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かみさまみたいな人ですね  作者: 夏みかん
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許すということ

浄霊自体はすぐ終わったが、何故だか司は締め出された。現在社務所には望の他、凛に未来、そして美咲が残っている状況だ。わけもわからず締め出されてすることもなく、家に帰ろうとした司を呼び止めたのは遮那だった。キャサリンは刃と一緒に神殿の方に行っている。不調の原因を探るためと、追っ手から気配を消して逃げ切るためだ。


「少し、話せる?」

「余裕で話せるよ」


暇を持て余しているような状況なので即OKし、そのまま神社を出る。遮那に促されて向かった先は駅前の大手コーヒーチェーン店だった。わざわざこんなところに来なくてもと思うが、司はついていった。店員の怪訝な顔もなんのその、遮那はさっさと注文を済ませると奥の空いている席に腰掛ける。周囲の人たちも目を閉じた銀髪の少女のまるで見えているかのような振る舞いに呆然としている様子だった。


「で、なに?」


周囲の視線を全く気にしない司に苦笑する。司だからこそ、なのだろうが、刃もまた同じだと思い出してさらに苦笑を濃くした。


「キャサリンって子のことね」

「へぇ、気づいた?さすが」

「それはあなたも同じ・・・で、見解を聞きたいわね」

「見解も何もないよ。あのままだろ?」


その言葉にクスッと笑った遮那は変わらない司にますます好感を得ていた。初めて会ったのは夏のことだが、わずか数ヶ月とはいえ何ら変わりがない。


「そうそう、あんたも気づいてたかもだが、えーと・・・・・・・カグラの名字の女と会ったぞ」

「幽蛇宮零、ね」

「そう、そのねーちゃん。変わった技を使ってたなぁ」

「霊変属性術ね」


そう言い、遮那は説明を始める。霊変属性術は司が見た通り、地水火風の属性に自身の霊圧を重ねて操る術式のことだ。長い年月を経て培われた術であり、今や使える術者はほとんどいないと言う。


「元々カグラの死後、霊を取り込んで浄化することの困難を上げ、ならばと滅する方へと移行させた」


そう、アマツが編み出した封神十七式のように。だが、その術は人を選ぶ。高い霊圧のない者では使いこなせないのだ。そこで九州の我龍泉家の元に身を寄せた幽蛇宮家がその技術を融合させて編み出したのが霊変属性術なのだ。少ない霊圧でも自然の持つ霊的な力を加えれば威力も増す。そうやって霊を滅してきたのだった。


「幽蛇宮家が霊変属性術、対して竜王院家は自身の霊圧を肉体に還元して強化する術を編み出した。それを霊体強化術というの」

「ミコトの末裔、か」

「そして神地王家が上坂に伝授した封神十七式、その対極に位置するのが我龍泉家の開神六式なの」


神さえ封じる17の術式、封神十七式。自らの霊圧を変化させて防御と攻撃を可能にした絶対的対霊術式。その対極の位置にあるのが開神六式だった。いわば他の霊の力、浮遊霊や地縛霊など、不浄化の霊圧を取り込んで使役する術式なのだ。へたをすれば他の霊に取り込まれる恐れもあるが、それは修行によって封じることができる。


「覇王は我龍泉家の中でも低い能力者だった。そこで彼の父である烈王が修行のためにドイツへと送ったのです。かつてミュンヒハウゼンが実証し、完成させた霊的エネルギーの循環理論を得て、彼はその力を大幅に上げることができた。それと同時に野心を抱いたのでしょう」

「それが霊玉、ね。ま、何故あのねーちゃんが霊圧を上げることができたのかは判明した。そこいらにある霊圧をかき集めたわけか」


頷く遮那に満足そうな顔をした司は少し冷めたコーヒーを飲む。遮那もまた優雅な手つきでコーヒーを口に含んだ。


「覇王は霊玉を制御するでしょう・・・そうなれば・・・・」

「俺が止める」


険しい顔をしてそう言った遮那を見ず、司は目を伏せてそう言いきった。遮那は少し困った顔を司に向ける。止めると簡単に言うが、それは不可能に近い。無限のエネルギーを供給する霊玉を制御できれば、生命エネルギーでしか制御できない光天翼では対抗しきれないからだ。そもそも、霊玉と光天翼ではエネルギー量の差が大きすぎるのだ。生死に関わることだけに、本来であれば無関係な司を巻き込みたくはない。だが、覇王を止められる人間は司しかいない。刃が同行したのは司のフォローをするためだろう。同じレベルの人間が2人いれば対抗できると踏んでの行動だ。だが、刃はともかく司はアマツを前世に持つだけで神地王家には無関係だ。それに、この問題の発端もアマツの死後、数百年後に起こったことなのだ。


