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最低最強の英雄譚《リ・スタート》  作者: 松秋葉夏
第三章 最低魔術師と守護天使
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アンタ、ノエルが好きなの?

「おはよう、クロト……ってどうしたの!?」


 翌朝。

 憔悴しきったクロトの顔色を見て、レティシアが怪訝な表情を浮かべていた。

 クロトは、重たい頭を持ち上げて、レティシアを見上げる。

 

「おぉ、何でもねぇ……よ」

「なんでもなくないでしょう」


 レティシアの反応は至極当然だった。

 何せ、クロトはその目尻に立派な隈を携え、今にも倒れてしまいそうにフラフラと体を揺らしていたからだ。


 クロトが授業中にサボるのはいつもの事とは言え、朝から眠そうにしているのは珍しかった。

 

「寝てないの?」

「まぁ……な」


 クロトは曖昧な笑みを浮かべ、疲れたように息を吐き出す。


 あの後、『鍵』の事や、魔族の事を調べる為に、エミナの書斎に籠っていたのだ。

 クロトの知らない情報を求めて、部屋を一晩漁ったのだが、大した収穫もなく、気がつけば朝日が昇っていた。


 学校を休もうとか一瞬、脳裏を掠めたが、ノエルの事も気がかりだった。

 だから、眠たい瞼を持ち上げて、学校に来たわけだが……


「ノエル、本当に何も覚えてないのな」


 クロトはポツリとそんな事を呟いていた。


 視線の先にはクラスメイトと楽しく談笑するノエルがいた。

 ノエルは昨日の事――


 クロトと一緒に帰った時の記憶が全くなかった。

 恐らくソフィアの仕業だろう。


 あの日の出来事を忘れさせる事で、ソフィアの存在を隠し、その事実を知るクロトをノエルから遠ざけようとしたのだ。


(まったく、どれだけノエルの事が大切なんだよ……)


 エミナもノエルとソフィアの関係は何も知らないようだ。

 知っているのはクロトと同じ。


 ノエルに命を救われ、ノエルの為の守護天使になったということだけ。

 だが、その記憶もノエルはどうやら忘れているらしい。


 自身の体に天使を宿すような事件を、そう簡単に本人が忘れるはずがない。

 この記憶もソフィアが忘れさせたのだろう――とクロトは推察していた。


「なにジッとノエルの事見てるのよ、変態」


 気づけば、レティシアが頬を膨らませ、ジト目でクロトを見つめていた。

 クロトは取り繕ったように慌てて咳払いを一つ。


「べ、別に見てねぇよ……」


 だが、誰が見てもそうだとわかるほどの挙動不審ぶりで視線を彷徨わせていた。


 全くと言っていい程嘘が下手すぎる。

 これでよく、この国を騙せたものだ……とクロトは我が事ながら呆れるしかない。


 レティシアは、追求するかのようにジッ……――とクロトに詰め寄り、一言。


「あ、アンタ……もしかして、ノエルの事、好きなの?」

「はぁ?」


 間の抜けた声がクロトから漏れる……

 何、バカなこと言ってんだ? と呆れた視線をレティシアに向けるが、レティシアはいつになく真剣な表情を浮かべていた。


 クロトはゴクリと喉を鳴らし、そのあまりの熱心さに汗を滲ませた。


「お、お前、それ、マジで言ってんの?」

「わ、悪い? そ、その……ノエルにアンタみたいな最低男がくっつくなんて絶対ダメなんだから! アンタ、絶対にノエルの体目当てでしょ!?」

「……お、お前、それ失礼すぎね?」


 散々な言われように、クロトは頬を引き攣らせた。

 確かに、いろいろな面でノエルはレティシアより魅力的だ。

 神の造形としか思えない整った顔つきに、張りのある肌。

 そして、弾力のありそうな豊満な胸元――


 レティシアは、瑞々しい肌ときめ細やかさ。

 そして、線の細い体つきこそ、ノエルと同じく魅力的だが……


 だが……


 クロトの瞳は、レティシアの貧相な胸元に向けられる。

 嗚呼……なぜ、神はここまで残酷な試練を彼女に与えるのだろうか……


 と思わずにはいられない程の格差社会に、クロトは目尻にそっと涙を浮かべた。


「ちょ、ちょっとどこ見てんのよ……」


 クロトの視線に気づいたレティシアが、胸を隠すように腕を組み。

 だが、悲しいかな。

 それでも、彼女の胸は僅かばかりも膨れない。


「ん? 胸」

「ちょ……ッ!!」

「お前、もうちょっと牛乳飲めよ。そんな貧相な胸じゃ、一部の層にしか需要ねぇぞ。あ、俺、ちなみにある方が好きだから」

「ッ~……ッ!!」


 レティシアは声にならない叫びをあげ、肩をフルフルと震わせた。

 目尻に恥辱の涙を浮かべ、ギュッと拳を握りしめたのを……クロトは気づけなかった。


「あと、銀髪もいいなぁ。こうなんて言うか、神秘的? って感じがするよな」


 クロトはレティシアの動揺を無視して、揚々と己の好みを語る。

 だが、それがいけなかった。

 

 クロトの熱弁を遮るように、レティシアが嗚咽じみた悲鳴を上げる。


「く……クロトのバカああああああああああああ!!」


 そこからはいつもとお馴染みの……

 けれど、いつにも増して、怒りの籠ったレティシアの鉄拳がクロトに制裁を加えていたのだった――

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