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最低最強の英雄譚《リ・スタート》  作者: 松秋葉夏
第一章 最低最強の英雄譚
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クロトとクアトロの戦い

 幾重もの斬撃が火花を散らし――。

 幾十もの魔術が怒号を響かせる。

 レティシアは目の前に広がる光景に目を奪われ、言葉を失っていた。

 いや、レティシアだけではない。

 あれほど、クアトロ=オーウェンの勝利を信じて疑わなかったマークですら、驚愕に目を剥き、顔を真っ青に染めて二人の戦いに恐怖を覚えていた。


「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない・・・・・・」


 我を忘れたように同じ言葉を繰り返すマークにはすでに理性の欠片も見られない。

 やつれた顔をのぞかせるマークにレティシアは同情のような感情を抱きながらも、その心情はマークのそれに近かった。


 ――ガキィィン・・・・・・。


 と魔力と剣がぶつかり合った衝撃音にレティシアは再び意識を二人の戦いに向けた。

 クロトから手渡された魔晶石をギュッと握りしめながら、レティシアはゴクリと息を飲み込む。


(本当に・・・・・・ありえないわ。こんな戦い)


 レティシアはクアトロ=オーウェンと互角以上の戦いを繰り広げるクロトを見つめ、そう思わずにはいられなかった。




「おおおおおおおおおッ!」


 振るった斬撃のすべてが膨大な魔力を持つクアトロ=オーウェンの魔力の障壁に阻まれていく。

 クロトは内心舌打ちをしながらも、距離を一定に保ちながら、休むことなく漆黒の剣――『黒魔の剣』を体を蝕んでいく激痛に耐えながら振るっていく。


「――ッ!」


 手に伝わる衝撃がクアトロ=オーウェンの魔力の密度が急激に跳ね上がっていくことを知らせてくれる。

 クロトはクアトロが密集させた魔力の塊から逃れるように姿勢を傾けた。

 ドオオオォン!

 と、いう衝撃がクロトの髪を激しく揺らし、踏ん張っていた足下が崩れていく。

 クロトは宙に舞った大きな瓦礫をクアトロの頭部に向かって蹴り飛ばす。

 当然、無色の魔力の壁がその一撃を難なく防いでいくが、クロトの目的は別にあった。


(ここなら――どうだっ!)


 クアトロが使った『魔力装填』は一カ所に魔力を集める性質上、どうしても体に纏った魔力が薄くなってしまう。

 その状況に加え、クロトの放った瓦礫を防ぐためにクアトロは今ほとんどの魔力を胸より上に集めているはずだ。

 なら、この一撃は――。

 大きく弧を描いたクロトの一撃はクアトロの腹部に吸い込まれるように切り裂いていく。

 舞い上がる鮮血を目にしたクアトロのオーウェンの表情が初めて変わった。


「お・・・オアアアア」


 その虚ろな瞳は初めてクロトを視界に捉え、ようやくクロトが命を脅かしかねない敵だと認知した。

 クアトロの魔力が一瞬にしてふくれあがり、クロトは剣を盾にしながらその魔力の衝撃にはじき飛ばされる。


「ちっ・・・・・・」


 一瞬にして距離を引き離されたクロトは剣を構え直し、クアトロとの長い距離を駆け抜ける。

 が――。


「コオォォォォォォ・・・・・・」

 

 クアトロの顔に痣のような模様が浮かび上がった瞬間、クロトは顔に大粒の汗を浮かばせて、その場に急停止した。



 クアトロ=オーウェンの最大の武器は『魔力装填』やそれに伴う派生技である高速移動の『イグニッション・ブースト』や収束魔力攻撃『イグニッション・バースト』ではない。

 真にクアトロが得意とするのは英雄譚に描かれたような魔術。

 クアトロの体に直接刻まれた十三の伝説級魔術だ。

 この国に伝えられなかった伝説となった魔術の数々。

 クアトロが知る魔術の中で最も相性の良い十三にも及ぶ魔術には伝承通りに空を割り、時空を破壊できる力を持つ魔術もある。

 その一つである転移魔術を使えた瞬間にクロトはある仮説を立てていた。

 クアトロは体に刻まれた禁呪に匹敵する魔術の数々を自由に使いこなせるのだと。


 だからこそ――。


(その一撃を・・・・・・待っていたぜッ!)


 クロトはクアトロ=オーウェンの顔に浮かんだ痣――『魔術式』を見ても冷静に対処していた。

 顔に浮かんだ魔術が何であったのかを即座に思い出し、クロトは地面を滑るように姿勢を低くした。

 その直後。

 クロトの頭上を高熱の熱線が通過し、周囲の空気すら焼き尽くしていく。

 超高密度の魔力を前方に撃ち出す魔術《ローバースト・ゼロ》

 撃ち出された高密度の魔力が通過した場所はあらゆるものを破壊し尽くす光の塊。

 光魔術の最上位魔術だ。

 《ライトボール》では比較にならないほどの攻撃力、速度を誇る魔術だが、クアトロの使う魔術には死角が存在していた。

 それはその魔術が描かれたのがクアトロ=オーウェンの顔だということだ。

 その極光の光の魔術は確かに巨大だが、魔術式の描かれた位置のせいでどうしても地面すれすれにわずかな隙間が生まれてしまう。

 クロトはその隙間に体を滑りこませ、《ローバースト・ゼロ》を避けきってみせた。

 クロトは魔術が通過した直後には体勢を立て直し、クアトロとの距離を縮めていた。


「おおおおおッ!」


 クアトロの胸に向かって一直線に伸びる剣尖にクロトは全神経を収束させる。

 クアトロが本気を出してきた以上、クロトに残されたチャンスは少ない。

 魔術を放った直後の隙を狙った全力の一撃。

 今のクロトに出せる渾身の一撃は寸分違わずクアトロの胸に吸い込まれるように向かっていく。

 ――が。

 クロトの一撃が胸に到達するわずか数センチ足らずのところで。


 ――ガキィィン。


 と、空しい音を響かせてクロトの体は大きく吹き飛ばされた。

 はね飛ばされたことなど忘れ、クロトは目の前で高密度の魔力の障壁を張り巡らせたクアトロ=オーウェンに驚愕のまなざしを向けていた。


(そんな、バカな。こんなに速く魔力が回復するのかッ!? いくら何でも速すぎるッ)


 これまでクアトロは少なくとも転移魔術に加え、『魔力装填』、そして《ローバースト・ゼロ》とかなりの量の魔力を消費していたはずだ。

 少なくとも、これほど速く全身に高密度の魔力を張り巡らせることなど、不可能に近い。

 だからこそ、クアトロが魔術を放った直後こそが勝利の鍵だと考え、その瞬間にクロトは後先を考えることなく、全力の一撃を繰り出していた。

 だからこそ――。

 クアトロの胸に浮かんだ魔術式にクロトの反応はわずかに遅れていた。

 その魔術の前にクロトの心臓は早鐘のように警鐘を鳴らし続ける。


「くっそおおおおおおッ!」


 反射的に剣を盾にしたクロトをあざ笑うかのごとく――。

 吹き荒れる嵐のような魔術の渦がクロトの体を構えた剣ごと切り刻んでいく。

 魔術の突風がぼろぼろになったクロトの体を上空にたたき上げ、クロトの体は天井に激突した。


「クロトー!!」


 そして――。

 泣き叫ぶレティシアに追い打ちをかけるかのように。

 天井に突き刺さったクロトに向かって無数の風の刃が一斉にその牙をクロトに突き立てた――。


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