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かみさまみたいな人ですね  作者: 夏みかん
7/19

ジェイムズの真意

ビュッフェ式の食事だが、やはりゲストがゲストだけにかなりの美味だった。開始から30分ほど経つ頃には凛と美咲も食事の美味しさに緊張もなくなっており、誰からも話しかけられることもなく自由な時間を過ごせていた。


「ツカサ!」


そんな3人の元にキャサリンが近づいてくる。皿に大盛りの鶏肉を乗せている司はにんまりと笑うとキャサリンに軽く手を挙げた。


「この間はありがとうね。どう、美味しい?」

「ああ、すんごく美味い」


満足そうに笑う司にキャサリンも笑顔になった。その後、凛と美咲を紹介し、キャサリンは美咲とも仲良くなっていた。ただ、周囲はキャサリンに敬語を使わない司にヒソヒソと話をしていたが、それに気づいているのは凛だけだ。


「君がツカサ・カミデ君、だね?」


低いながらもよく通る声にそっちを見れば、スーツに身を包んだ金髪のオールバック姿のジェイムズが数人のボディガードと愛理を伴ってやってきた。一気に緊張が増す凛だったが、司はそれも全くないように微笑を浮かべていた。


「娘がお世話になったそうで」

「大したことはしていなよ。ただ、祓っただけ」


ここでも敬語を使わない司に周囲はおろか愛理も怪訝な顔をしてみせる。だがジェイムズは気にすることなく微笑を浮かべて頷いていた。


「今日は存分に食べて欲しい」

「そうさせてもうらうよ」

「うむ。で、今日はこの後は、帰るのかな?」

「だね?」


司はかなり不機嫌そうな目で自分を見ている愛理にそう問いかけた。愛理はそうですと返事をしつつ司を睨むが、司はそんな視線を気にすることもなく横目でキャサリンの胸元を見ていた。


「下品な上にいやらしい」


誰にも聞こえない声でそう呟いた愛理だったが、目はジェイムズに向けられている。


「この後、少しお話がしたい。どうだろう・・・部屋を取るので宿泊、など」

「いい部屋なら」


平然とそう言う司にさすがの愛理もキレて詰め寄った矢先、ジェイムズが心底楽しそうに笑った。


「いい部屋を用意しましょう。お連れの方もよろしいかな?」


もう頷くしかない凛に対し、キャサリンと打ち解けあっている様子の美咲も頷いた。ジェイムズは満足そうに微笑むと愛理にその手配を頼み、司の肩に手を乗せた。


「なんというか、君は人として自然だ・・・そういう人間は誰よりも信用できる」


ジェイムズは英語でそう言い、去って行った。キャサリンから今の言葉を訳してもらい、司は微笑むと、ホッとした顔をしている凛を見てにんまりと笑った。


「自然ってか、バカだよねぇ」


近くにいたレオナがそう言いつつやって来る。頷く凛は司がジェイムズに気に入られたことに安心しつつも、本気で一般常識を叩き込む必要があると心から思うのだった。


「私もツカサたちの部屋で寝ようかな」


呟くキャサリンにそうしなよと言う美咲。この短時間ですっかり仲良くなったのか、こちらの言動にも頭痛がしてくる。そんな凛を見たレオナは苦笑し、そのまま司を見れば司はキャサリンのネックレスをじっと見つめていた。


「その白いの、何?」


司の言葉にネックレスを見たキャサリンが指でそれを摘むようにして軽く持ち上げた。


「霊圧の塊だよね?」

「レイアツ?」

「凄いね・・・もう霊圧ってレベルじゃないよ・・・・でも気づかないぐらい静かだ」


美咲は今の今まで気づかなかったことを不思議がる。人より霊力が高い美咲は霊感の塊のような人間だ。その美咲がこうまで近くにいながらその霊圧の塊に気づかなかったことに凛は不安を覚えた。


