夕園地
空は紫色から橙色の階調に染まり、きらきらとライトアップされた遊園地は、閉園のアナウンスを流している。
見知らぬ家族達はぞろぞろと、皆エントランスの方へと歩んでいく。
「お嬢さん」
女の子が振り返ると、そこには紫色と橙色のツートンカラーの二股帽子を被ったピエロが立っていた。
「どうしたんだい?もう、遊園地はおしまいの時間だよ。さあ、お帰り」
しかし女の子は俯き、立ち尽くして何も言わなかった。
「……お母さんは?」
女の子はふるふると首を横に振った。そう、迷子なのだ。
「じゃあ、ボクと遊んでいようよ!」
女の子はしょんぼりとした顔のまま、頷いた。
ピエロは女の子の小さい手を引き、煌々と輝くメリーゴーランドへと向かった。
メリーゴーランドの弾むような音楽は、聞くとたちまち楽しくなってくる。
「風船をどうぞ」
真っ赤な風船はぷかりと夕暮れに浮かび、見ている心までを浮かばせるようだった。
「さあ、メリーゴーランドに乗って。出発だよ!」
ピエロがそう言うと、豪華な装飾が施された木馬がゆっくりと動き出す。
回る夕暮れに流星群のように糸を伸ばす星々。
女の子は次第に、自分が迷子である事を忘れてしまっていた。
──すると、ライトアップがぱっと消え、夕闇には遊園地のシルエットだけが浮かび上がった。女の子は突然の事に驚く。
「ふふふ、もう時間だね」
そう言うと、ピエロは止まってしまった木馬から身軽にひょいと降りる。
「ようこそ、夕闇の遊園地へ」
ピエロは右手を前に、深くお辞儀をする。
「エントランスはもう閉まってるよ。つまり……」
目を細め、にっこりと微笑む。
「もう、帰れないよ」
女の子の手から風船が離れ、ピエロの笑い声と共に夕闇の空へと吸い込まれて行った。