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最低最強の英雄譚《リ・スタート》  作者: 松秋葉夏
第一章 最低最強の英雄譚
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二人そろって

「クロト……あなた……まさか……」


 レティシアの瞳が驚愕に見開いた。

 クロトは居心地が悪そうに視線を泳がせる。


(気づかれちまったな。それも……当然か)


 こんな話をすれば誰だって気づくものだ。



 クロト=エルヴェイトが――クアトロ=オーウェンの魂をもった転生者だと。



 だが――。

 そんな話は今することではないのだろう。

 クロトが何者であろうと、その正体が現状を打破すべきファクターにはなり得ないのだから。

 レティシアは何か言いたげな表情を浮かべていたが、グッとこらえると、真剣なまなざしをクロトに向けた。

 ある種の覚悟を秘めたその瞳にクロトはわずかに息をのむ。


「なら……騙し続けてよ。魔術は素晴らしいものだって……信じさせて。そのくらいのことはしてみせなさいよ……最低魔術師」

「レティシア、俺は……」


 言いよどみ、視線をそらしたクロトにレティシアは優しくほほえんだ。


「その間に私が見つけるわ。あんたが見てこなかった魔術の……誰もが幸せを感じられる力を。私が見つける。あんたの嘘を本当にするから……だって私たちはパートナーでしょ?」

「――ッ!」


 ――パートナー。

 その言葉に思わずクロトは胸をうつ衝撃を隠せなかった。

 考えたことすらなかったのだ。

 隣に立ってくれる誰かを一度もクロトは頭に思い浮かべてこなかった。

 けど……。

 どうして今まで一度も考えなかったのか……。

 レティシアの言葉を聞いたクロトはそのことに疑問を抱いていた。

 これまで額面上では何度もその言葉を聞いてきた。

 けれど、クロトは目の前の少女を肩を並べるパートナーとして見てこなかったのだ。

 理由はあったかもしれない。

 あまりにもへっぽこ過ぎるとか……。


(けど、違うよな……)


 そんな理由でレティシアを遠ざけていた訳じゃない。

 クロト自身が誰とも深い仲になってはいけないと自らを自制していたからだ。

 多くの間違いを犯して、罪を背負って尚、英雄と呼ばれ続けてきた。

 その業が、その罰がクロトを人から遠ざけさせてきた。

 かつての仲間の縁も切り、ただエミナのそばにずっと居続けてきた。

 それが自分の罰だと。

 これからの魔術の行く末を黙って見守り続けることこそが魔力を失ったクロトへとの罰だと思い込んでいた。

 それはクロトに魔術師の世界に立ち入る隙がなかったからだ。

 魔術の使えないクロトがどう自分の間違いが正せるのか……。

 その答えが見つからなかった。 

 だから、クロトは、クロト=エルヴェイトとして転生した時から――死んでいた。


「パートナーか……」


 ずっと見ているだけのつもりだった。

 レティシアに勝手な期待を押しつけて、身勝手にレティシアへと自分の過ちの後始末を押しつけてきた。

 もうクロトに出来ることはないのだと、諦めきったその考えがクロトの動く理由をかすませていた。

 けど――。


「それも……悪く……ないな……」


 レティシアがその力を見つけるまで、クロトはただ彼女を守るだけのつもりでいた。

 自分の罪から目をそらしたままずっと。

 けど……今、ある魔術は……クアトロが騙して根付かせた魔術はこの国の人に誰かを幸せにする技術だと誤解させたままだ。

 いつか……その嘘が明るみに出る結果となってしまってもいい。

 けど、それはレティシアがみんなを幸せに出来る力を見つけた時じゃないとダメだ。


(なら、俺にも出来ることはあるじゃねえか……)


 騙してしまったのなら、その力で最後まで騙し続けるしかない。

 英雄という名の仮面をかぶり続けるんだ。

 このへっぽこ魔術師が本当の英雄になるまで。

 それこそが、かつて英雄と呼ばれたクロトに出来る最後の英雄譚に他ならない。


「そうよ。私たちは二人そろって、最低で最強の魔術師なんだから」

「ああ。そうだな……俺たちで作り直そう。最低最強の英雄譚を」


 レティシアが涙で崩れた顔で穏やかな笑みを浮かべた時――。

 レティシアの胸元から眩いばかりの光があふれ出した。

 驚いたレティシアが慌てて手を開いてその光の正体をマジマジと見つめる。

 レティシアの魔力と同じ『無色』の光を放つそれはクロトから手渡された『魔晶石』だ。

 レティシアはクロトからその魔晶石を手渡された時、「ずっとその石に魔力を込め続けてくれ」と頼まれていた。

 それはずっとしていた。

 クロトが倒れた時も、その体を抱きかかえた時も無意識のうちに……いや、その魔晶石が強引にレティシアから魔力を吸収していたのだ。


「これは……?」

「それはこの『黒魔の剣』の鍵……みたいなものだ」


 クロトはその光にあふれる魔晶石をレティシアの手と一緒に包み込む。


「――鍵?」

「ああ。ありがとうな。レティシア。これで、まだ戦える」


 クロトは優しい手つきでその魔晶石を受け取ると再びクアトロからレティシアを守るように前へと進み出た。


「なんですか? まだ諦めていないのですかぁ?」


 マークがあきれた表情をのぞかせ、クロトを見る。

 クロトは絶望感を漂わせていた先ほどとは異なり、勝ち気な瞳をのぞかせると、手にした魔晶石を握りしめた。


「ああ。そうだ。見せてやるよ……本当の『黒魔の剣』の力を」


 そう言ったクロトは刀身の根元にあるくぼみへとその魔晶石をはめ――。

 その瞬間、あふれ出る光の渦がクロトと漆黒の剣を覆い隠した――。



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