「お父さんがくれたの、2年前に」

「2年前?」

「お母さんが死んだ、次の日に・・・」


さっきまで明るかったキャサリンの表情が曇る。美咲はそんなキャサリンの肩にそっと手を置くと同じような顔をしてみせた。


「うちもお母さんいないから、わかるよ」


その言葉にキャサリンも薄く笑った。


「それ着けてから、この間みたいのが増えた?減った?」

「この間って・・・・気持ち悪くなるやつ?増えも減りもしてないよ。子供の頃からずっとだし」

「そうか」


司はそう言うと珍しく難しい顔をしていた。それに気づいていた凛とレオナは思わず顔を見合わせる。


「気になるの?」


凛の耳打ちに司は表情を崩した。


「まぁね」


微笑みながらそう言う司からはそれ以上何も言うことはないという雰囲気が出ていた。それに深く追求しても何も話さないだろうと思い、そのまま司から離れる。見た限りでは危険などなさそうなのでそれでよしとしたのだ。そんな様子を離れた場所から見ていたジェイムズはすぐ隣にいる黒服の男に顔を寄せた。


「彼の数値を計ってくれ」


その言葉に男は頷き、ポケットからスマホかタブレットか、そういうようなものを取り出してなにやら操作を始めた。スマートフォンに似たその画面に幾何学的な模様や数式が表示された後、ある数値が浮かび上がった。その瞬間、黒服とジェイムズの表情が驚愕に歪んでいった。


「き、機械の故障でしょうか?」

「いや、まさかここまでとは・・・12億6千万の霊的エネルギーなど、人の出せる数値ではない」


驚きの顔のまま司を見たジェイムズは彼がキャサリンの胸で光る白い玉を見つめていることに気づき、表情を引き締めた。


「彼の妹の数値も8千万を超えています」

「確かに数値としては高いがまだ納得は出来る・・・だが彼の数値は明らかに異常だ」


ジェイムズはそう呟き、何かを考えるようにしてみせた。


「この後、彼らを宿泊させた。話はその時にするつもりだ。準備をしておけ」


ジェイムズはそう言い、黒服は一礼すると下がっていった。


「12億超えの男・・・本当に人間なのか?」


談笑する司を見つめてそう呟くジェイムズを見ていた愛理もまた司を見やる。礼儀も知らない胡散臭い霊能者にジェイムズがこうまで入れ込み上げる理由がわからない。それに、ジェイムズのしている研究もまた愛理にとっては胡散臭いことこの上なかった。ため息混じりにシャンパンを手に取ったが、今は公務中とあってそれを口にせずにそのままテーブルに置くと、政府高官と歓談するジェイムズを見つめるのだった。



晩餐会も終わり、司たちはレオナと別れて用意された部屋へと向かっていた。たらふく美味しい食事を楽しんだ司はご満悦だが、凛としてはジェイムズのこの提案の意図が読みきれずに漠然とした不安を抱いたままだ。ただ司にしろ美咲にしろ、なんら異常を察知したような感じはない。特に危険予知に優れた美咲は鼻歌を歌いつつ愛理に先導されて歩いていた。心配も杞憂かと思った矢先、愛理の足が止まった。


「ここです」


カードキーを差し込んで扉を開けて中に入れば、そこはホテルの一室とは思えないほどの広さと豪華さを持っていた。ベッドルームは2つもあり、リビングである部屋は20畳はあろうかという広さだ。しかも全面がガラス張りであり、見事な夜景も一望できていた。風呂場も広く、ジャグジーもある。ありとあらゆる設備が充実し、自分が偉くなった錯覚さえ起きていた。司はゆったりとしたソファに腰掛け、目の前に広がる夜景を眺めている。美咲は風呂場を見て大はしゃぎし、凛を誘ってさっそく入浴を決め込んでいた。


