11 最悪のバブル世代はいずれボコられる
クリスタルの社長室。ソファーに座ったヴォルフは不機嫌なオーラを全開にしている。
隣の金髪美女がワイングラスを差し出すが、ヴォルフは払いのけた。
「西郷、タイガーチャイルドファンドへの対処が全くなされていないのはどういうことだアアア!?」
重低音が響き、居並ぶおっさん達が一様に身を震わせた。
西郷が頭を下げながら答える。
「タイガーチャイルドファンドが下請けに離反工作を行っている模様です。放置すれば部品の供給が続々と止まってしまいますので、必死に慰留に努めているところです」
「そんなことでもたついているのかッ」
ヴォルフは全く納得がいかない様子だ。
「下請けの溜まりに溜まった不満が爆発する寸前で……」
「守るんじゃなくて、タイガーチャイルドファンドを攻撃すればいいんですよ」
五味田が割り込んでくる。
「しかしだな、五味田」
「クリスタルが圧倒的な力を持つことを見せつけてこそ、下請けは従うんですよ。攻撃は最大の防御ってことを知らないんですかぁ」
五味田は西郷の部下であることを忘れたような口をきく。
「事はそう単純じゃない」
西郷は五味田を睨みつけ、二人は険悪な空気を放つ。
「五味田君、末娘の結婚式の準備は順調にいっているようだナ。末娘が喜んでいるゾ」
ヴォルフは急に話題を変える。口調は穏やかだ。
五味田は笑顔になってヴォルフにすり寄る。
「お褒めいただき光栄です。なんなりと私にお申し付けいただければ手配させていただきます」
「五味田君は仕事ができる人間のようだなァ。守りよりも攻めといのも私好みダ。よし、君にタイガーチャイルドファンドの対処を任せよう」
ヴォルフの思いつきで、その場に緊張が走る。
五味田が糸目を開けて、西郷にドヤ顔を向けた。西郷は口を結んでいる。
「慎んでお引き受けいたします」
「上手く行った暁には君が総務部長に昇格だゾ」
「本当ですか」
「ああ、使えない西郷はトイレ清掃の子会社に飛ばしてやる。役員じゃなくて、清掃員としてなァ」
「お、お待ち下さい」
さすがに我慢できなくなった西郷が割って入る。
トイレ清掃はクリスタルのリストラに使われており、ヴォルフに逆らった無数の男たちが異動を命じられてきた。
清掃員の方々には失礼な話だが、プライドの高いおっさんたちにとっては耐えがたい左遷である。
男たちはトイレ清掃をすることなく、クリスタルを辞めていった。
「タイガーチャイルドファンドとの戦いは始まったばかりです。私はまだ何も失態はしておりません」
「西郷、二度と私に意見するなッ。私は五味田君の方がふさわしいと言っているんだアッ」
ヴォルフは声を荒げた。
「そうですよ。西郷部長は黙っていてください。部長でいられるのも、あと少しですけどね」
五味田は西郷に冷ややかな視線を向ける。
「ご、五味田……貴様」
歯ぎしりしている西郷を、五味田は鼻で笑ってヴォルフの方を向く。
「こんなこともあろうかと、タイガーチャイルドファンドを返り討ちにする策を考えておりました」
上司の望むことを先回りして考えておく。ゴマすりで出世してきた五味田にとっては当たり前のことだ。
「ほおォ」
「まずはマスゴミどもに、タイガーチャイルドファンドを叩かせます。日頃、CMをたくさん流しているのですから、せいぜい働いてもらいますよ。他にも色々と攻撃してやります」
五味田は邪悪な笑みを浮かべた。
次回からバブル世代の社畜ぶりを発揮していきたいと思います。
ムカついても絶対にボコってやります。




