6 ブラックバイトを破滅させとく
クラーケンを想定どおり撃退して、実に気分がいい。
店員の多くはセブンスレイブからの引き抜きなので、ソロマートに代わっても仕事は慣れたものだ。
これなら安心して任せられるな。
オーナーとはかっこいい響きだと思う。
少し前まで人に使われる立場だったのが一転して人を使う立場になった。
しかもお金は捨てるほどあるから、採算を気にしなくていい。
3店も集中して建てたら、お客さんが足りなくて赤字だ。
オーナーごっこに満足したら、2店は閉鎖、残る1店は他人に売ってしまおうと思う。
そんなことを考えていると、よく知った顔が来店した。廃業したセブンスレイブ店長のハゲだ。
「い、いらっしゃいませ」
レジにいるバイトの女の子の声が緊張している。
セブンスレイブで働いていた子だからハゲには少なからず遺恨があるはずだ。
ハゲは雑誌売り場の前で僕と対峙する。
虚な目で睨み、肩を震わせている。
今にも僕につかみ掛かってきそうだ。
でも僕は落ちついている。
「もう二度と会うことはないと思ってたんだけど、負け組の顔が見れて良かったよ」
「コジロウ、お前がソロマート3店のオーナーだなんてどういうことだ」
呼び捨てかよ。まあ僕の圧勝だから気にならないな。
「ちょっとした金が手に入ったからね。嫌で仕方なかったバイト先を潰滅させるために使ったんだ」
「そんな下らないことに……俺の店は楽しい職場じゃなかっただろう。だけどお前にここまでされるほどひどいことはしてないはずだ」
「長年のサービス残業、釣り銭間違いの言い掛かりをつけられてタダ働きさせられた報いだよ。ハゲは大したことないと思ってるだろうけど、こっちはすごい苦痛だったんだ」
「俺がお前たちバイトに厳しくしたのは、鍛えてやってたんだ。社会に出た時に耐えられるようにな」
「上から目線で親切ぶりやがって、ムカつくよな。僕達の弱い立場につけこんでバイト代を巻き上げてただけだろうが。ブラックな店はつぶれた方がましだよ」
「何だと……俺には開業資金と家のローンで何千万という借金だけが残った。過労死するほど働いて、妻は過労で倒れて入院した。なあコジロウ、お前の子供じみた仕業のせいでどれだけ大勢の人間に迷惑をかけたかわかっているのか」
ハゲは、イタズラの重大さを説教しているつもりか。僕にはわざわざ人生の終わりぶりを知らせて面白がらせてくれているようにしか感じない。
「僕がやりすぎて悪かった、とでも言うと思った? 自己責任でしょ」
せせら笑ってやる。
僕が貧乏だった時、やさしくしてくれた人には恩返しをする。
だけど僕をイジメた奴には容赦なく復讐することに決めているのだ。
「……んで僕に何の用? もうあんたに指図される立場じゃないだよ。買わないなら帰って」
しっしと手を振る。
「頼む、金を貸してほしいんだ」
ハゲは両手で僕を拝んで急に下手に出てきた。
これだけ僕を批判しておいて、金をくれというのは予想外だった。
「なあコジロウが金を手に入れたというなら貸してくれよ」
「何に使うの?」
しつこく頼んでくるので、一応何のためか聞いてみる。
「ローンの返済をしなくちゃいけない。払えないと家を取られてしまうんだ」
夢のマイホームを失うのね。それは辛いだろうね。
「しょうがないね……」
僕が呟きかけると、ハゲはすかさず
「貸してくれるのかい? あ、ありがとう」
と早とちりする。
「自殺して保険金で払うしかないよね」
僕は邪悪に顔を歪めて、そう言い放つ。
ハゲには何の良心の呵責も感じない。
腰を抜かしたようにハゲは後ずさる。
「そこまで言うか。ひどい、ひどいよ」
それ以上言い返す言葉が思いつかないらしく、怒りで歯を食いしばっている。
「さ、出てって、はよ死ね。この店では死ぬなよ」
追い打ちを掛けてやる。
「ぶ、ぶっ殺してやる」
ハゲはポケットに手を突っ込む。
次の瞬間、手が引き抜かれて、手は光る物を握っている。
ナイフだ――
識別した時には、刃先が目の前にある。
ぐっ――
ズンという衝撃が腹に伝わってきた。
カランという金属音が店内に響く。
ハゲがナイフを床に落としたのだ。
「さ、刺したはずが、なぜ」
ハゲは我に返った様子で、震えている。
そう僕は刺された。
だが、無事だ。
「ハゲの行動はお見通しなんだよ。こんなこともあろうかと、防刃チョッキを着ておいたんだな」
腹を撫でながら、答えを教えてやる。
いずれハゲが復讐に来るとは思っていた。
ハゲを出入り禁止にすることも考えたが、それだけではつまらない。
凶行に及ばせて、刑務所に送ってやる。
そこまでやってトドメを刺したことになると思った。
ハゲは振り返って、出口の方に走る。
ドアを壊しそうなほどの勢いで飛び出していった。
逃げ出すことも想定済みだ。
店員には追いかけないように指示してある。
ハゲは身元がバレているからすぐに逮捕される。
防犯カメラには証拠がしっかり残っているしな。
「警察に通報を」
僕はカウンターにいる女性店員に指示する。
「はいっ」
歯切れよく答える。
彼女もハゲへの恨みが晴らせてすっきりしているだろう。
やりすぎの感じもあるけど、危険なハゲは早く牢屋に閉じ込めるに限る。
数時間後、ハゲは警察署に出頭し、殺人未遂容疑で逮捕された。
ネットで調べたら殺人未遂は懲役5年以上の刑。情状酌量されたとしても3年くらいは刑務所のようだ。
ハゲの家は差し押さえられ、一家は離散だろう。
何年後かに、刑務所を出たハゲが、今度こそ僕を殺そうとしてくることも考えられる。だが、その頃には僕はコンビニを引き払って、別の場所で暮らしていることだろう。僕の勝ち逃げである。
弱い。弱すぎる。
1兆円持っていると、異世界に行かなくても魔法のようなことができるな。モンスターカスタマーとブラックバイトごときは雑魚だ。
ブラックな奴らに無双していくのは楽しい。どんどんやっていこう。ククク
お読みいただきありがとうございました。
次回からブラック企業と戦って参ります。お読みいただきますと幸いです。




