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最低最強の英雄譚《リ・スタート》  作者: 松秋葉夏
第三章 最低魔術師と守護天使
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世界を守護する天使Ⅱ

久々の投稿です!

間隔が開いてしまってすみません!

「む? どうした、クロト=エルヴェイト?」


 この大騒動の収拾に頭を悩ませるクロトに対し、ノエルはとくに気にした様子もない。

 普段のノエルであればクロトの同じように半泣きになって頭を抱えそうなものだが、今のノエルにそれを求めるのは些か無理があるだろう。


 天使。


 今のノエルの姿を一言で表現するにはその一言で事足りる。

 比喩でもなんでもない。今のノエルは紛うことなき天使だ。

 頭上に輝く光輪に、対翼の翼。白銀の鎧を身に纏い、身の丈以上のある巨大な槍を携えた姿は、普段のノエルとかけ離れた姿だ。


 加えて、魔力量も異常だ。

 ノエルの潜在魔力はランクB程度だった。

 だが、今のノエルから感じられる魔力はレティシアの魔力が普段、無意識に放出している魔力よりも格段に多い。

 これで魔力を押さえているのだから、その潜在魔力は計り知れないだろう。

 下手をすればこの世界最強の存在――


「それは違うぞ」

「お前……」


 クロトの考えを見透かしたようにノエルが言った。


「俺の心まで読めるのかよ……」

「深層意識までは読み取れないが、表層ならある程度は可能だ。何に悩んでいるのか気になってな」


 ノエルはそう言いながら群がる群衆を一瞥。

 虫けらを見るような視線を向け、眉を歪めた。


「なるほど、この人間達が問題か」

「おい、止めろ、馬鹿」


 まるでそれが当たり前のようにノエルは群衆に向かって手を向けた。

 それだけで何をしでかすのか察したクロトは険のある声音でノエルに制止を呼びかけた。


「馬鹿だと? そんな言葉久しく聞かなかったぞ」

「馬鹿は馬鹿だ。お前、なにするつもりだった?」


 ノエルの治療で怪我だけじゃなく魔力まで回復したクロトは、拳の一点に魔力を収束させていた。

 今のノエルには逆立ちしたって勝てないだろうが、それでも罪もない人に殺意を向けるなら容赦はしない――とクロトの瞳と拳が何よりも雄弁に語っている。


 ノエルはクロトの態度を見て、ため息を吐くと、呆れた表情を覗かせ、


「話せる環境を整えるだけだ。このままではロクに話も出来そうにないからな」

「やめ――」


 白銀に輝く魔力を解き放った。


 白銀に輝く魔力は矢のような形へと変り、次々と周囲の人間に突き刺さる。

 それはこの周囲に及ぶだけでなく、このウィズタリア全土に及ぶ。

 天を覆う白銀の矢を止める術などクロトにあるはずもなく、膝をついたクロトはただ呆然と矢に射貫かれる光景を目に焼き付けることしか出来なかった。


(これが……天使の力かよ……)

 

 こんなのクアトロ=オーウェンにだって真似出来ない。人知を超えた力。人外そのものだ。

 あまりに理不尽な死を目にクロトはたまらず顔を覆った。


「何を俯く」

「お前……ッ!」

 

 たまらずクロトは吠えた。

 血が滲むほど拳を握り、ノエルに飛びかかろうとしたところで、その異変に気付いた。


「言っただろ。ノエルの悲しむ事をするのは本意ではない。と」

「――え? 生きて……る?」

「当然だ」


 呆然とするクロトの目の前には血の海は広がっておらず、クロト達を取り囲む人達はどこか虚ろな眼差しで呆然としている。

 その光景に目を丸くするクロトにノエルは、


「私達の使う魔術には記憶を操る術がある。それを使っただけだ。ただ広範囲に及ぶ故、指向性を持たせた矢の姿にさせてもらったがな」

「……マジか」


 恐らく、ノエルのその言葉は真実なのだろう。

 矢を受けた人達は虚ろな表情のまま、ゆっくりとその場を去っていく。

 転倒した馬車からも怪我人達がゆっくりとした歩調でノエルやクロトに視線を合わせる事もなくその場から去っていった。


 誰も死んでない――


 ようやく色んな意味で気を抜く事が出来たクロトはその場にへたり込む。

 事態はなんとか収拾出来たが、少なくとも寿命が数年は縮んだ――そう思わずにはいられない光景を目に焼き付けてしまったせいで、腰が抜けたのだ。


「情けない男だ」


 腕を組み、フンと鼻を鳴らすノエル。

 認識すらされてないのか、ノエルの側を横切った人達はノエル事を気にした素振りも見せず、腰を抜かしたクロトを見て、薄ら笑いを浮かべていた。恥ずかしい。


 次の瞬間――


 羞恥に悶えるクロトの顔がさらに赤くなった!


 なんと、あのノエルがクロトを抱きかかえたのだ。


 レティシアとは比べものにならない豊穣な胸が鎧越しに伝わり、クロトの理性が一気に狂う。

 死の光景の直後に桃源郷を見せられれば、流石のクロトといえど冷静ではいられない。

 

「お、お前、なにして!」

「ここでは落ち着いて話しも出来ない。話しやすい場所に移動するぞ」


 ノエルの腕の中でもがくクロトを無視して、ノエルが何らかの魔術を発動させた。

 それはノエルとクロトの足元に法陣として展開され、光輝く法陣が二人を包み込むと――


「《転移》」


 ノエルのそんな囁きと共に。


 忽然と二人はその場から姿を消したのだった――


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