「1時間後にジェイムズ氏が来られて、あるお話をされます。それまではおくつろぎ下さい」


愛理はそう言い、替えの下着などを置いて部屋を去ろうとした。


「あんたはその時、来ないの?」


相変わらずの言葉遣いにイライラを募らせつつ、ソファに座ったまま夜景を見ている司に向き直る。


「来ます」

「そう」


感情のない声でそう言う司を睨むようにした愛理を見やった凛の表情が曇る。こういう時の司は突拍子のないことを言い出すためだ。


「なにか問題でも?」

「いや・・・」


歯切れの悪い言葉に愛理が歩み寄り、冷たい目で司を見下ろした。ここでようやく愛理を見上げた司は薄い笑みを浮かべてみせた。


「なに?」

「あんたのお母さんが心配してる。俺に関わって欲しくないみたいだな」


死んだ母親のことを言われて動揺しつつもそれを表情に出さなかった愛理だが、その目には怒りにも似た感情の炎が宿っていた。


「どういう意味かしら?」


愛理のその目を見ても薄ら笑いを消さない司が何かを言いかけた時だった。


「佐田さんのお母さんが心配してる。私たちに関わっているとあなたに良くないことが起きるって」


横槍を入れる形でそう言った美咲の方を見た愛理はますます怪訝な顔をしてみせた。司に関するデータはあれど、美咲にはそういった能力があるとは書かれていなかったからだ。

「良くないことって?」

「わかんないけど・・・お姉さんって特殊な霊圧持ってるから、そのせいかも。・・・何かこう・・・ずっと佐田さんを追っているような、包んでいるような、変なのが」

「特殊な・・・・霊圧?」


わけのわからない用語に困惑しつつ、愛理は心の動揺を見せないように心がけていた。この兄妹の言葉が嘘か本当かはわからない。だが、母の死を、この2人は知らないはずだ。


「霊圧の説明は私からします」


凛がそう言いながら愛理に歩み寄り、簡単ながら霊力や霊圧の説明をしていく。半信半疑の心境ながらもそれを受け入れた愛理だったが、元々霊など信じていないこともあってSF設定じみたその話を鵜呑みにはしなかった。


「で、特殊なそのレイアツ?だっけか、それのせいで母が心配してると?」

「だと思う」


美咲はそう言い、じっと愛理を見つめていた。


「お姉ちゃんの光るオーラとは違うんだけど、佐田さんからもなんか光るオーラが見えるから」

「オーラ?」


愛理は怪訝そうにそうつぶやいて自分を見るようにするが、当たり前だが何も見えない。


「それって光天翼みたいなの?」


凛の言葉に美咲は首を横に振った。凛が司を想うと発現する光天翼は前世であるミコトの魂がアマツを探す際に反応して出るものだ。2人が結ばれた今でも何故それが発現するのかは謎だが、元々光天翼は高次元エネルギーの塊であり、そのエネルギーが霊力のような形で具現化したのか凛のオーラだった。だが愛理のそれは高次元のエネルギーではない。強いているのなら、それは弱いながらも濃く密集した霊圧が発していると美咲は説明をした。司はじっと愛理を見つめ、凛は難しい顔をする。まったく理解ができない愛理は深いため息をつくとまた後でといい残し、部屋から出て行った。


「さて、と、風呂にでも入るかな」


そんな愛理を見ることをせず、司はさっさと風呂場へと向かって行った。その司の背中を見送る凛の胸に宿る不安。愛理の母の言葉も気になるが、どうにも嫌な予感が頭から離れない。胸の前でぎゅっと右拳を握る凛を眩しそうに見つつ、司に先に風呂に入られてしまった美咲はソファに体を埋めるようにするとテレビのチャンネルを変えていくのだった。



部屋に集まった人数はそれなりでも、この広さであれば窮屈さは感じなかった。元々3人で泊まるには広すぎる部屋だ。今はその3人の他に愛理、キャサリン、ジェイムズ、そしてジェイムズの付き人である金髪の男性が2人の計8人が広いリビングに集合していた。ジェイムズとキャサリンが正面のソファに座り、その右側のソファに凛と美咲が座っている。付き人は部屋の入り口付近に立ち、愛理は大きな窓の横にある壁にもたれるようにして立っていた。司は窓から見える見事な夜景を見つつジュースの入ったコップを手に立っている状態だ。


「ではここに招いた用件を話すとしましょう」


流暢な日本語でそう言うジェイムズに全員が注目するが、司は体を斜めにしつつ顔を夜景に向けている。だが、その目がいつもと違って鋭いことを見抜いたジェイムズは司を注意しようとした愛理を手で制すると一つ咳払いをしてみせた。


「まずは私の友人が提唱した次元波動理論というものが発端だった」


そう前置きをし、ジェイムズは話を始める。ジェイムズの友人は霊能者であり、いわゆる見える人だったという。祓う能力は低いが、霊の声を聞き、その問題をクリアしていく力を持っていた。そんな彼がある霊とコンタクトを取った際に、それを祓いに来たあるエクソシストと出会った。それがバチカンの異端児であり、最強と名高いナタス・ヘイガンだった。その名を聞いた凛の表情が曇り、ここでようやくジェイムズの方を見やった司の口元に意味ありげな笑みが浮かぶ。ナタスは霊を祓う際にその友人をも巻き込んだ。もちろんそれは意図的であった。結果、友人はこの次元に穴をあけたナタスのせいで高次元の世界を見てしまったのだ。この宇宙に存在しない高いエネルギーの世界。自分はそこで神を見た、後に彼はそうジェイムズに告げたと言う。そして帰還した友人は急に頭に閃いた理論を書き溜め、それを次元波動理論としてまとめたのだ。


