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かみさまみたいな人ですね  作者: 夏みかん
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2人の絆

美味しい料理を堪能してお店を出た2人はそのまま繁華街を経由して大きな公園に向かった。ここらはよく映画を見に来る街であり、ここに公園があることも知っている。とにかく静かで落ち着いた場所で話がしたかった凛は木でできたベンチに腰掛け、司もその横に座った。風もなく、寒さもそう感じない。赤いマフラーで口元を覆った司がぼんやりと雲で霞んだ月を見上げていた。


「これ、プレゼント」


赤いバッグから箱をクリスマス仕様の紙で包んだものを取り出した凛を見た司は少し照れた顔をしつつもそれを受け取った。去年もらったネックレスは常に身に付けているだけに、凛は今回もずっと身に着けてもらえる物を選んでいた。司は凛の許可を貰ってそれを開けていく。そうして中から出てきたのは高そうな腕時計だった。まじまじとそれを見つめる司だが、微笑みつつも少しそれが曇る。その理由を理解している凛は箱から腕時計を取り出すとそっと数珠の邪魔にならないよう司の左手にそれをはめた。


「霊圧の高い人は腕時計をしてもすぐに狂うって信司さんから聞いてる。だから遮那さんに相談して霊的防御を施してもらったの」


霊圧が高いゆえに時計の針が異常な動きをしたりデジタル表示がおかしくなることが多かった。携帯電話は時々動きがおかしくなる程度だが、簡単な構造のせいか時計は霊的な影響をすぐに受けるのだ。現に美咲も来武も腕時計はしていない。もっぱら携帯電話やスマホで時間を確認しているのだった。


「結構前からこれを送りたいって思ってたんだけど、今回、遮那さんが来てくれて助かっちゃった」


事件の後で2人で買い物に出かけ、その際に購入してすぐに遮那に処置をしてもらったのだ。霊圧を溜め込む数珠とは違い、その反対に霊的なエネルギーを反発させるように力を込めてもらったのだ。時計に天蓋霊幕を使ったのは初めてだと苦笑されたことを思い出し、凛もまた小さく微笑んだ。


「あ、ありがとう」

「それ見て、ちゃんと養成所でも時間厳守で頑張ること!」

「そうする」


にんまりと笑う司には寂しさは微塵もないのだろうか、心配はないのだろうか。凛はといえば寂しいし心配である。好きな人と年に数回、短い期間しか会えないという寂しさ。司は自分にしか愛情を持っていないとはいえ、それ以外の要因、例えば霊的なことに関しても心配だった。そんな凛が少し顔を伏せる。その雰囲気を察した司は笑みを苦笑に変え、珍しく持参していた黒いカバンから小さな箱を取り出した。それをそっと凛に差し出す。


「俺からのプレゼント」


照れた顔をしつつ素っ気無い口調でそう言い、寒そうにコートに両手を突っ込んで月を見上げる。さっきよりも雲が厚くなってきているのが分かった。凛はその真四角の箱をまじまじと見つめつつゆっくりと包装を解いていく。形的に指輪のようだが、司がそんな物を買うとは思えず、いろいろ考えてみるが答えは出なかった。だが、箱を開いた凛の顔が驚きに変わり、何度も箱の中身と司の顔とを往復させる。そうして箱から出したのは表面がつるつるした入れ物だ。真ん中付近に横に走る分け目があり、そこを開けば、中から姿を現したのは小さなピンクの石が着いたシルバーの指輪だった。もう驚くしかない凛は司を見つめている。司は凛を見れずにただじっと雲の向こうにある月の光を見つめているだけだった。


