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最低最強の英雄譚《リ・スタート》  作者: 松秋葉夏
第一章 最低最強の英雄譚
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英雄の再来

「レティ、お疲れ様」

「あ、ノエル……」


 一学年全クラスが集められたアリーナでレティシアは気まずげに親友の名を口にした。

 ノエルは興奮冷めやらない感じで瞳をキラキラと輝かせながらレティシアに駆け寄る。


「すごい活躍だったね! 私驚いちゃったよ」

「う、うん。あ、ありがとうね」


 歯切れが悪そうに答えたレティシアはゆっくりとクラス全体を見渡す。

 クラスメイトたちの視線のほとんどはノエルと同じように称賛の眼差しをレティシアに向けていた。

 口に出さずとも今回の魔術競技戦、一年一組が優勝できたのは間違いなくレティシアの活躍があってこそだと誰もが確信している。

 そんな眼差しにレティシアは居心地が悪くなってブンブンと手を振った。


「け、けど結局、途中で魔晶石の光が消えてリタイアになっちゃったから私たちのクラスの優勝はノエルたちアリーナ組が最後まで生き残ってくれてたからじゃないかしら?」


 実際、レティシアの魔晶石は競技終盤には効力を失い、リタイアしていたのだ。

 一組が優勝できたのはほとんどのペアが最後まで生き残り、損害が少なかったことに他ならない。

 確かにその一面もあるのだ。


「そうかもしれないけど、それでも私たちが生き残れたのはレティが他のクラスの生徒をほとんどリタイアさせたからじゃないかな?」

「そ、そんなことないわよ! 全部偶然よ、偶然! 私もノエルみたいにアリーナにいた方が最後まで残れたかもしれないのに……」

「そうかな? もしそうだとしても、今日の魔術競技で一番撃破数が多かったのは間違いなくレティのはずだよ?」

「う……」


 ノエルのその言葉にレティシアは喉を詰まらせた。

 レティシアの撃破数は軽く数えても一クラス分以上あるのだ。

 何十人という魔術師がレティシア一人の前に敗れ去った。

 その事実は競技終了後のアリーナで早くも話題に上がり、教師も含めた大勢の人からついさっきまで褒められていたところなのだ。

 もっとも、ほとんどの人がどうやってこの偉業を成し遂げたのかその秘策を聞きに来ていたのだが……。

 レティシアは疲れ切った顔で手の平を見つめた。

 そこには魔術筆ソーサリィで描かれた魔術式が残っている。

 一緒にレティシアの魔術式を覗き見たノエルが驚いたように息を呑んだ。


「す、すごい……こんな魔術式見たことがないよ。これがレティの言っていた秘策なの?」

「そ、それは……」


 言いよどんだレティシアにノエルは首を傾げた。

 違うよ。と素直に言えればいいのだが言ってしまっていいものか迷っていたのだ。

 この手の術式を見た教師はあり得ないものでも見たかのように驚愕に満ちた視線を送っていた。

 そして教師の一人が漏らした一言がレティシアに真実を告げる機会を完全に奪い去ってしまったのだ。




『この簡略化した魔術式を描ける人間はこの国に三人と居ない』




 その言葉を聞いたレティシアはこの術式を描いた張本人であるクロトの名を告げることができずにいたのだ。

 三人と居ないほどの高度な術式を一瞬で書き上げたクロト。

 レティシアはその名を告げることができずに偶然できただけと言い張ることしか出来なかった。

 その言葉を聞いた教師や生徒が口々に『英雄の再来』と呼ぶものだからレティシアはずっと肩身の狭い思いをするはめになったのだが……。

 レティシアは唾を呑みこむとギュッとノエルの手を握った。


「ち、違うの、ノエル……これは……ううん、あとで説明するから今だけは時間をちょうだい……」

「れ、レティ……?」


 もういっそ全部話してしまいたかった。

 クロトのことも。自分の編み出した秘策は魔術師としては三流以下だったことも。

 洗いざらい話して楽になりたかった。

 間違いばかりの自分が『英雄の再来』なぞと呼ばれることがもう重荷でしかなかった。

 でも、だからといって洗いざらい話してしまってよいものなのだろうか? とレティシアの中で僅かばかりの葛藤が存在していた。

 全てを話すにはあまりにもクロトのことを知らな過ぎるのだ。

 考えてみればおかしなことばかりだ。

 もともとEランクのクロトがこの学院にいること自体がおかしい。

 この学院のトップ――恐らく理事長がクロトの入学を認めたとしても異例のことではある。

 魔術が使えないのにも関わらず高度な魔術式の知識を持っていることも、苦労する素振りすら見せずに魔力を纏ってみせたことも何もかもおかしすぎる。

 魔術師でもないのにあまりにも……下手をすればこの学院の誰よりもクロトは魔術に精通しているのだ。

 そしてそのことをレティシア以外に話そうとしなかった。

 気にならないわけがなかった。


(知りたい……もっとクロトのことを……そ、そう! ぱ、パートナーとして!)


 納得いく理由をこじつけるとレティシアの視線はクロトを求めて周囲を彷徨った。

 だが――。


「あ、あれ?」

「どうしたの、レティ?」

「く、クロトは?」


 レティシアの呟き声にノエルは同じようにアリーナを見渡し不思議そうに首を傾げた。


「そう言えばさっきから全然見てないね」


 ノエルのその一言にレティシアは言い知れぬ不安感を抱いた――。


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