神と死神、その結末
覇王は右手をかざすと、光で出来た刀を出現させる。
「太陽剣ってヤツだぞ」
高次元のエネルギーであるその刀をわざと違う方向に振るえば、空間を切り裂いて空に切れ目を入れた。そこから徐々に裂け目が広がり、空がそこに侵食されていくようになった。
「この星を裏返そう・・・無に還して消し去る」
「あっそ」
そんなことはどうでもいいのか、司は青い翼と赤い翼を目の前に出現させてそれを握る。途端にそれは剣となり、背中の翼は金と銀の2枚となった。加速し、覇王に迫る。2刀を駆使する司に対し、覇王は光の刀を軽やかに振るってそれを簡単にいなしていった。
「そらそら、急がないとお前の命が尽きるぞ?」
「そういうあんたは大丈夫なのか?」
覇王が振り下ろした刀を2刀を交差させて受け止めた司だったが、そこに笑みはない。エネルギー量の差なのか、それとも霊圧の差か、瞬時に押され気味になっていた。
「俺は霊玉を永久機関として利用しているからな、俺の命、体そのものが高次元のエネルギーさ」
「永久機関?」
「俺の身体の中で穿った場所から溢れ出る高次元のエネルギーを、霊圧を経由させてそこに戻す。制御やこの世界に留めておくのではなく、循環させたのさ・・・わかるか?」
2刀を弾き、振り下ろすが、司は後ろに下がっていた。だがすぐに追いすがり、猛攻を仕掛けてくる。無限のエネルギーを持つ覇王に対し、自分はいつ死ぬかわからない状態だ。覇王に殺されるか、光天翼に殺されるか、どちらかしかない。
「循環?出入り口を同じに、か」
ブツブツと呟く司に悪鬼の笑みを浮かべた覇王が迫り、刀を振り上げた。咄嗟に2刀を持ち上げるが、それはフェイントで強烈な蹴りを腹部に叩き込まれた司はあっという間に吹き飛ばされて物凄い水柱を立てつつ海に叩きつけられた。そこに向かってエネルギーの弾丸を飛ばす覇王だが、ハッとした顔を背後に向ける。そこには笑みを浮かべた司がおり、あわてて離れようとするが司は覇王の刀を弾き飛ばした。そのままもう1刀を振り下ろすが、瞬時に出現した光の盾がそれを防ぐ。覇王は盾をそのままに大きく後退し、再度右手に刀を出現させた。
「驚いたな・・・」
「あんたのおかげで、勝つ見込みが出たよ。要するに、あんたと同じ現象を起こせばいい」
「それは霊玉があればこそだ。膨大なエネルギーを圧縮していない光天翼では不可能だぞ」
そこまで言い、覇王は何かに気づいたのかニヤリと微笑む。司は疑問を顔に出しつつ青い剣を消した。右手に握る赤い剣は炎を纏ったかのように揺らめいていた。
「あの娘の持つ玉、か?」
「キャサリンのか?」
「そう。あれも小さいが霊玉だからな・・・・だが、あれを奪えば、あの娘は死ぬぞ、いや・・・・」
「もう死んでるからな、あの子は」
覇王の言葉を遮り、司は薄く笑っていた。知っていたのかと邪悪な笑みを浮かべる覇王だが、そこいらの偽善者と違い、この男ならば容赦なくそれを手にしようとするだろうと思う。アメリカでジェイムズからその存在を聞かされ、司のことを知ってからデータを揃えさせたが非情な部分も持ち合わせている。ナタス・ヘイガンの霊能力を全て奪ったり、黒魔術によって魂を汚染された同級生に処置を施さなかったり。
「2年前の事故でジェイムズは妻を失い、娘も死んだ。同時に偶然の産物で生まれたあの玉を娘の魂と融合させ、現世に留めている・・・さぁ、どうする?玉を使えばあいつは死体に逆戻り、使わないとお前が死ぬ」
わざとキャサリンの死を煽るような言い方をして玉を使わせないように仕向ける。そうしながら、いつでも攻撃できるように態勢を整えた。
「キャサリンは死なないし、俺も死なない」
司はにんまりと笑うと右手の剣を解放する。同時に4枚の翼を十字の形にして目の前に展開させた。
「どういう意味だ?降参か?」
「いや、俺が勝つってこと」