「これ・・・・・」

「未来に聞いたら、そういうもんで繋がりを得られるんだろ?離れていても、繋がってられるって、だから」


ぶっきらぼうにそう言う司から指輪に目を移す。震える手でそれを取り出した凛はまじまじと見つめてみせた。それなりに高そうな雰囲気を持っているのがわかる。


「高かったんでしょ?」

「除霊の小遣い、全部使った。でも、そんなに高くないよ、多分・・・」


こういった物の価値はわからない。サイズも未来に調査させての結果だ。予算を告げ、店の人に聞いた上での購入だけに、司としてはただ凛に似合いそう、それだけだった。


「はめてみて」


そう言い、凛は右手を差し出す。


「こういうのって左手にするんじゃないの?」

「へぇ・・・婚約指輪だったんだ?」

「ち、違うって・・・・そっか、それで右手か・・・・」


動揺し、あわてる司は珍しい。クスクス笑う凛を睨みつつ、司は凛の右手の薬指にそれをはめた。凛はそれをかざし、何度も何度も見つめている。司はそんな凛を見つつ、マフラーの下の口を笑みに変化させた。


「ありがとう・・・・これなら、2年間我慢できるよ」

「そっか、それは何より」


未来から散々言われていた。離れ離れになる辛さを考えろ、凛の気持ちを理解しろ、と。司にとっては何のことはない2年間だが、凛にとっては辛いのだ。それを理解し、気持ちを繋ぐために買ったのがこの指輪だった。


「浮気の心配はないけど、危険なことをしそうな心配はしてる」

「ないよ、めんどくさい・・・まぁ、宮司候補が集まるし、それなりに霊能者もいるんじゃないかな?」

「司君ほどの人がいるとは思えない」

「かもね」


司のマフラーを下げつつ、凛は微笑んだ。そのままそっと唇を近づけようとしたが、何故かそれを司が制した。不思議がる凛を真っ赤な顔をして見つめる司は、そっと凛の頬に手を触れる。寒いからか、それとも別の要因か、司の手は震えていた。


「今日は、俺からしたい」


そう言い、司はゆっくりと凛に顔を近づけて優しいキスをした。付き合ってから初めての司からのキスだ。いつも凛が促しているだけに、それは新鮮であり、最高に嬉しくもあった。


「じゃぁ、帰ってきたら左手の薬指に指輪つけてね?」

「それ、早すぎるよな?」

「婚約の予約よ!」

「結婚の予約が婚約だろ?」

「婚約の内定みたいなもの」

「なんだよそれ・・・」

「ふふ、なんだろうね?」

「要するに、婚約指輪とは別にもう1個よこせってことか?」

「当たり!」


そう言い、今度は凛からキスをした。少しだけ雲が薄くなり、月明かりが2人を照らす。この夜、2人はようやく大人のキスをした。約1年でようやくここまで来たと思う凛だったが、これが自分たちのペースなのだとぎゅっと司を抱きしめるのだった。



年が明けてからは時の経つのは早く、司は養成所に行くための準備に追われつつ除霊をする日々を過ごしていた。凛は神社の経営を習うために勉強を始め、美咲は素敵な彼氏を捕まえるために勉強し、高校に入って早くゲットしようと決めていた。未来は相変わらずバイトに遊びに精を出し、来武は遮那ともやりとりしつつ霊的な文献を集めていた。刃は遮那のフォローをしつつ5つの家をまとめるために奔走し、遮那を補佐する零もまた全国を駆け回っていた。そうして春が来て、未来は晴れて女子大生となり、来武と同じ大学に進んだ。すでにお互いの家を行き来する間柄だけに、その生活を楽しんでいる。凛は裕子たちと出雲に行く計画を立てつつその旅費を貯めるべく頑張っていた。美咲もまた高校生活を満喫しつつケーキ屋の面接を受けてアルバイトを開始した。司は養成所に向かい、未来や来武の心配をよそにあっさりとした別れを凛としていた。凛もまたあっさりとしているが、その右手に光る指輪が絆の強さを表している、そう思えた。司の抜けた穴を埋めるべく来武が除霊を担当し、四苦八苦しながらもその腕を上達させていく。元々才能があったこともあり、遮那や刃、信司の助言を得てメキメキとその実力を伸ばしていった。神咲神社は今日も変わりなく、みんながみんな平穏に暮らしている。そう、変わったのは司がいなくなった、それだけだった。

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