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かみさまみたいな人ですね  作者: 夏みかん
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相容れない存在

キャサリンの気分転換もかねて、今日はみんなで出かけることにした。この10日ほどずっと神社と司の家の往復だけだったこともあって、少し遠出をしようということになったのだ。メンバーは信司を除く全員だ。目的地は東京お台場。遮那の希望とキャサリンの希望が一致しての選定となった。キャサリンの保護ということで愛理もまた参加している中、一同はお台場に降り立った。乗り気でなかった司も凛によって最近出来たショッピングモールへと引っ張られていく。来武と未来は何度かデートで来た事があるだけにどこか余裕があるが、滅多にこういった場所に来ない美咲ははしゃぎ倒すのだった。刃と遮那は周囲に気を配りつつもまったりとした時間を過ごしている。全員が全員、いい気分転換になったと感じ、夕方になって帰ろうとした時だった。


「やぁ、あんたも買い物?ってわけじゃなさそうだなぁ」


司の言葉と同時にピンと空気が張りつめた。夕方になっても人が多いお台場の海を見渡せる広場に姿を見せたのは長い髪を海風に揺らす零だ。白いコートに黒のミニスカート、そしてブーツといった格好は数日前に司の前に現れた時と同じ格好だ。違うのはその雰囲気か。殺気を全員から立ち上らせ、その場にいる全員を睨んでいる。怯えるキャサリンを背後にかばい、刃と来武が司の両脇に立った。


「霊圧ではない・・・?」


呟く来武に頷く刃。凛は不安で押しつぶされそうな胸を手で押さえつつ、寄り添ってくる美咲を抱くようにしてみせた。遮那は未来をかばうようにしつつキャサリンの真横に立つ。


「初めまして、かな?・・・神手司」


零の背後から現れた男は右側だけやたら長い前髪をし、全身を黒い服で固めた鋭い目の男だった。霊圧は感じず、それとは違った何とも言えない異質なものを纏っているような気配を保っている。邪悪に染まりきった笑みを浮かべて司たちの前数メートルの距離を置いて立ち止まった。その右側に零が立ち、左側に短髪に黒めの肌を露出させた服を着た疾風が立った。誰にもその霊圧を感じさせなかったことが驚きだ。


「あんたが覇王って人?変わった髪形だね」


にんまり笑う司に対し、少し驚いた顔をした覇王はますますその邪悪な笑みを強める。圧倒的な得体のしれないものを纏う覇王を前にこんな軽口が叩ける司はやはり壊れているのだろうか。


「素晴らしい霊圧だな。どうだ?俺たちと一緒にこの世界、いやぁ、宇宙すら手に入れないか?」


覇王は通りすがる人々の好奇な目をよそに、大声でそう言うと高らかに両手を掲げる。霊圧ではない気配が何なのかを悟った遮那が身を震えだすが、それは刃も来武も、そして美咲も同じだった。霊力がわずかにある者すべてが心から恐怖を覚えるような気配。それが覇王の全てなのだ。広場ではうずくまる人々もいる中、司の笑みは変わらない。


「興味ないよ。宇宙みたいなわけのわからんものなんか手に入れてどうするの?旅行でもするの?」


にへらと笑ってそう言う司を凄いと思う遮那、アホだと思う美咲。だが、全員が圧倒的に押されている中でこう言い切れる司しか覇王に対抗できないのは確かだ。


「面白いな・・・壊れている、というが・・・そうでもないらしい。さすがはあのアマツの転生か」

「関係ないって。だいたい、アマツって誰なのさって話。大昔のおっさんなんてどうでもいいよ」


ここで笑みを消してうんざりしたようにそう言う。アマツの生まれ変わりと言われる度に今の自分を否定されているようで嫌な気持ちになるのだ。


「ま、とにかく交渉は決裂、かな?」

「交渉ねぇ・・・強要の間違いじゃないの?」


そう言い、2人の顔に笑みが浮かぶ。邪悪な笑みと、無邪気な笑み、対照的な笑みが。


「あのアマツの生まれ変わりなら、光天翼も使えるんだろう?なら、お前さえ消せば障害はない」

「ふぅん・・・・ところでキャサリンの親父は?」


司は笑みをそのままにそう問いかけた。キャサリンが体を強張らせる中、覇王はキャサリンを見て、一番醜悪な笑みを浮かべて見せた。


「殺したさ、当然な」


霊玉の制御を成功させた業績は大きい。だが、逆をいえば自分の中の霊玉を再度分離出来るのもまたジェイムズやマックスなのだ。危険分子や不穏分子は取り除くのが覇王のやり方だ。膝から崩れ落ちるキャサリンを遮那が気遣いつつ、キッと覇王を睨んだ。