「あなたは優しいから・・・でも、死ぬ算段が多いの・・・だから」

「助けてくれと言われたから助ける。勝てるかどうか知らないけど、助ける。それだけ」


遮那の言葉を遮ってそう言う司がにんまり微笑む。心が壊れているから死への恐怖がない、ではなく、死というものに対する恐怖自体がないのだろう。それでも凛という存在が自分の命を軽視するということから遠ざけているのもまた事実だ。


「ありがとう」

「あいあい」


さらに笑みを濃くした司に困った顔をするしかない遮那だったが、そんな司に救われていることを自覚するのだった。



浄霊を終えてすぐに社務所から司を叩き出したのは凛だった。その意外な行動に驚いた未来だったが、納得もできる。今の司は事件の記憶は曖昧であり、あの調子ではあっさりと望を帰すだろう。だが、それでは凛はおろか未来も美咲も納得が出来ない。凛はお茶を煎れて戻るとそれぞれの前に置き、望の正面に正座した。


「自己紹介が遅れたけど、私は桜園凛。司君の彼女です。婚約者といってもいい」


はっきりとそう言われ、望は驚いた顔をしてみせた。あの事件の後、県外に住んでいる母方の祖母の家近くに引っ越したが、それでも中学からの友達とは繋がっている。そこから司に関する情報は得ていた。事件の記憶が曖昧だということ、変な言動が目立つということ。そして、半信半疑ながら女性を女性として見られなくなったということまで。もちろん、友達もそれは事件から逃れるための嘘や芝居だと思っていたようであり、望自身もそうだと思っていた。だが、嘘をついたことは今でも心の傷になっている。あの時の放心した司の姿は忘れようがない。それこそ何度も夢に出てきたほどだ。恐怖心から嘘をつき、1人の人間を陥れた事実。今日はこの近くに住む友人宅からの帰りにたまたまキャサリンと出くわした自分の運命を呪ったが後の祭りだ。


「まず聞きたいのは・・・今の司君を見てどう思ったか、です」


凛の言葉に驚くのは未来と美咲であり、顔を見合わせる。てっきり事の真相をどこまで理解できているかを聞くものだと思っていたからだ。


「どうって・・・・・少し、変だと・・・・」


その言葉を聞いた未来の表情が般若に変化した。


「はぁっ!?少しぃ?バカなの?あれが昔の、あんたの知ってる司と少ししか違わないの?全然違うよ!」


望に掴みかからんと迫る未来を制し、凛は諭すような目で未来を落ち着かせて座らせる。美咲もずっと望を睨んだままだ。


「司君の心は壊れた。正確に言うとね、自分で壊して精神の完全崩壊を防いだの。その結果が今の彼」

「あいつは恋愛感情も失った!女の体も人間だって、そういう目でしか見れなくなった。でもね、やっと、やっと凛さんにだけそれが芽生えたのに・・・あんたが来たら、また、司は・・・」


未来の言葉を受け、ただ顔を伏せるしかない。救ってもらったことは理解している、だが、どうにも怖かった。司に迫られたことも覚えている、そしてそれを第三者的目線で見ていたことも理解できている。自分の中にいた何かがそうさせたことも。だからこそ、逃げたのだ。好きでもない男に体をまさぐられたという不快感がそうさせたのだ。


「でも・・・実際に・・・・いろいろされたし」

「はぁっ!?」

「されたことを覚えているの?それとも、それは感覚として?体験として?」


怒りに立ち上がる未来を制しつつ、凛は極めて冷静にそう問いかけた。逃げ出したい心をその冷静な言葉が繋ぎとめている。


「両方です・・・・・離れた場所から見ていたような、それでいて実際にされている感覚も」

「そう。なら、それはもうそれでいいわ」


あっさりと引き下がった凛に未来と美咲は呆然としてしまう。全ての元凶である望を前に、何故こうもあっさりとしていられるのか。彼女という立場からくる余裕なのか、それとも別の意図があるのか。望自身ももっと責められるかと思っていただけに、少し拍子抜けした感じがする。そういう表情をしていた。


