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最低最強の英雄譚《リ・スタート》  作者: 松秋葉夏
第三章 最低魔術師と守護天使
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懐かしい顔ぶれ

久々の更新です!


ついでに新キャラ登場です!

「エミナぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ウィズタリアの外れに位置するエミナの屋敷にクロトの怒声が響き渡る。

 玄関を強引に開け広げ、ズカズカと廊下を突き進むクロトの形相は沸点を超えていた。


 なにせ、クロトはずっと知らずにいたのだ。

 ノエルの秘密を。


 それをずっと隠してきたエミナに対し、一言、何か言わないと気が済まないのだ!


 亭主関白のようにクロトはエミナの私室を乱暴に開ける。


「さぁ、どういう事か説明してもらおうか!? ってあり?」


 勢いよく扉を開けたクロトの前に飛び込んできた光景に目を瞬かせる。


 いつものエミナの部屋とは物々しさが違った。

 エミナは机に腰を落ち着けながらも鋭い形相を浮かべ、扉のすぐ側でメイドを服を着ていたアイリはいつものようにのほほんとした、間の抜けた表情を浮かべ――


 そして、見ず知らずの女性がエミナに鋭い短剣を向けていたのだ!



「……え? なに、この展開?」


 まったく蚊帳の外であったクロトは状況が飲み込めない。

 そこに、同じく状況を飲み込めていない――いや、訂正しよう。飲み込む事を放棄したアイリが近寄ってくる。


「お帰り、クロト」

「あぁ。ただいま……アイリに聞いても無駄だろうけど、この状況、何?」

「……私にもわからない」

「だよな……」


 ガクンと肩を盛大に落とすクロト。

 半眼でエミナに短剣を向ける無謀者に視線を向けて見た。


 どうにも既視感を覚える白い団服に身を包んだ女性だ。

 歳はエミナとそう変らないだろう。


 三つ編みに織り込んだ長い髪に、抜き身の刃のような鋭い目つき。

 程よく鍛えられた体に、程よいサイズの胸。


(……おかしいな? どこかで見たような……?)


 凛とした表情の中に残る幼さにクロトはやはり見覚えを感じていた。

 

 その女性はクロトの乱暴な入室に繭の一つも動かすことなく、この屋敷の持ち主であるエミナにもの凄い剣幕を向けていた。


 二人の視線の間に火花が散る。

 そんな中、空気を読まないアイリがクロトの袖を引っ張った。


「ん? どうした?」

「クロト、これ」


 アイリが差し出したのは茶封筒に包まれた冊子だった。

 その茶封筒に見覚えがあったクロトは、エミナの様子を盗み見る。


(……よし、まだ気付いていないなッ!)


 その茶封筒の中身は、アイリにお使いに出させた――エロ本だ。


 クロトはエミナとの強引な契約により、エロ本を買いに行く事が出来なくなってしまった。

 この契約というのが実に厄介で、エロ本を買いに行こうと思うだけで、体に電流の幻痛が走るのだ。


 しかも、その痛みは行動に起す意思が強い程、威力を増し、最後にはショック死するほどの痛みが体を襲う。


 解除する方法は契約者同士の解呪の同意が必要となり、未だにクロトはエミナの契約を解除出来ないでいるのだ。


 そして、その裏をかいくぐる為に用意した秘策が――このアイリだ。

 今ではクロトの従者であるアイリ。

 社会経験を積ませるつもりでクロトはことあるごとにエミナをお使いに出させていた。

 全ては飽くなく欲求を発散させる為に! まだ見ぬ秘境を目に焼き付ける為に! クロトの暴走は止らない。


 今回もその成果の一部だろう。


 クロトはこっそりとアイリから茶封筒を回収する。

 無防備なアイリが持つより、クロトが所持する方が燃やされずにすむからだ。


 茶封筒を受け取ったクロトはさっきまでの怒りを忘れたように脳天気な表情を浮かべ――


「なんだか、立て込んでるようだから俺は部屋に――」


 戻ろうとした直後、クロトの鼻先を何かが掠めた。

 そして、ズガンッと木製の扉に白銀の短刀が茶封筒を貫き、突き刺さる。


「……は?」


 クロトの表情は一変。

 血の気が失せた青白い表情を浮かべ、ギギギッ……と油の切れた機械のように首を回す。


 そこにはエミナを見ながら、手だけをクロトへと突きだした謎の女性が。

 恐らく、エミナに向けていた短刀をクロトに向かって投げ飛したのだろう。


 正確無比に茶封筒だけを狙うその手腕は称賛値するものだが、せっかく手に入れたコレクションを拝む機会もないままに貫かれた事にクロトは我を忘れて詰め寄った。


「ちょっと待てえええええ! お、お前、なにしてくれてるわけ!?」

「なに? とは?」

「あれ、俺の本だぞ!? 親に教わらなかったのか? 勝手に人の物に手を出すなって!」

「……あれは君のような少年が読んでいい本じゃないですよ」

「それを決めるのは俺だ!」

「それを決めるのはこの国の法ですよ!」


 そこでようやくその女性と目が合う。

 とても澄んだ瞳をした女性だった。

 栗色の髪と同じ瞳の女性。

 やはり、どこかで見たような……


 言葉に窮するクロトに笑いを堪えられなくなったエミナがクツクツと嗤う。


「いや、私の手間を省いてくれてありがとう」

「そんなつもりはありません。あの本は、その……まだ、少年には早いというだけで」

「私も同感だよ」


 エミナがパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、扉に突き刺さった茶封筒が業火に包まれる。


「ちょ!? エミナ!?」

「いつもの事だろ? 諦めろ」


 消し炭となった灰がクロトの手の中からこぼれ落ちる。

 崩れ堕ちるクロト。

 

「さて、話を戻しましょうか、エミナ=アーネスト」

「……」


 再び険のある声音で女性はエミナに詰め寄る。

 バツが悪そうに視線を泳がせるエミナの姿は珍しかった。


「ん……待てよ? ひょっとして……」


 そんな二人の光景を見てか――

 クロトの中にかつての記憶が蘇ってくる。

 一人だけいた。

 クロトの知る中で、栗色の髪の少女が……


「お前……シャーリィか? あのお漏らしシャーリィだろ?」


 クロトがそう漏らした瞬間、ビキリッとシャーリィと呼ばれた女性に額に青筋が浮かぶのだった――

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