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閑話 興味深い

 私はユーシア・サリー・フェリテーラ。二週間程前に、拉致された貴族。

 私は優しい兄と両親に恵まれ、生活にも何不自由無く育ってきた。

 そんな私には、知識に対する探究心が強かった。

 魔法学、言語学、地理学、薬学……あらゆるものに対して知識を広めた。

 本には困らなかった。それどころか、研究にも困ることは無い。

 私はそれらを積極的に伸ばして、職業は【学者】になった。

 しかし、そんな私にも欠点は有る。頭ばかり集中して、身体が弱かった。

 私はそれを補う為に、身体強化系の魔法に手を伸ばした。

 自分の身を守るために、兄に手合わせを付き合ってもらったり、短剣の扱いを教わったり、杖術を扱える冒険者を雇って、指南してもらったりと努力を積んだ。それでも、前衛専門の兄さんには敵わない。しかし、後衛職なりには戦えると思う。

 学者はあらゆる知識に長けて、敵の弱点を調べたり、薬を調合したり、魔道書を扱う支援職だ。

 私は学者の長所を伸ばしつつ、接近された時の対処も訓練を多く積んだ。

 そんなある日、私の力が兄に見込まれ、冒険者に誘われた。元々、見聞を広める為に、冒険者には興味があった。迷う事なく、冒険者ギルドに加入し、冒険者となって、この森を探索するようになった。そのおかげで、私の実力や知識は着々と身について行く。

 そんな私に、目標が出来た。この森の奥を探索し、新たな発見をしたい。そう思うようになった。

 この世界では、街や村から距離が遠くなる程、知能や力が増した魔物や魔獣が現れるようになる。

 その距離にも一定の間隔が存在する。それがDvc(デヴェック)(≒15.8km)。正式名称は、Dethil(アンゼン) Vran(ケンナイ) ceqoa(キョリ)

 街の規模によって、このDvcが変わる。同時に、村、町、都の定義が分かる。

 半径1Dvcで村や小規模の町となり、半径2Dvcで町や都に発展途上の町、直径5Dvcで王都や都になる。

 このDvcの有効範囲内では、魔物の出現率も変わる。

 五分の一で出現せず、五分の二で少々出くわす位。そして、五分の二圏外では、弱い魔物が普通に出現する。

 これは町や村等の中心には、必ず魔物除けの魔道具が置いてある。町の規模によっては、効果範囲が変化するのは、その町や村の予算による為。

 村や街に通じる道は、この魔道具の効果が地を伝って続く。道に魔物が極端に少ない理由はこれ。ただし、効果が薄いから、離れるとあっさり強い魔物に出くわす事がある。

 私は、それが分かっていても、この安全圏内の外に興味がある。きっと、まだ発見されていない、新しい事があるんだ。

 そう思いを馳せて三ヶ月、私のせいで、兄と私は盗賊に捕らえられた。いつの間にか眠らされ、気づけば兄妹揃って縄に縛られていた。その時は、敵のアジトの中。

 それから私は、人質として生活する毎日だった。とても苦痛だった。

 しかし、それからしてたった三日で変わった。

 彼が来た。その時の姿を見て、私は衝撃を受けた。

 図鑑でしか見た事がない、ベステベイア。

 その皮を、ほぼそのままで被った姿は、彼が深い過酷な森の中を彷徨って、強者を倒した人間だと嫌でもわかる。

 詳しいことはよく分からない。だけど、眠っている間に捕まったらしい。

 驚いた事に、彼は言葉を知らない。いや、正確には少ししか話せない。何処かの国の人間だろうか?