「高いエネルギーをぶつけて次元に穴をあけ、そこから出た高次元のエネルギーを圧縮機器を通して再度その穴にエネルギーを返すことで半永久的に圧倒的なエネルギーを得る。それが次元波動機関だ」


分かるようで分からない説明に美咲と凛は難しい顔をするが、司は理解出来ているのか薄い笑みを浮かべたまま夜景に目をやった。


「どうやって圧縮したかは知らないけど、ま、そんなことをしたらこの世のエネルギーがなくなるかもね」


夜景を見たままそう言う司を満足そうに見たジェイムズは問題はまさにそれだと言葉を発した。次元の穴を開けてそこから莫大かつまったく異質で異常なエネルギーを取り出して循環させる。だが、高次元のエネルギーはこの世界とは根本的に違う存在だけに、今の世界の物理的バランスを崩してしまうのだ。この世に存在できないエネルギーを循環させると今あるエネルギーが暴走する、ジェイムズはそう加えて一旦口を閉じた。


「光天翼も、そういうエネルギーなのに?」


凛の言葉に司が笑う。そのまま窓を背にもたれかかると、腕組みをして凛を見つめた。


「だから使用者の命を必要としてる。この世の法則を無視した莫大な力、制御するのは命だ。霊的なエネルギー、魂ってさ、限りなく高次元の存在に近いんだ。それを肉体と繋ぎとめておくことが出来るのが命。繋ぐ力が命だから、それを使って制御してるんだよ」


無限の力を全開にしたからこそ、司は死んだのだ。命がその繋ぎを維持出来なくなり、消滅した結果が死だ。カグラは邪念となった魂を高次元のエネルギーにまで昇華したために命を必要としなかった。肉体というこの世の物質が高次元のエネルギーに耐えることができないため、命を防御幕にしてそれを操るのが光天翼だった。


「だが、友人は高次元の意思、波動存在というべきものと接触した際にその矛盾を解消できる知識を得た。ただ、それには莫大な資金がいる。私はそれを援助し、ついに霊的なエネルギーを解析し、高次元波動機関を完成させたのだ」

「その試作品がキャサリンのそれ、かい?」


その司の言葉に驚いた顔をしたジェイムズが初めて見せる表情で司を見やる。司はキャサリンの胸元で揺れるネックレスを見ており、キャサリンはネックレスの先に付いている白い玉を摘むようにして持ち上げて見せた。


「霊圧に近いが、似て非なるものだよね?」

「そっか、それでか・・・」


美咲も納得したように頷き、凛もまた理解できていた。ただ、愛理だけが意味がわからないという顔をしており、キャサリンはじっと玉を見つめていた。


「さすがだよ・・・あすがあのナタス・ヘイガンを倒した男だ」

「へぇ、知ってたの?」


へらへら笑う司に薄く微笑み返したジェイムズは当然だと言わんばかりに頷いてみせる。


「彼のファントムエナジーが計測できなくなってね。調査してみれば君に倒されたと・・・」

「ありゃぁ、あいつの自業自得だったけどな」

「ファントムエナジーって何ですか?」


小馬鹿にした司が夜景に顔を向けるのと同時に凛がそう尋ねる。ジェイムズはテーブルの上に置かれたワインを一口飲むと付き人の1人に目で合図を送った。長身の男が黒いスーツの内ポケットからスマートフォンのような物を取り出してジェイムズに手渡した。ジェイムズはそれを操作し、司に向ける。


「12億6千万のファントムエナジーを観測している・・・君からね」


その言葉に凛と美咲が画面を覗きこんだ。薄青い背景に複雑な数値が表示されては消えていく。そんな中、下の方に表示されたその数値だけが明滅していた。


「ファントムエナジーって霊圧と霊力のことみたい」


美咲の言葉に司は笑みを濃くした。そのままジェイムズは画面を操作し、今度はそれを美咲に向ける。すると画面の中がめまぐるしく変化し、さっき同様下の方に8千万の数値を明滅させた。


