第2話 健康診断
「あ~…暇だ…暇すぎて死にそう…何かする事無かったっけ?」
書斎で済ませた書類の山を見つめ、項垂れる男はそうアカイワジュン。
この世界最強の男といえど、やることも全て終わらせ仕事も入ってきていないこの状況、すなわち暇というものには勝てない。
「確かに暇ですね~、掃除も終わっちゃいましたし。洗濯物も全て干しましたし、特にこれと言ってする事は無かったかと」
「だろ~…昼寝でもっすか。」
「ししょー!ひまー、遊ぼーよー!」
椅子に深く腰掛け、顔に情報紙を乗せ半分寝そうになっているジュンの肩を引き、アスタはジュンを遊びに誘っている模様。
「アカイワ、戻ったぞ」
「ただいま戻りました赤岩さん」
仁君とギリアムは、二人で城下町へ行きギリアムは王城への書類提出、仁君は買い出しと言った具合で、それを済まし戻って来た頃である。
「うーい…」
「おかえりなさいお二人とも、コーヒーでも淹れましょうか?」
「…あぁ」
「あっありがとうございます」
ミアは座っていたソファから腰を上げ、戸棚からコーヒーを淹れていく。
「そうそう、アカイワ。憲兵からそろそろメンバー全員の健康診断結果出すようにだとよ」
「あーもうそんな時期か…今日やること無ぇからやっちまうか。新しいメンバーも居ることだし」
~~~赤岩家・中庭~~~
「なんなのよ…急に…私徹夜明けで眠いんだけど…」
「けんこーしんだん久しぶりだねー」
「また…するんですね」
「半年ぶり位でしょうか?」
何故か全員ジャージ姿で、中庭に整列しリューコは簡易的な机の上の用紙を準備、ミアは少し落ち着かない雰囲気でそわそわしている。
リィナはとても楽しみな様子で、アスタはジャージが落ち着かないのかモゾモゾと着直したりしている。
「ったく、普段着で良いだろうが。何故いちいち『じゃーじ』何かを着なきゃなんねぇんだ」
「でもこれ全員分サイズ揃ってるなんて、もしかして赤岩さん凝り性なんですかね?」
ジャージに身を包んだギリアムと仁、男女でカラーがキチンと分けられており、男は紺・女性は小豆色と何処かレトロな感じに取れる。
例外なくジャージに身を包んだジュンが、リューコの準備していた机の横にある木箱の上へ乗り、全員一列に整列が整う。
「はーい、全員集合したかー。準備体操からすんぞー」
彼の言葉で突然始まった【ラジオ体操第一】、仁やアスタ等の面子はキチンとジュンに合わせ、ミアやリューコもキチンとこなしている。
リィナは普段の運動不足が災いしたのか、中盤頃から息が上がっている。
普段ジュンとは喧嘩しかしていない、ギリアムも意外な事に律儀にこなしているのは、仁も心底驚いていた。
終わった頃には、皆調度いい位に体が温まっており、血色も良くなっているのが伺える。…たった一人を除いて。
「お兄様…私はもう…駄目かもしれません。私の分までケンコウシンダンを…」
「リィナ!おい!リィナァァァァァァ!!!」
血色もとても良いとは言えない、リィナはギリアムの胸の中で、そっと目を閉じる。(ただの貧血です)
愛する妹が胸の中で、徐々に具合が悪くなっているのを、兄として何もしてやれない無力にギリアムは、瞳に大粒の涙を宿している。(ただの貧血です)
「うるせぇぇぇぇぇぇぇっ!!!健康診断の度、毎回毎回!小ネタ劇場やらねぇと気が済まねぇのかテメェは!!!」
ギリアムの過剰までな過保護はもう見慣れたものだが、リィナを抱き上げミアに渡したジュンは、容赦無くギリアムの頭へと拳を叩き込んでいる。
「リィナさん大丈夫ですか?」
「はい…少しクラっとしただけですので」
「でもリィナちゃんも、前より体強くなったよね~」
女性陣は後ろで大喧嘩しているジュンとギリアムを放って、木陰で一休みしている。
「ちょっと二人共やめてくださいよ!!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!ヘタレ止めんな!もう我慢ならねぇ!こいつとは今ここで決着を付ける!」
「上等だテメェ!!かかってこいコラ!!」
しばらくは二人で、殴り合い蹴り合いをしていたが、仁も必死に止めようとしても効果が全く無いため、二人の後頭部へミアの拳が叩き込まれる。
「お二人とも、そろそろ喧嘩は終わりにしましょう」
お互いで作ったコブよりも、一際大きいタンコブが後頭部から腫れ上がり、二人共白目を向いて気絶している。
「(もしかして世界で一番強いのって、赤岩さんじゃなくてミアさんなのかな?)」
「ごめんなさいねジンさん、お見苦しい所を」
~~~身長・体重 測定~~~
身長を測る時は、ジュンが用意していたメジャーなような物で、大雑把に測定される。