 そこで、私の魔法に白羽の矢が立った。

 『ロクサスクサナ』だった。言葉の通じない存在に、意思を伝達させる魔法。言葉を理解する魔法。

 今日、私はその彼に対面する前に、この魔法を自分にかけた。

 覚悟を決めて、彼に対面する。そして、私の覚悟は一瞬で挫かれた。

 扉を開けた瞬間、そこに居るのに、全く気配がしない。少し気を逸しただけでも、すぐに見失ってしまいそうになる。

 だけど、その存在を忘れた瞬間から、私は死ぬんだと、感が言っている。とても怖い。

 私が怯えていると、彼は私に声をかけた。


「俺が怖いか? なら、目を背ければいい。そうすれば、俺の目には映れど、心には映らない」


 その言葉の意味は、「怖いなら、見るな。俺の視界に入っても、興味は無い」。そんな感じだった。

 世界のどこを探しても、この言葉は見つからない。とても言い回しが効いて、複雑な言語だと思った。

 理由は、始めの解釈が全然意味が滅茶苦茶だった。

 結果はこうだった。「私が怖いですか? それなら目を背中に向けると良いでしょう。そうすれば、私の視界には入りますが、精神的には映りません」たっだ。

 つまり、解釈が複数に存在するから、複雑。

 私は混乱しそうになったので、彼に魔法をかけた。


「え~? そんな台詞間違えないと思うんだけどぉ〜。間違ってんすよ!!「まそっぷ!」なーんすか! まそっぷって!? あ~もう、やってられないんだぜぇえ!!?」


 ますます言っている意味がわからない!! 何なの、この人間は!?

 そう思っていると、やっとまともな言葉が出てきた。


「あの……もしもし? 通じてる?」


 最初っからそう言って欲しかった。ただふざけただけのようだ。

 少しだけ話したけど、正常に魔法は作動している。

 手始めに、盗賊が命令を聞かせた。


「フッフッフ……小僧。ちょっと俺の言う事を聞いてもらおうか」


「で、何か?」


「跪け!」


「はい、跪きましたよ」


 私は、その反応を見て「は?」としか思わなかった。

 普通は抵抗する筈なのに、一切の抵抗無く、すんなりと受け入れたからだ。


「貴方抵抗する気はないの?!」


「今はそれで不利益を被るのはゴメンだ」


 確かに、抵抗すればそれなりに不利益を被る。

 それじゃあ、貴方は一体何を企んでいるの?