「8千万でも、この地球上に10人もいない。そして12億を超えるなどという異常な数値は、他にいない・・・あのナタス・ヘイガンでさえ、最大で2億程度だった。君は神か何か、というべき存在だ、数値上はね」


ジェイムズの言葉に司はようやく体をそっちに向けた。最大で、とは、弟であるミカエル・ヘイガンとシンクロした数値だと見ぬいた顔で。


「美咲が8千万で俺が12億か・・・ってことはそいつは光天翼も認識してるってことかねぇ」

「そこが不思議でね・・・この機械は霊的なエネルギーしか感知できない。だが、君からはそれだけではないものを感知している」

「凛が持っているってのが鍵だろうな」


納得する司に対し、美咲も凛も怪訝な顔をするしかない。純粋な霊的エネルギーでいえば、司の数値は1億3千万程度だとジェイムズは推測する。それ以外の要因が光天翼だが、こちらは高次元エネルギーだ。しかも何故か凛が所有しており、司はそれを認知できていない。なのに数値が12億6千万となるとこれはもう異常なものだ。凛が持っていることが鍵という意味がわからないために司を見ると、司は苦笑するだけで何も言わなかった。


「昨年末に観測した数値はこの日本で20億を超えていた。そして今年初め、測定不能の数値もこの日本で観測された。それを調べた結果、君が関与しているとわかった。そう、2度ともね」


昨年末といえば、来日したナタス・ヘイガンとミカエル・ヘイガンと対峙した際のことだろう。ナタスはミカエルの霊圧を自分にプラスしてその霊圧を高次元にまで高めていた。ただのシンクロではない。上乗せした上でのシンクロという特殊な芸当だ。それに加えて司の霊圧が加われば、相乗効果でそのような数値が出てもおかしくはない。そして今年初めのその数値はカグラと戦った際のものだろう。互いに高次元エネルギーと化した霊圧を使用してたために測定できないほどの巨大な数値に至ったと推測される。


「一般的な数値はせいぜい10から100程度だ。著名な霊能者でも高くて10万、バチカンのミカエル氏でさえ5千万だった。つまり君のファントムエナジーは人とは違う。高次元の壁を超えたものに思えてならない」

「ま、人間じゃない・・・そういう気もしてるしね、自分でもさ」


司は薄く笑う。凛はそんな司をじっと見つめていた。司は人間だ。誰よりも人間らしい。好きな子に罵られ、裏切られて心を壊した。そんなどこにでもいる人間なのだ。ただ霊能力を持っている、それが特別なだけ。


「だから、君を調べたい・・・というのが話の趣旨だよ」

「イヤだと言ったら?」

「ふむ・・・まぁ、外からいろいろ調査することになるかな」

「じゃぁ勝手にしてくれ。俺はいろいろ忙しいし」


にんまり笑う司にホッとしたのは凛だけではなかった。キャサリンもどこか安心したような顔をしている。父親のことは尊敬していても、この研究に関してだけは賛成できない。現に多くの霊能者や超能力者が実験に使われて人格を破壊されたり精神を病んだりしている、そういう話も聞いているからだ。


「交渉は決裂か」

「次元に穴を開けて放置すれば、この世界、ってか宇宙かな・・・それは消えるよ」

「そうかな?穴といっても小さすぎて宇宙から見れば閉じているのと同じだがね」

「かもね」


ニヤッと笑う司とジェイムズだが、美咲はジェイムズの笑みに寒気を覚え、凛は司の笑みに不安を覚えた。


「では失礼するよ。君に関しては外からいろいろやらせてもらうが」

「ご自由に」


ジェイムズは立ち上がり、キャサリンに目で立つように促してドアへと向かった。キャサリンは困った顔のまま司たちに頭を下げると付き人にガードされるように部屋を後にする。残った愛理もそそくさを部屋を出ると、残った3人は会話もなくしんと静まった部屋の空気にどこか気まずさを感じていた。


「司君・・・」

「イヤな予感がするだけだよ・・・酷くイヤな、ね」


司は不安そうな凛を煽るような言葉を投げかけた後で冷蔵庫へと向かった。凛は心の中の不安を大きくしつつ、冷蔵庫の中からジュースを取り出す司の背中を見ることしかできないのだった。

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