感じだったんですかね」
「おじいちゃんは右腕になってもらうって言ったけどねー 敵対的買収なんて滅多にやらないんだなー」
「暇だったんですか」
「うん、暇。だから、おじいちゃんは私がよその仕事をやってていいって自由にさせてくれたー」
「へぇ。確かにブラックな働かせ方じゃないですね」
「しかも仕事を取りやすいように、他の会社の社長さんや政治家、官僚とかにいっぱい紹介してくれたよー 人脈がクリスタルとの戦いに生きているねー」
上杉さんがクリスタル関係者に知り合いがいるというのを訝しんでいたけど、本当だった。
「じいちゃんのおかげだったんですね」
「おじいちゃんは何から何まで良くしてくれたよー だから、たまにしかやらない敵対的買収は恩返しだと思って全力で頑張った」
「じいちゃんは上杉さんをスカウトして大成功だったわけだ」
「でもね……負けそうになったこともあったんだ……」
一転して、上杉さんが声をひそめる。
「……最後は勝ったんですよね」
「まあねー でも本当にヤバかった。絶対絶命な感じ」
それでどうしたんだろうと息を飲む。
「起死回生の大胆な策を私が言い出した時は、社員のみんなが反対した。失敗したら何千億円も損するからねー」
「け、桁が違うんですけど……」
「緒方ホールディングスくらいの大企業だとそれぐらいの金が動くんだよー」
「まじですか? それはヤバいですね」
敵対的買収……恐るべし。
上杉さんが絶体絶命という訳がわかった。
数千億円損したら、死んでお詫びして済むもんじゃない。
「でも……おじいちゃんだけは私を信じて、任せてくれた」
「あ」
上杉さんを信じるってことは……
「だから勝てたんだ」
上杉さんは感極まったような笑顔を浮かべている。
さっきの僕は、じいちゃんと同じで上杉さんを信じる決断をしていたのか……
僕がクリスタルとの戦いに突っ込んでいるお金は数百億円。
ものすごい大金だと思っていたが、じいちゃんに比べれば遠く及ばない。
だけど僕は同じことをやれていたのが、うれしくてたまらない。
「実はねー おじいちゃんがお亡くなりになって、私はアメリカに戻ろうって思ってたんだ」
上杉さんは思いがけないことを口にする。
心臓が止まりそうなくらい驚いたが、すぐに当然の判断だと思い直す。
じいちゃんに乞われて上杉さんは日本に来た。じいちゃんがいない今となっては日本にいる義理はないのだ。
「本当に、アメリカに行っちゃうんですか……」
知り合ったばかりで別れると寂しい。
「止めるよー」
上杉さんのその言葉を聞いて胸が弾む。
「虎児郎君と一緒なら、世界のどこにいるよりも私は強い」
そう言って上杉さんは僕に熱いまなざしを向けている。
上杉さんが無敵モードのオーラをまとっているように見えた。
前に上杉さんは、僕と力を合わせて初めて勝機が見えてくると言っていた。
意味がわからなかったのが、今ならわかる。
ついに僕たちは心が一つになったんだ。
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