表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/171

5 カスハラの報いを受けやがれっ

 僕は遺産を手に入れた翌日、コンビニのバイトを辞めていた。

 ついでにハゲとクラーケンへの復讐計画も発動している。


 バイトしていたセブンスレイブの道路を挟んだ向かい側、両隣で建築工事が始まる。

 ライバルのコンビニチェーン、ソロマートと、僕はオーナー契約をして、3つの店舗で取り囲む。


 これを知ったハゲが青ざめたことは想像に難くないが、トドメを刺しに行く。

 セブンスレイブで働いていたバイト全員に声を掛けて3割増の時給で引き抜いた。


 新しいコンビニが開店する前から、給料を払うのでセブンスレイブでは働かないように頼んである。

 突然バイトがゼロになったセブンスレイブだが、本部との契約で24時間営業を止めることができない。


 ハゲの家族が不眠不休で店員を務めるしかないだろう。


 放課後に僕はセブンスレイブを訪ねて行った。

 目に隈ができてやつれ切ったハゲがレジにいる。


 店に客はいない。

 店員が少なくてレジ待ちがひどいことが知れ渡って、客足が減っているのだ。


 レジ前に行くと、ハゲが声を掛けてくる。

「ああコジロウ君、バイトに戻ってくれないか」

 ハゲは泣きそうな顔だ。


 バイト仲間には口止めしておいたから、僕が裏で糸を引いてことをハゲは知らない。

「えー嫌ですよ、こんなブラックバイト」


「そんなこと言わないでよ、時給上げるからさ。お願いします」

 かつて見たことないほどハゲが下手に出てくる。


「いくら上げてくれるんですか」

「30円上げるよ、時給680円だよ」

 それがすごいことであるかのように言う。


「はは、ある意味すごいですね」

 あまりにショボい金額に笑えてしまう。


 かつての自分は650円で働いていたことが悲しい。

 しかも10分間のサービス早残業に、釣り銭間違いの言い掛かりまで食らっていた。


「やってくれるのかい」

 ハゲは勘違いしているので、


「やるわけないでしょ、それにもうすぐこの店の周りにソロマートが3店もできるんでしょ。終わりですね、この店」

とほくそ笑む。


「そ、そうなんだよ、なんでこんなことに。3店も出したら採算が取れるはずない。ここを潰しに来ているとしか思えないんだ」

「さて、ハゲが過労死するか、店が潰れるかどっちが先ですかね」


 冷たく言い放つ。ハゲは眉を吊り上げている。

「おおっとお客様にはいつも笑顔なんでしょ」


 さてどんなカスハラをしてやろうかと考えていると客が入って来た。

 見ればクラーケンだ。これは手間が省けた。


「良かったですね、貴重なお客様、しかも神様がご来店ですよ」

「あああああ」

 真っ青になるハゲを横目に何も買わずに立ち去る。


 クラーケンはまた煙草の銘柄クイズをやるだろう。

 ハゲしか店員がいないから、クラーケンに1時間くらい取られて売上はほぼゼロになる。


 バイトの引き抜きだけで瀕死の状態とは、案外弱いな。

 ソロマートを3店も建てなくても良かったのかもしれない。


 金がたくさんあるとコスパの悪い復讐をしてしまうようだ、と自嘲した。


 突貫工事でコンビニ3店は2週間かからずに完成した。


 オープン初日、放課後に学ラン姿の僕はオーナーとして誇らしい気分で店内を見て回る。


 ガラスの外に目をやると、セブンスレイブが、も抜けの殻になっている。

 外装を剥がれた姿に、風が吹きさらして、すでに廃墟じみている。


 セブンスレイブの客をジワジワと奪って閉店に追い込むつもりだったが、あっさりと潰れてしまった。

 ハゲが絶望に打ちひしがれる様子をもうちょっと見たかったのに実につまらない。


 一抹の寂寥を感じていると、もう一人の宿敵クラーケンがやって来る。

「いらっしゃいませ、あ」

 入ってきたクラーケンを識別して、カス校2年男子の茶髪のバイトがカウンターから出て行く。


 バイトはレジの前に立つクラーケンに、

「お前は出て行け」

と言い放った。


 クラーケンは一瞬何を言われたかわからなかったようだが、すぐに顔を真っ赤にする。

「何を言うか。お客様は神様だぞ」


「お前以外の神様の迷惑だから早く出てけっての」

 茶髪のバイトは事前の打ち合わせのとおり動いてくれる。


「おおい、店長、出てこ――い」

 絶叫するクラーケン。


 僕はクラーケンの傍に立つ。

「店長ではありませんが、僕はオーナーです」


 余裕の笑みを浮かべる。

 クラーケンのような高齢者が暴れたところでたかが知れているので恐怖は微塵も感じない。


 クラーケンがウザいのはお客様という立場がある時だけだ。

「お前が店長? ふざけるな」


「だから店長じゃなくて、オーナー。人の話を聞かないのは団塊の世代の特徴だよね。だから社会のゴミ扱いされるんだよ」

 僕は鼻で笑う。


 クラーケンは怒りに震えているようで、今にもつかみかかってきそうだ。

「本部に言いつけてやるわ、ここの店員は教育がなってないとな」


 クラーケンが僕を指差して言う。

「無駄だよ。本部との契約では嫌な客は追い出していいっていう条件を特別に付けてあるから」

「そんなことがあるか」


「あるんだなぁ。利益の取り分をちょっと本部が有利になるようにしてくれたら認めてくれたよ。他の店もそうすればいいのに。モンスターな客を相手にするのは利益より損の方が大きいからね」


 セブンスレイブでバイトをしていた時はつくづくそう思った。

 お客様は神様だという奴にロクな奴はいない。

 わずかな売上なんか失っていいから、出入り禁止にした方がいい。


「きゃ、客を追い出そうってのか。そんなことができるわけが」

「頭悪いなぁここは私有地なんで、誰を入れるかは僕が決めていいんだよ。さっさと出てけ。でないと不法侵入で、警察呼ぶぞ」


 警察という一言にクラーケンは弱い。後ずさり始める。


「言っとくけど他の2店のソロマートでもお前は出入り禁止だ。遠くのスーパーにでも歩いて行くんだな。買物難民は歩いているうちに熱中症で死にそうだな、ははははは、ジジイは早よ死ね」


 ずっと大声で言いたかったセリフを言う。

 気持ちいい。心の中でガッツポーズをする。


 クラーケンはわなわな震えながら店を出て行った。

 今までカスハラをした報いを受ける時が来た。


 コンビニで手軽なストレス解消が出来なくなったクラーケンは脳の血管がブチ切れて死ぬかもしれない。


 一番近いスーパーでも4キロくらい離れている。熱中症でほぼ確実に死ぬと思うが、たとえ夏を乗り切っても北陸の冬は超寒い。凍結した路面でコケて頭を打って死ぬか、吹雪で凍え死ぬことだろう。


 いずれにしろロクな死に方はしない。

だが、ハゲは死に絶えてはいなかった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