そう言い、さらに笑みを濃くした司が横向きに展開している赤と青、火と水を司る翼に手を突っ込んだ。すると翼は形状を変えつつ腕の付け根に向かって進み、やがて体に吸い込まれるようにしていく。同時に司に変化が現れた。その服がいくつかの赤と青の帯を身に纏った白い神職の衣のような形状を取ったのだ。驚く覇王をよそに、司は左手を真下に向かって伸びる銀色の羽、大地を司る翼にあてがうとそれは銀色の盾となって左腕に沿うようにして留まった。最後に残った金色の翼を掴めば、それは剣の形を取る。言葉もなく驚く覇王を見据える司はその金色の剣の切っ先を覇王に向けた。
「余裕こいてしゃべりすぎ。おかげでいいヒントになったよ」
「な、なんで・・・・どうなって・・・・」
「あんたの言った通りだよ。赤と青の翼を取り込み、霊圧と命を経由して金と銀の翼に還す。こうすれば命も減らず、ただ同じエネルギーが循環するだけ」
ニヤッと笑う司に恐怖を覚える。一歩間違えばエネルギーは暴走し、その命を燃やし尽くすだろう。ためらいもなくそんなことをする司が怖い。こいつには死への恐怖などないのか。
「お前・・・1つのエネルギーを分割することで循環させたのか・・・・」
「服のデザインはイマイチだけど、ま、いいさ」
司はそう言い、余裕の笑みを浮かべる。刀を構える覇王は怒りに満ちた目を向けつつ、自分の中のエネルギーを全部解放した。
「勝つのは、俺だ!」
「いんや、悪いけど、俺だよ」
笑う司に対し、覇王には余裕がない。一気に間合いを詰める覇王の刀を盾で受け、剣を横に凪ぐ。咄嗟にかざした左手に発生させたエネルギーでそれを受けるが、それも斬り裂かれてしまう。
「何故だ!同じエネルギーのはずなのに・・・何故!?」
「そりゃぁ、あんたがビビってるからでしょ」
そう言い、司は剣を振るう。防御の盾ごと肘から先の左手が空中に舞い、霧散して消えた。循環できないエネルギーがこの世界では維持できずに消滅したのだ。
「嫌だ・・・消えたくない・・・・俺は、神、なんだぞ!」
「ああ、俺は、お前にとっての死神だ!」
司が剣を振り上げる。同時に盾が消え、金色だった剣がまばゆく輝く七色の剣となった。ためらいなくその剣を振り下ろす。咄嗟にすべての力を込めた盾を出現させるがそれすら簡単に斬り裂かれ、覇王は頭頂から股間までを斬られた。言葉もなく、右側の口がパクパクと動いたのを最後に、覇王は左右に分かれるようにしていく。その場に残ったのは拳大の白い玉。やがてそれも2つに割れ、エネルギーの奔流が渦を巻いて天に昇ると覇王の体も巻きこんで消滅してしまった。途端にオーロラも消え、風も止む。裂かれていた空も元に戻り、荒れた海が徐々にその波を平穏に変えていった。
「これでいつでも命を消費せずに光天翼が使えるな」
にんまり笑った司がゆっくりと降りていく中、突然速度を上げ始めて落下するために慌てる。どうにか着地できたが、服も元に戻った上に剣も盾もなくなっていた。さっきの要領で光天翼を出現させようとするが、何も起きない。何度も何度もしているうちに凛が司に抱きついたせいで勢い余って尻餅をついた。
「痛いなぁ・・・」
「司君、怪我は?」
「ないよ」
「大丈夫なの?」
「まぁ、見ての通り」
「良かったぁ!」
ぎゅっと抱きしめられて硬直する司が顔を真っ赤にする中、ぞろぞろと全員が集まってきた。
「なんていうかさ・・・・」
「やたら眩しいな」
「そうですね」
「目を閉じてても痛いし」
美咲が、刃が、来武が、遮那がそう言う。慌てて離れた凛だったが、4人はまだ凛を見て眩しそうにしていた。
「あれ?ってことは、また光天翼は凛に?」
「みたいだね」
笑う美咲に困った顔をする司。
「なんで?」
「ま、調べる価値はありそうだけど、面倒ね」
ため息混じりにそう言い、遮那は苦笑した。晴れていく空、電気の戻る街。平穏が戻ったが、周囲はおろか世界はまだ騒然としたままだった。




