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2 憧れの美人教師が僕を守ってくれる【挿絵付き】

 教室に着くと、僕へのイジメが始まる。

 毒島らの男子グループのお気に入りは教師に見つからないように僕を殴るという遊びだ。


 教師は誰も聞いていない授業を粛々と演じている。


 後ろの席の毒島に呼ばれて行く。

 教室はカオスで、めいめいが勝手に動き回っているので、僕がつっ立っていても教師は何も言わない。


 板書をしに、教師が振り返った瞬間、毒島は僕にビンタを食らわせて吹っ飛ばす。激痛を感じながら他の生徒の机に倒れこむ。

 けたたましい音がするとさすがに教師が振り返って「何をしている」と聞いてくる。


「なんでもありません。ちょっと転んだだけです」

 僕がへたり込みながら答えると教室内は爆笑の渦が巻き起こる。


「ドジな奴。何もないところで転ぶなんてさー」

 茶髪のバカ女がネイルアートをしながら罵声を浴びせてくる。


 立ち上がって、また毒島に向き合う。

 教師がまた板書をした瞬間に、今度は腹にブローが来る。

「うぐっ」

 あまりに痛くて気を失ってしまいそうになる。腹を抱えながら膝をつく。


「はいはい、早く早く」

 毒島が声を掛けてくる。教師が振り向くまでに立ち上がらないといけない、達磨さんが転んだのように。


 僕をかばってくれる者はいない。

 毒島達が怖いからというのもあるが、そもそも正義感を持ち合わせた輩がこの学校にはいない。

 美沙が同じクラスだったら止めてくれるのかもしれないが、あいにく美沙は別クラスだ。


 こんな苦痛に苛まれても不登校にならずに学校に通うのは、児童養護施設で育ててもらっているのだから、高校を卒業しなければという思いからだ。


 でも、現代社会の山岸穂香(ほのか)先生の授業だけは、イジメが少なくて済む。


挿絵(By みてみん)


 穂香ちゃんと親しみを込めて呼ばれている教師になって2年目の24歳。

 こんな底辺高に奉職しても教師としての熱意を失っていない。


 セミロングの黒髪、ふんわりした服装が隠れ巨乳を包む。

 その清楚な美貌で、男子生徒の憧れの的だ。

 毒島ら不良も一目置くところがある。


「はーい、今日は三権分立の話だよー」

 この学校で生徒の反応を見ながら授業する教師は珍しい。


「三権分立って中学校でも習ったよねー覚えている人?」

 穂香ちゃんが元気に手を上げるが生徒は誰も手を上げない。


「天下三分の計ってやつ?」

 男子の誰かが呟くと、あったまいいと感嘆が広がる。

 僕は覚えていないが、少なくとも三国志とは関係なかったはずだ。


「諸葛亮孔明を知っているとはお主やるな。結構いい線行っているぞ」

 穂香ちゃんが笑顔でうんうんと頷く。どんなに答えが間違っていてもバカにしないところが人気の秘訣だ。


「弱小の劉備が強大な曹操に対抗するには、孫権も加えて三つ巴の戦いに持ち込むしかない。三つの勢力があれば、サシで戦うよりも戦力の釣り合いを保ちやすいのよね。三権分立も同じ考え方」

 そう言って、黒板に三角形を書く。底辺高の生徒が興味を持てる授業をするのは本当に素晴らしい。


 僕は穂香ちゃんの授業なら最後まで聞いていられるのだが、忍耐力ゼロの奴がこの学校には多すぎる。

 20分もすると毒島がついていけなくなった。


「おい、コジロウ、こっちこい。ダルマさんやるぞ」

 背後で聞きたくないデカい声がする。

 無視したいが、後でもっと酷いことになるので渋々立ち上がる。


 振り返るとすでに教室の秩序は崩壊していた。

 後ろの席の奴らはめいめい固まっておしゃべりやスマホゲームに興じている。

 立っている奴も多いが穂香ちゃんは注意していない。


 だから僕が毒島の前でつっ立っていても、穂香ちゃんは何も言わない。

 穂香ちゃんには席に戻りなさいと言って欲しかった。


 板書のチョークの音がしたと思ったら、毒島のビンタにかき消された。

 穂香ちゃん、助けてくれ、と願いながら激しく転倒する。


 倒れた先が空席だったので、机と椅子をひっくり返す。

 笑い声と合わさって、ひどい騒音を巻き起こした。


 こうなっても穂香ちゃんは助けてくれない。

 毒島のような大男は穂香ちゃんも怖いから、仕方ないよね。諦める理由を考えた。


「そこ、何やってんの――」

 低い、ドスの効いた声の主は穂香ちゃんだ。

 一転して、シンと不気味な静寂に覆われた。


 見て見ぬふりをするのがこの学校の教師。本気で注意するのは初めてかもしれない。

 全員がかたずを飲んでいる空気が伝わってくる。


「コジロウが転んだだけすよ」

 あっけらかんと毒島が答える。


「いいえっ君が殴ったんでしょ」

 僕は床にへたり込みながら毒島の方を見ていた。

 穂香ちゃんの追及に毒島は少し顔を強張らせた。


「先生は見てたんですか?」

 毒島は鼻で笑った。

「見てはいませんでしたけど」


「じゃあ言いがかりを付けるのはやめてください」

 毒島はどかっと椅子に座る。


「録画してたわよ」

 穂香ちゃんがスマホを掲げる。


「授業を始める時に録画ボタンを押して、カメラレンズをあなた達に向けて筆箱に立て掛けておいたの。再生するね」

 スマホを操作して、画面を生徒に向ける。


 動画には毒島が僕を張り倒す光景が鮮明に写っていた。

「どう? 言い逃れできる? 学校内の暴力行為は停学、または退学よ」

「くっ」

 毒島の表情が引きつる。


 やってくれた、やってくれた。やっぱり穂香ちゃんだけは僕を守ってくれるという感動に打ち震える。


「……で、でもよう、先生が隠し撮りなんかしていいのかよ。そんなのが証拠になるんかっ」

 毒島が言い返す。本当に悪知恵だけは働く。


「なるほどね。私のスマホじゃ証拠にならないかも」

 穂香ちゃんが認めたせいで、毒島がほっとする。


「でもね、暴力行為が虎児郎君や他の生徒のスマホで録画されてたら証拠になるわよ」

 穂香ちゃんが告げて、再び毒島が緊張する。


「誰か撮ってたのか?」

 毒島は焦って教室を見渡す。


「ううん知らない。私が言いたいのは今度また虎児郎君に暴力行為をしたら、誰かが録画してるかもしれないってこと。みんながスマホを持っているんだから気を付けた方がいいわよ、退学になりたいなら好きにすればいいけど」

 堂々と言い放ってから、穂香ちゃんはスマホをしまった。


 さすがに毒島にも言いたいことは伝わったようだ。

 毒島は苦笑して、金髪を掻いている。


 今、毒島を退学にできなかったのは残念だけど、穂香ちゃんの脅しは毒島には大きな抑止力になる。

 教室内での暴行が減りそうで小躍りしたくなった。ありがとう穂香ちゃん。


「ちっいつか犯してやる」

 毒島の呟きは負け犬の遠吠えに聞こえる。


「あははー 実は先生、性教育も得意だから教えてあげるね」

 余裕の笑みをしてみせる穂香ちゃんは一枚も二枚も上手な感じがした。

 清楚な外見とは裏腹に、穂香ちゃんは底知れぬ強さを秘めてそうだ。

今後の話で、美人教師のちょっとエッチな挿絵も掲載しておりますので、お読みいただきますと幸いです。

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