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最低最強の英雄譚《リ・スタート》  作者: 松秋葉夏
第一章 最低最強の英雄譚
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黒魔の剣

 ――ザンッ!

 吹き荒れる光の渦から風を斬る音が鳴り響いた。

 光の壁をなぎ払い、そこから飛ばされた光の斬撃は魔力の障壁を張り巡らせたクアトロへと一直線に飛んでいく。

 光の斬撃と魔力が激突する。


「きゃああああああっ!」


 その衝撃が生み出す圧倒的な風圧にレティシアはたまらず悲鳴を上げた。

 たまらずその場にうずくまり姿勢を低くする。

 レティシアの目に入ったのは、光の斬撃を事もなげに魔力で作った障壁で受け止めるクアトロの姿だった。

 光の斬撃は徐々にその威力を減衰させていく。

 だが――。

 光の斬撃が消える直前にクロトを包みこんだ光の渦の中から『ガンッ』と何かを力強くたたきつける音が鳴った。

 その音に連動するように輝きを増した光の渦から二発目の斬撃が放たれる。

 その二発目の斬撃はクアトロの衝撃に触れた瞬間、甲高い音を響かせ、魔力の障壁と激しくぶつかり合う。

 一撃目の斬撃と同じやりとり。

 ただ違うのは、青い火花をまき散らしながら、クアトロの魔力の障壁が真っ二つに斬り裂かれたことだ。

 斬撃はそのまま、クアトロの胴体に横一直線の線を刻み、クアトロの体から血の飛沫が舞った。


「いくらてめえでもこの威力の斬撃を防ぐことはできねえみたいだな」


 光の渦が消え、その中から姿を現したクロトが悠然と漆黒の剣を構える。


「え? なに……その格好……」


 光の中から姿を現したクロトの格好にレティシアは驚きのあまり、言葉を失った。

 吹き荒れる風圧になびく漆黒の外套ローブ

 いや、ただのローブではないことは一目見て明らかだった。

 そのローブが放つ圧倒的な魔力。

 離れていてもヒシヒシと肌を刺す威圧にレティシアの額に汗がにじみ出る。


「あ、ありえない……そのローブは……」


 青ざめた表情を浮かべたマークが信じられないものを見るかのような視線でクロトを凝視した。


「そのローブは――」

「そうか。あんたは見たことがあるんだな。クアトロ=オーウェンが身につけていたローブと杖を……」


 ロングコートのような漆黒のローブから無色の魔力が吹き荒れる。

 その魔力がクロトの傷ついた体を覆い、傷を塞ぎ、流れ出る血を止めていく。


「そうだ……この剣、《黒魔の剣》こそ、生前、クアトロ=オーウェンが愛用していた杖だ」

「あ、ありえない! 私は確かに見た。あのとき、クアトロ様が手にしていたものは間違いなく杖だったはずだッ! それに、そのローブもきっと幻覚の魔術に違いないッ! そうでなければ、突然現れたことを説明出来ないではないですかッ!」


 あきれたようにため息を吐くと、クロトは面倒くさそうに頭をかいた。


「そりゃあ、この剣はずっと鞘の中に仕舞ってたからだよ。刀身が隠れていれば杖に見間違えもするっての。それにな……この剣はあの神殿の中にあったんだぜ? お前、それを見たんじゃないのか?」

「――ッ!」


 思い当たる節があったのか、マークが顔を強ばらせる。

 クロトはしてやったりとニタニタした笑みを浮かべ、バカにしたような表情を浮かべていた。


「ばーか。大方、神殿に祭られた祭具が何かと勘違いして、この剣の存在を見逃していたんだろ? バッカだなあああ。この剣がクアトロの杖だって誰か一人でも知っていれば結果は変わっただろうに」

「う、うるさいッ! 仮にその剣が杖だとして、そのローブは何なんだ? そしてもしだ。もし仮にその杖がクアトロ様のだとしてなぜ君がその剣を継承している? クアトロ様は誰にも杖とローブを継承なさらなかったはずだッ!」


 魔術師にとって『杖』と『ローブ』には特別な関係性がある。

 一つに魔術師の使う『杖』は魔術師といることである種の意思のような力を持つ。

 それは別の誰かがその『杖』を使っても満足に魔術を発動出来なくなったりと、『杖』が魔術師を選ぶのだ。

 そして『ローブ』は魔晶石を溶かして造られた特殊な繊維で編まれ、魔術師が身につけることでローブに込められた魔術が自動的に発動する。

 『氷黒の魔女』エミナ=アーネストが着ているドレスもローブと同じ繊維で編まれ、彼女が着ることで初めて彼女ためだけに編まれたドレスはその真価を発揮する。

 だからこそ、簡単に他人の『杖』と『ローブ』は使うことが出来ない。

 それこそ『杖』に後継者としてふさわしいと認められない限りは。

 けど――。

 クロトにとって『黒魔の剣』と呼ばれる魔剣は自在に使えて当然の代物だった。

 『杖』が主と判断するのは魔術師の魔力ではなく、その魂に起因する。

 クアトロ=オーウェンの転生者であるクロトに使えない道理は無かったのだ。

 だが、そんなことをわざわざ教える必要はない。

 そもそもクロトの秘密はそう易々と話していい代物でもないのだから。


「そんなもん知るか。それにあんた間違ってるよ」

「な、なに?」

「このローブは幻覚なんかじゃない。今さっき、創られたばかりの新品のローブだ」

「バカなッ! それこそありえないッ! ローブを創るだと? そんな話聞いたことが……」

「それがこの剣の力だからだよ」


 そう言ってクロトは刀身の根元に埋め込まれた魔晶石へと拳を叩きつける。

 拳の力が魔晶石を振動させ、その中に詰め込まれた魔力が決壊したように噴き出す。

 生命力の塊とも呼べる魔力の渦がたちまちクロトを覆う。

 魔晶石の魔力がクロトを癒やし、枯渇していた生命力を満たしていく。


「この《黒魔の剣》は埋め込まれた魔晶石の魔力を媒介にして能力を発動させるんだ。その能力は魔力を込めた魔術師の特性を付与した『ローブ』を創ること。だから今、俺の体を覆った魔力はレティシアのランクSオーバーの魔力だ」

「まさか……そんなことが……」


 規格外のランクSオーバーの魔力はクロトの体の傷を魔力で塞いだその上で、枯渇したクロトの生命力をも補填していく。

 もっとも、魔晶石に込められた魔力が続くまでの応急的な処置でしか無いことは承知していたが、それでもクロトは体を覆う魔力に驚きを隠せなかった。


(なるほど。これだけの魔力があればあれだけ魔術を乱発出来たことも納得出来るな)


 体にみなぎる力を感じながらクロトは刀身の根元に手を添える。


「無駄話はここまでだ。はじめようぜ」


 剣にはめ込まれた魔晶石を叩く。

 噴き出した『無色』魔力はクアトロ=オーウェンの放つ魔力と同じかそれ以上の力があった。

 クロトはその魔力を足下に収束させながら、切っ先をクアトロ=オーウェンに向ける。


「『魔力装填』――《イグニッション・ブースト――ドライブ》ッ!」


 圧縮された魔力が炸裂した瞬間、クロトの姿がかき消える。

 それと同時――。

 クアトロ=オーウェンの体が何かにはじき飛ばされ、地面に叩きつけられた。



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