「今の司君を覚えておいて。あなたの知ってる司君はもういない・・・そうしたのはあなた。未来ちゃんも美咲ちゃんも苦しんで苦しんで、でも前に進んだ。だから、あなたも今の司君を見て、そして前に進んで欲しい」

「前にって・・・・・」

「後悔してたんでょう?」


急に変わった優しい口調、優しい表情。望はおろか未来や美咲までもがきょとんとしてしまう。そんな望を微笑みながら見つつ、凛はそっと両手を取った。


「後悔してるから、ここまで来た。そうでなければ振り払って逃げられたもの」

「こいつがそんな可愛いわけない!」


叫ぶ未来に賛同するように頷く美咲だが、凛は小さくため息をついて2人の方に体を向けた。


「逃げられるチャンスはいくらでもあった。それに反論らしい反論もしていない。きっと、今の司君を見て何かを感じたんでしょうね」


その言葉に未来と美咲は難しい顔をしながらも黙り込む。望は呆然としたまま凛を見つめていた。


「司君も大きな傷を心に負った。一生治らないほどの傷をね。そしてそれはあなたも同じ。司君を壊したという傷を負って一生を生きていく」

「一生?どうせすぐに忘れるわよ!」

「忘れても、思い出すよ。人の優しさに触れたとき、司君のことを思い出す。今まで司君が助けてきた人がそうだったようにね」


そんなことはないと反論しようとした未来だが、その言葉を飲み込んだ。凛は実に冷静な目で未来を見つめている。その真意を悟り、だからこそ黙ったのだ。


「司君はもうあなたの知る人とは別人です。でも、困っている人がいれば、助けたいと思えば手を差し伸べる。それが神手司だから。そこだけは今も昔も変わらないと思う」

「そう・・・ですね」


どうにか搾り出してそう言った望の目が潤んでいく。そんな望の肩に手を置いた凛は優しい笑みを湛えたままだった。もう未来と美咲の中の怒りも収まっている。


「司君はあなたを助けた。それだけは絶対に忘れないで。事の真相を話して司君の名誉を挽回しよう、そういうこともしないで。今まで通りでいい。一生、その嘘を突き通してください」


厳しい言葉を受け止め、望は何度も何度も頷き、涙を流した。瞼に浮かぶのは中学時代の司の笑顔。それは今と変わらない素敵な笑顔だ。


「そこまで送るわ」


そう言い、凛は望を立たせた。望は涙を流しつつも未来と美咲に頭を下げて社務所を出て行った。残された2人は同時に小さなため息をつき、緊張の和らいだ社務所の空気を大きく吸い込んでみせる。


「優しいようで、怖いよね、凛さん」

「え?なんで?許しちゃったんだよ?何も文句言わないでさ」

「許したよ、でも・・・・一生嘘をつき通せって、酷だよね。だって、彼女、本気で後悔してるんだよ?」


あの望の態度から、今の司を見てどっと後悔が押し寄せてきたのはわかる。何より、ずっと心のどこかで引っかかっていたのだろう。確かに凛は望を許した。だが、司が許すと言ったわけではない。本人に謝ることをさせず、凛がただそういうニュアンスで物を言ったにすぎない。謝罪もさせず、一生自分のついた嘘で後悔し続けろと言ったのだ。未来の説明を聞いた美咲も納得し、2人で苦笑を浮かべてみた。


「なんか、そう考えると少しスッキリしたね」

「まぁね。でも、一発殴りたかったなぁ」

「未来ちゃんじゃ一発で足りないでょ?」

「まぁね」

「未生さん、可哀想・・・・」

「いやいや、らいちゃんを殴ったことないし・・・司はまぁ、しょっちゅうだけどさ」

「そっか、でも未生さんは結婚したら殴られるね、絶対!」

「なんで?なんでなの?」


そう言いあう2人は盛大に笑いあった。確かに心にしこりを残す結果になったが、それでも閊えていた物が取れた気分だ。


「ま、何より今日の教訓は・・・・・凛さんを怒らせるな、だね」

「だね!」


再度大きな声で笑った2人だった。

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