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タイ旅行記1日目 前編  作者: from science
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上陸

現実から逃げたい、いや、逃げねばならぬ。

ドンムアン空港に着き、荷物を手に入れた俺は意気揚々と自動ドアを進み、タイの空気に触れた。異国の空気だ。暖かい、いや熱い。2月の日本から出てきた俺の格好はGパンにパーカー。日本じゃ寒かったが、タイじゃ暑い。急いで空港内に戻り、トイレに駆け込んだ。個室の中でバックの中身を漁り、持ってきた短パンとTシャツに着替える途中は気が気じゃなかった。隣の個室との壁の隙間から手が伸びて財布を取られやしないか、今にもドアを壊されて荷物を強奪されないか、とか、起こりそうで起こらないであろうことに心を奪われていたのである。なにしろ海外に来るのは初めてなのだから仕方がない。決しておくびょうだからではない。

再び空港を出ると同時にまた引き返す羽目になった。タクシーを頼まないといけないのだ。事前調査の結果どうやらタイはタクシーが安く、どこに行くかよくわからないバスに乗るよりも確実らしい。私は空港内のTAXIと書いた看板を掲げるタイ人のもとに行き、タクシーを所望する旨を伝えた。彼らは金づるが来たとばかりにニヤニヤと笑みを浮かべ、800バーツと言った。1バーツは3.3円である。自前の脳内計算機に計算させてみたところ2400円と出た。高い。聞いていたのとちがうぞ。そのうち話を聞いてみると何やらリムジンがどうのこうの言っていることに気づいた。そう言われてみれば周りの客は昭和に流行ったような虫眼型サングラスを着け、そんな大きさで何が入るのか疑問が浮かぶような大きさのキャリーバッグを引いている。俗にいうセレブオーラが出ているのだ。 全くの一般市民である私にとっては関係ない場所であった。そこでこのタイ人にこれはリムジンタクシーなのか、もっと安いタクシーはどこにあるのか聞くと残念そうな顔をしながら向こうだと指をさした。礼を言ってその方向に歩いてみるとダサいTシャツを着て馬鹿でかいバックを背負った庶民たちが列をなしているのが見えた。ようやく居場所を見つけた私は列の最後尾に並んだ。先ほどのリムジンタクシーのタイ人には悪いことをした。商売敵の場所を教えてくれというのは無粋な頼みだった。しかし貧乏学生の俺にリムジンタクシーは手が出ない。許せタイ人。

列の前方、空港のドア側の壁にはテレビがついていた。アナログ放送なのか、薄型のくせにブラウン管テレビ並みの画質だ。CMがひっきりなしに流れていたがどれも日本で見たことがあるようなものばかりだった。パクっているのか、日本の企業のものなのかはわからない。なにせタイ語は全くわからない。

俺の番になり、受付のおっさんに行き先の安いホテルの住所を見せるとなにやらおっさん同士相談を始めた。住所を見てもそこがどこだかわからないようだ。よくそれでタクシー屋が務まるものだ。一悶着あって案内されたタクシーに乗り込み、再び住所を見せると出発した。運転手のおっさんはホテルの電話番号を教えろと言い、教えると運転中にも関わらず電話をかけた。出ないようだ。そのあと何度も電話をかけていたが誰も出ないようだ。運転手は諦めたのか同僚に電話して世間話を始めた。その間俺は窓から見える異国の景色に目を奪われていた。一通り世間話を終えた運転手はこのホテルの住所はよくわからないと言った。タイにはホテルがたくさんあり、認可されていないものも多く、それらは電話しても出ないらしい。俺が提示したホテルはそれにあたり、住所を見てもよくわからないので着けないと言うのだ。俺はここにつかなくても構わない。このホテルはカオサンロードの近くだろう、カオサンロードに行ってくれれば問題ないと言うと運転手は初めて満面の笑みを見せた。カオサンロードまでは30分ちょっとかかった。その間俺は窓の外の景色を眺め続け、トヨタの会社が多いなぁとか、ビルがたくさん立ってるなぁとか発見するままに運転手はに話しかけた。運転手の話ではトヨタの会社が多いだけでなく、街を走る車のほとんどが日本車で中でもトヨタが一番多いらしい。確かに周りを走る車は皆見慣れたマークをつけている。タイの街並みはここ10年で見違えるほどに変わったらしい。今はそこら中に乱立しているビル群も10年前はただの荒地だったようだ。タイの経済成長率は凄まじい、日本もいずれ抜かれるだろう。

初めてみたカオサンロードは露店やら看板やらでゴミゴミしていた。EXCHANGE、HOSTEL、BAR、あとはよくわからない。ホテルを探すなり飯を食うなりする前にとりあえず円をバーツに変えなければならない。空港ではレートが低かったので最低限のバーツしか両替しなかった。EXCHANGEの看板は30 mに1つくらいの割合で見かけるのだがこれだけあるとレートが最も高いものを探したくなる。両サイドに広がる露店に目を配りつつカオサンロードを端から端までふらふらと歩いてみたがどこもレートは同じようだ。適当に1つの両替屋に行き、一万円を差し出すと受付の女は不機嫌そうにパスポートを要求し、紙切れを渡してきた。サインをしろということらしい。パスポートを渡し、サインするとこれまた不機嫌そうに汚らしいバーツ札と硬貨をよこした。手に入れたバーツがレート通りであることを確かめ、不機嫌な受付に礼を言うと女はハエを追い払うような仕草をした。ハエでもいたのだろう。

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