「おーっし、全員終わったな。次いくぞー」
その言葉で、ミアとリューコは途端に険しい顔をする。
「ミッミアちゃん先にして貰ったら…」
「いえ…去年は私が先でしたので、今年はリューコさんがお先に…」
「リィナちゃん42kg、前測った時よりも増えてんな。健康的だ何より」
「ありがとうございます」
ジュンが測る対象を持ち上げ、正確な体重を読み上げていく。
「(なんでこの人、機械よりも正確に測れるんだろ…)」
アスタは脇から持ち上げられ、小さな子が親に持ち上げられる様に持たれている。
「アスタ38kg、お前ほんと軽いなぁ。…こんなちっちゃいのに、食ったもん何処に行ってんだよ」
「わーい!ししょー!もっかい!」
無邪気そのものの彼女は、ジュンとじゃれ合っており、兄と妹というより父と娘の様になっている。
「おーい次、仁君だぞー」
ジンは呼ばれたのでジュンの元へ行き、持ち上げられる。アスタの時の様な持ち上げ方を想像していたが、俗に言う【お姫様抱っこ】となってしまい、思わず生娘の様に赤面してしまう。
「仁君52kg、想像してたより結構重いな。筋肉結構付いた?」
「はっ…はい…」
「ねぇミアちゃん…」
「はい?」
「ジン君、なんであんな女の子より、女の子みたいに可愛いのかしら」
「わかりませんが…、確かに微笑ましいですね。」
二人のその様子を見る二人は、王子様に抱えられる姫の様な印象で、ジンを微笑ましげに見ている。
「やめろぉぉぉぉ!俺は受けたくねぇぇぇぇぇ!」
「ギリアムさん!!僕だって受けたんですから!僕の時あんなに爆笑してたじゃないですか!!」
「ヘタレ、テメェェェェェェ!!!!!」
誰でも想像していた通り、ギリアムは暴れジンとアスタに取り押さえられているが、一向にジュンの元へ行く気配は無い。
「ミアさん!今です!お願いします!」
「は~い」
本日二度目の鉄拳制裁、また一段と大きいコブを作っていた。
「ギリアム、78kg。こいつ脳みそまで筋肉で出来てんじゃあねぇの、前回よりも増えてんだけど」
荷物を抱えあげられる様に、脇に抱えられているギリアム、それを見たリューコとアスタは腹を抱えて大爆笑、ジンも最初は笑ってはいけないと自分に言い聞かせていたが、二人の爆笑する声に耐えきれず笑ってしまう。
ジュンの瞳がニヤッと笑い、リューコとミアを捉えると、二人の間に「ピシッ」と音が鳴ったように空間が固まる。
「ミアちゃん…今日はミアちゃんといえど、私負けれないから!」
「私も同じ気持ちです。リューコでも、手は抜きません」
二人は唐突に険しい表情で、互いの命をやり取りする戦士の如き気迫で構える。
始めたのは…ジャンケンだ。
「あーーーーっ!リューコさんズルです!後出しです!もう一回!もう一回お願いしますぅ…」
「後出しじゃないわよ!これはちゃんとした勝ちなんだからね!」
あいこが何回か続いた後、ミアがパーリューコはチョキ、と言った具合で勝敗は別れた。
「あははは、今回はどっちが先だ~?」
ジュンはジャンケンで敗北したミアを軽く持ち上げ、ニコニコと笑っている。
「ジュ…ジュンさん、長くないですか…」
「そうか?でもミアとこうやって密着できるの久しぶりだからな~」
「(二人とも絵になるんですけど…ジャージじゃなけりゃなぁ…)」
「えーミア体重5…!ブッゥ!」
恥ずかしさの余り、ミアはジュンが読み上げる前に、鼻へと拳を叩き込んでしまう。
「あたたたた…鼻血、鼻血が。ミア、ティッシュティッシュ」
「ああぅすみませんジュンさん!…はい、ティッシュ」
見事なまでの夫婦漫才、鼻の両穴に白い布を詰めたジュンは、凛々しさの欠片もない間抜け面になっている。
「えー次、リューコ」
ものすごく真剣な面持ちでこの世の終わりと言いたげな表情で、ジュンに軽く持ち上げられてしまう。
「リューコ、5…」
「この者をから音を奪い給え!サイレス!」
「んーーーーっ”」
「おっおほほほ、体重測定も終わった事だし、次行きましょうかしら~」
「んごごごごごーーー!!(リューコ、何しやがるテメェ!!)」
体重測定等も終わると、その次は200m走・シャトルラン・握力測定・ジャンプ力測定・砲丸投げ・と、地球で何度も授業でやった項目ばかりを測定していった。
全ての項目が終了したのは、夕方の少し前でミアさんは夕食の用意などで、皆いつもの生活に戻っていった。
~~~夜・岡野 仁 私室~~~
「ふぅ~…今日も楽しかったな」
程よい疲れとともに、布団に潜り込みウトウトと眠りに入る時、今日の事を思い出しながら少し微笑みが隠せない仁であった。
「あっ、そう言えば赤岩さん自身の事何も測定してないんじゃ」