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32 黒日本の弱点を突く

「では次に新会社の所在地についてご説明します。社員の皆様には、できればそこに移り住んでいただきたいのです。


 正面のスクリーンに白日本島の遠景が映し出される。


 由佳が説明を続ける。


「ここは、スバル共和国の島の一つでした。でした、と過去形を使うのは、もうスバルの領土ではないからです。オーナーの緒方虎児郎がスバルから独立することを条件に島を買い取りました。そして白日本国という名称で独立国宣言しています」


 しばらくの間、会場の全員がポカンとした。


「はっ独立国って子供の遊びらしいな」

 失笑も起きている。


「白日本国の独立の承認を国際社会に求めておりますが、今のところ承認しているのはスバル共和国だけです」


「そりゃそうだろ」

 呆れている社員たち。


 だが由佳は笑顔を向ける。

 これから話すことを聞けば、皆が喜ぶとわかっているのだ。


「でもスバルの承認があれば十分なんですよ。白日本島にはスバルの法律は適用されません。独立国だから自分で法律を作れます。白日本国には所得税と住民税がありません。白日本国で働いていただければ所得税と住民税が取られないので、島に移り住むだけで皆さんの手取り収入が増えます!」


 ざわっとした。


 お金の話になってようやく社員たちの関心を引いたようだ。


「ふん、そのかわり消費税とか別の税金を取られるんじゃないのかよ」

 ちょっと考えたら思いつく当然の疑問の声が上がる。


「白日本国には消費税はありません。消費税がないから、日本より1割多い消費生活を楽しめますよ」

 由佳が微笑んで言い返す。


「じゃあどうやって国の経費を賄うんだよ?」


「法人税はあります。ゲームココナッツの利益から法人税として3割くらいを徴収して、国を運営するお金にします。法人税をゼロにしたり、低い税率にすると、租税回避地(タックスヘイブン)と認定されて、諸国から制裁を受けてしまいます。どうせどこかの国に法人税を払わないといけないなら、日本に払うんじゃなくって、白日本国に払おうってことですね」


「……」


「法人税は会社の利益から払うものであって、社員の給料から払うものではありません。社員は税金を全く払わずに生活ができるってことです。これが、どれだけお得な話かわかりますかね。ちょっと話が難しかったでしょうか?」


 とりあえず反論はない。


 由佳が説明を続ける。


「日本に税金を払っても、官僚の天下り先とか無駄なことに使われるだけ。だからオーナーの虎児郎は日本に税金を払うのがバカらしくて、白日本国を作ることにしたんです。自分の国なら自分がいいと思うことにお金を使えますからね」


「やはり信じられん。そんな上手い話があるかよっ?」

「弁護士とも相談して進めていますが、これは100%合法です」

 由佳はきっぱりと言い切る。


 100%合法って……上杉さんの口ぶりが感染っている。


「皆さん、日本で暮らしていてどう感じていますか。過労死するほど働いていても、手取りは全然増えないどころか減ってます。消費税はどんどん上がっているのに、国の借金は増える一方。いつか日本は国家破産して、預金封鎖で皆さんの貯金は国に没収される。そんな未来になると思っているでしょう。そうはならないと断言できる方はいらっしゃいますか? 日本の未来は明るいですか?」


「……」


 日本の未来が明るいと思う人は日本に一人もいないよ。


 そこで女の社員が挙手する。ちゃんと手を上げて質問する人は初めてだ。

「島に移住したら、白日本国民になるんですか?」


「大事なことを聞いて下さいました。皆さんは日本国籍がなくなって、日本に戻れなくなるんじゃないかっていうご心配を抱かれると思います。ですがご心配は無用です。白日本国で働くからといって日本国籍がなくなるわけではありませんし、日本国籍を棄てて、白日本国籍を取得していただく必要はありません。大事なのは、日本から住民票を無くすことです。住民票がなくなって半年たてば、もう日本には住んでいないということで住民税を払う必要はありません」


「……外国に住んでいるから住民税を払う必要はないってことですか?」


「ええ、外国で仕事をする日本人は、その外国で住民税を払います。ですが白日本国に住民税はないから払わなくっていいってことですね」


「住民税は毎年何十万円も払わされています。社会人1年目の時は住民税がないけど、2年目から、こんなに取られるのーってびっくりしました」


「私はまだ経験がありませんが、社会人あるあるらしいですね、ふふふ」

 由佳は聞いてほしいことを聞いてもらえてうれしそうだ。


「所得税がかからないって言うのはどうしてなんですか?」

「日本で働いてないんだから、日本に所得税を払う必要はありませんよ」

 由佳が即答する。


「話ができすぎるているように感じるんです。本当にそんな単純なんですか?」


「単純ですよ。根本的な話をすると、日本の税制は居住地主義だからです。日本に住んでいる人だけ税金がかかるっていう制度ですね。日本の外に出てしまえば、税金を払う必要はありません。一方で、アメリカは国籍主義なので、アメリカ人は別の国に住んでいてもアメリカに税金を払う必要があります。国によって税金の組み立て方が違っていて、根本から変えるのは不可能に近いんです。今後将来、白日本国に住む人に、日本が税金を課すことはありえないと思います」


 社員たちは由佳の話を、ぽかーんと聞いている。


 かなり専門的な法律の話だ。


 日本の税制の弱点を突く方法を女子高生から教わるとは思わなかっただろう。


 由佳ってほんと社会の仕組みに精通してるよな。


 南の島に独立国を作るっていう僕のバカげた思い付きは、由佳の手にかかって、めちゃくちゃお金を得する天才的アイディアに変貌した。


「というわけで、皆さんがアメリカ人だったら南の島に移住っていうアイディアは成立しませんが、皆さんは日本人でよかったですね。ゲーム会社の社員である皆さんなら、テレワークで世界のどこに住んでも、日本にいるのと変わらない仕事ができます。税金のかからない国で働いた方が得でしょう」


「なるほど」という感嘆が漏れている。


「ね、年金はどうなるんですか!? 年金保険料をいっぱい払わされているんですけど。税金よりもずっと高いですっ」


 別の若い女性が息せき切って、由佳に問いかける。


「ええ、今や年金と健康保険のお給料から天引きされる額の方が税金よりずっと高いですよね。日本で働く人の生活が苦しい元凶は年金と健康保険だと言っていいでしょう」

 由佳は落ち着いている。


「はい。お恥ずかしいですが、私は社会人になるまで知りませんでした。ゲームやラノベに夢中の子供でしたから……過労死するほど働いても手取りの給料がものすごく少ないことに衝撃を受けました」

 女性はものすごく切なく話す。


 他の社員もうなずいている。


 僕は高校生だから知らなかったけど、大人って大変なんだな。


「白日本国に年金はありません」

 由佳が答える。


 ざわっざわざわっ

 会場がものすごく騒がしくなる。


「ど、どうしてですか?」

「日本の年金は、最悪にブラックな制度だからです。白日本国にはふさわしくありません」


「ご説明していただけますか?」

 若い女性には理解できないようで、詳しい説明を求めてくる。


「聞きたいですか? 聞いてしまったら、日本がどんな異世界よりもブラックなところと知って、日本で働けなくなりますよ」

 由佳はもったいぶる。


 ごくっ

 怪談より怖いことを話すっぽい。

恋愛物の会話じゃないですね。

戦記物とするべきでした。


あと少しで完結ですので、ブクマを剥がさないでいただけるとありがたく存じます。

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