「ロス郊外の倉庫街、その地下だ。捜すといい」


その言葉を受けてすぐさま愛理が電話を手にした。遮那は未来にキャサリンを任せ、刃の横に立つ。凛はキャサリンを見つつ、美咲を伴って少し離れてみせた。


「あんたとはやりあわずに済ませたかったんだけど・・・ムリになったなぁ・・・・」


顔を伏せ、司がそう呟いた。その言葉に怒気が含まれている。


「ああ、ムリさ。俺たちは相容れない存在だ」

「そうだな」


笑う覇王に対し、司も笑っている。ただ、その笑みはいつもの笑みではなく、鋭く、怒りを含んだものだった。そんな司に刃がそっと身を寄せた。


「司、あいつは霊玉を取り込んでいる・・・勝てる見込みはないに等しいぞ」

「かもね。とりあえず、刃さんは暑がりのヤツを頼むよ。らいちゃんは零って女、よろしく」

「彼女は私が相手をします」


そう言い、遮那が前に出た。同時に零が駆ける。それを見てから疾風が大きくジャンプをした。


「じゃぁ、らいちゃんは未来や凛をガードして!美咲!防御程度はできんだろ?」

「怖いって・・・・・でもやる!」


泣き崩れるキャサリンにかつての自分を重ねたのか、美咲は震える体を我慢して両手を前に突き出す。その霊力に霊圧を同調させた来武によってその周辺に霊的防御が施された。


「さて、ほんじゃいくかな」

「司君!」


首を鳴らす司に悲鳴に近い声を上げる凛の方を見た司はにんまり笑うとゆっくりと歩き出した。


「身の程を知れよ・・・俺は宇宙の王だぞ」


覇王が笑みをさらに濃くして一歩前に出た。途端に風が舞い、海が荒れ始める。急速に流れていく灰色の空に異変を感じた人々がパニックを起こす中、覇王と司が同時に駆けた。



人間の跳躍力を超えたそのジャンプは軽く5メートルの高さを舞い、同じぐらいの距離を飛んでいた。頭上から降りてくる疾風のその手には金色に輝く刃を持ったナイフが握られていた。


ふせぎ


呟きながら身を翻し、後方に下がる刃。ナイフは何かに弾かれたようになったが、着地を決めた疾風はそのままナイフを突き出す。咄嗟に右手を前に出した刃のその手にナイフが触れるが、切っ先は刃の手の平で止まっていた。


「霊圧をアップさせたか。本気のふせぎでこれとはな」


前回とは違い、全ての霊圧をこめたふせぎの術で受け止めるのが精一杯だ。


「こうしたら、どうだ?」


疾風はニヤリと笑い、ナイフに込めた霊圧をそこだけ解除した。途端にナイフは刃の手のひらを貫通する。疾風の能力は肉体や物体に霊圧を注いでそれを霊的な武器に変化させることだ。霊圧は疾風から出ているために持っているナイフはおろか全身を霊圧で強化する必要がある。それが竜王院家に伝わる霊体強化術なのだ。刃は苦痛に顔を歪めつつそのまま疾風の胸に左手を置いた。


たち!」

「何を断つんだ?」


一瞬で全ての霊圧をゼロにした疾風は強引に刺さっているナイフを抜くとそれを突き出した。普通のナイフは霊的防御できないため、刃は転がってそれをかわすものの常に劣勢を強いられる。


「霊圧を増減するとは・・・・・覇王の入れ知恵か?」

開神六式かいじんろくしきの1つ、霊天掌握れいてんしょうあく


不敵に笑う疾風に恐怖を感じつつ、このままでは殺されると思う刃はどうするかを思案する。自在に霊圧を増減されてはこちらからの術は無効に近い。霊圧をゼロにされては何の効果も生まないのだから。


「串刺しにしてやるぞ」

「もう痛いのは嫌いでね」


刃はそう言うと大きく後ろへジャンプする。だがすぐに追いすがる疾風に攻め込まれて傷ばかりが増えていった。肉体的に鍛えている疾風と霊的な修行しかしていない刃ではその実力差は歴然だ。それに霊体強化術を部分的に使用するなど、歴代の継承者でもできなかったことをしている。舌打ちする刃はさらに大きく後退するが、海を背後に柵が背中に当たるのを感じた。


「フィナーレだな」


振りかぶったナイフが刃の肩に突き刺さる、はずだった。刃は血が滴る右手でそのナイフを掴んでいた。さらに血しぶきが舞う中、にやりと微笑を浮かべる。その笑みに嫌悪感を抱いた疾風は左拳を腹部にめり込ませる。ぐはっと苦悶の声を上げる刃が顔を伏せ、片膝をついた。霊的な力を込めた拳だが、刃の術のせいかただの打撃になってしまった。疾風は強引にナイフを振り上げて刃の手から解放させると再度それを振り下ろした。


霊天共鳴れいてんきょうめい


呟くのは刃だ。そのまま体を回転させてナイフをかわすと血に染まった右手を疾風の胸に置いた。


「術は通用しない」

たち


同時にそう言い、互いの動きが止まる。


「絶!」


2人とも動かない中、刃の声が響いた。途端に力なく倒れこんだ疾風は完全に白目を剥いていた。


「霊圧を強引に共鳴させてお前の霊圧を引きずりだしたら、術は効くだろう?」


意識を失っている疾風にそう言い、刃は柵にもたれるようにして息を整えた。元々神地王家ではなく、上坂の家に伝わる秘術が霊天共鳴だ。それは自分の霊圧を共鳴させて周囲の霊を見つけるための技。それを使ってゼロにした疾風の霊圧を強引に引きずりだした上での術だった。


「まったく・・・」


疲れた顔を前に向ければ、遮那と零が舞うように戦っている姿があった。すぐにでも救援に行きたいが、腹部に喰らった拳のせいで足が震えている。それでも前に進む刃はよろめきつつも遮那の方に向かうのだった。

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