 「なぁ、一つ要求があるんだが……聞いてくれないかなぁ? 難しい事じゃないんだ」


「あぁ、いいぜぇ?」


 盗賊のナンバー2は、この強者を従えるのに成功した事に機嫌を良くして、悦に浸っている。

 そして、その強者の要求は……。


「普通の一般人が着る服を、俺にくれないか? 流石にこの服、ボロボロでさ」


 ただの服だった……。しかも、絶対に解釈を変えれないよう、『一般人』とちゃんと指定して。

 しかし、それがナンバー2の機嫌を損ねた。


「ぁあ゛? 服を下さい御主人様だろが?! 奴隷の、しかも野獣の分際で調子に乗るんじゃねぇよ!」


 怒鳴り散らし、彼の顔を蹴った。奴隷を、気に食わないから理不尽な罰を与える様に。

 顔はベステベイアの頭で覆われていたから、伝わったのは衝撃だろう。

 しかし、彼は奴隷の顔を蹴ったのではなく、返って、猛獣(・・)の尾を踏んだようにしか思えなかった。

 一瞬だけ、この空間を殺気が支配した。決して逃れられない殺気。私たちは、全く動けなかった。心臓を、掴まれたように。

 しかし、それは本当に一瞬で、彼は笑顔を作った。


「僕に服を下さい御主人様」


 その態度には、違和感が残る。しかし、盗賊は先程の恐怖を忘れたいのか、寛容な態度のふりをし、承諾する。

 しかし、私は彼と同じ牢に入れられることになった。

 不安な気持ちで居ると、彼は大変失礼な言動で、私を怒らせた。

 彼の足を踏みつけ、怒りに任せて椅子を思いっきり投げた。

 しかし、顔はわからなかったけど、真顔で冷静に回避した。

 あの時だけは、とても真剣な表情をしたと、理屈にもならない道理で思った。

 私は怒りを収まらないまま、牢屋に向かう。

 彼の牢屋は、私の兄が担当していたので、すぐにわかった。


「アイツに何かされなかったか?」


 心配する兄は、私に声をかけた。


「何もされなかった。だけど酷いことを言われた。君みたいな貧相な身体に興味無いとか……。私は彼に怒った。だけど、最初に抱いた印象は、彼が怖いと思った。一体、私は彼に対して失礼な人と思えば良いのか、それとも、恐怖の対象で見れば良いのか分からなくて、複雑な気分」


 何か音がして、私はそっちの方へ顔を向けた。

 その音は確かに、ズゥゥゥゴトン……ズゥゥゥゴトン……と、鉄球を引き摺って落としたような音に、鎖が鳴らす冷たい音だった。

 ベステベイアの皮をかぶった彼だ。

 彼はただ、コチラを少し見ただけで、直ぐに牢屋へと足を運んだ。

 重たい音を立てているのに、足はただ、それが間違った音だと言わんばかりに、普通に歩いている。

 見ているだけで、おかしくなりそうなので、目を逸らして彼の牢屋に入った。

 目を逸らしても絶えず響く重い音、それが牢屋の入り口の前で止まった時、あの殺気が支配した。

 何事かと思って、入り口を見ると、彼が兄の腕を掴んでいた。

 何をするかは分からないけど、とにかく、危険な状況なのは理解した。

 私は彼を止めに入った。


「ああ、覚悟はあるさ! 妹を人質に取られ、やりたくない盗賊をやらされて殺される覚悟がある! 妹が助かるなら死んだっていい!」


「兄さん止めて!!」


 腕を必死になって取ろうとした。

 しかし、普通なら私の体重でも、全く動かない。本当に微動すらしなかった。

 それでも、私は足掻いた。

 すると、腕は突然離れた。


「……ゴメン」


 彼はガラリと雰囲気を変えて、謝罪した。

 そして、そのまま申し訳無さそうに、連連(ツラツラ)と語った。


「あの娘が僕と一緒の牢屋に入れって言われた時、凄く不安そうな顔をしてたんだ……。僕はそれを払拭させる為に、敢えて怒らせるようにした。怒りって言うのはね、不思議なんだ。不安や絶望を一時的に忘れさせ、時には前を向かせられるんだ。元は健康な体で、この生活がそうさせたのを分かっていて言った。君がただの新人の盗賊だろうと思って、そんな理由で覚悟を持ってやってるなんて思ってなかった。何も知らなくて、ごめんなさい……。それなのに、もっと酷いことしちゃったね」


 つまり、彼なりに私を励まそうとしていた。なのに、酷いことをしてしまった。

 彼は独房……今は私も入る牢屋に入って、隅で三角座りをした。

 何だかその姿に居た堪れない気持ちになって、私は謝罪した。


「ごめんなさい……私の為に言ってくれたのね」


「いいよ。元は嫌われても、どうでも良いと思っていたからね。そっちのお兄さんの方も、すまなかったね」


「いや、気にしないでくれ。妹の事を、思ってくれた事に感謝する」


 暫くの沈黙、この空気は不味いと思う。

 とにかくそれをどうにかしたい。このままでは息苦しい。



「そ、そうだ! 私の事貧相な身体とか言って、興味無いって言ったけど、元の体には━━━「ゴメン、本当に興味が無い」━━━何でぇ!?」


 これでも、私は容姿に自身があるのに、こうもあっさりと砕かれた。


「まさか、ゲイじゃねぇだろうな……?」


「全く違う! そもそも、興味が有る無い以前に、僕に問題がある!」


 そして、彼はため息を吐いて、興味深いことを話した。


「僕はね、性欲と言うものが、欠落しちゃったんだ……」


 それには様々な要因があるが、彼は過酷な環境に身をおいて、ここまで辿り着いたのだろう。

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