ザスーパーバトル号と歩む日々
ライスフィールドが現役を引退してから2年の月日が流れた。
8歳のライスフィールドは、野々森牧場で母と弟、そして妹と元気に過ごしていた。
パーシモンは去年まではテレビ番組で企画された競争に参加していたものの、能力の低下によって負けるケースが増えてきたため、その企画からは手を引くことになった。
そして今では牧場で乗馬となり、牧場にやって来たファンの人達を背中に乗せる日々を過ごしていた。
一方、6歳のレインフォレストは、今年の3月まで競走馬として走り続けた。
通算成績は23戦6勝で、愛知杯を含めて最終的に重賞を3勝し、ポストライスフィールドという称号にふさわしい存在となった。
そして善郎、道脇君、鴨宮君、アキ、紅君らをはじめとする村重厩舎の陣営と、蓉子、葉月、太郎、ジャン、そして物心のついた米太をはじめとする野々森牧場の陣営に新たな感動を与えてくれた。
「レインフォレスト。色々なことがあったけれど、本当にご苦労様。たくさんの思い出をありがとう。」(善郎)
「今まで素敵な冒険の続きを見せてくれてありがとう。これからは繁殖牝馬として頑張ってね。」(蓉子)
そんなねぎらいの言葉をかけられながら現役を引退したレインフォレストは、翌月にソングオブリベラとの再会を果たすことができ、彼女がずっと願い続けていたことはついに現実となった。
この年、競馬界ではファントムブレインの産駒がデビューした。
2歳新馬戦が始まった6月の土曜日に産駒の先陣を切ってリオファントム(メス、関西馬)がデビューすると、翌日にファントムブラスト(オス、関西馬)が勝ち名乗りを挙げた。
7月の函館2歳Sではこれらの2頭が出走し、リオファントムが勝利を挙げた。
他にもかなりの能力を秘めている馬達は何頭もおり、これらがデビューしたら、やがて競馬界にファントムブレイン旋風が吹き荒れるのではないかという評論家もいた。
しかし、村重厩舎には現時点で1頭もファントムブレイン産駒はいなかった。
さらにはレインフォレストの引退以降、平地レースでのオープン馬がいなくなってしまい、顔触れが寂しい状態になってしまった。
そんな中、これまで村重厩舎に所属していた鴨宮君はフリーになる道を選択し、色々な可能性を模索し始めた。
さらに彼は時を同じくして、アキとの婚約を発表した。
アキは鴨宮君よりも16歳年上で、すでに40歳を超えているため、多くの人達が驚いていた。
2人は元々厩舎の同僚という関係をキープしていたが、鴨宮君は去年から徐々にアキに対し、僕と付き合ってほしいというお願いをしていた。
これに対し、アキは当初
「私はもう結婚するつもりはありません。」
と言って、断り続けていた。
しかし鴨宮君はそれでもあきらめず、アプローチを続けていた。
そして1年後の今年、アキは厩舎に飾ってある元旦那の写真を見ながら、心の中で語り出した。
(あんたのことを忘れるわけじゃない。でも1人ぼっちのままの私では、あんたも見ていて辛いでしょう。だから、私は新たなパートナーを見つけることにします。勝手な行動かもしれないけれど、どうか許してね。私の幸せはあんたの幸せでもあるから。)
彼女はそう言った後、部屋を出て鴨宮君のところに行き、彼の願いを聞き入れることにした。
最初は善郎や道脇君、紅君もまさかという表情をし、驚きを隠せなかったが、やがてその雰囲気にも慣れ、2人の付き合いを認めることにした。
そして今年の天皇賞(秋)の翌日に、2人の披露宴が行われることになった。
この日を選んだ理由は、ライスフィールドがこのレースを2回勝っていることに加え、秋=アキという語呂合わせにもちなんでいた。
それから1ヵ月後。世間ではジャパンカップも終わり、季節は冬に向かっていた。
村重厩舎では鴨宮君とアキが一緒に出かけることが多くなったため、善郎は紅君をアキの後釜に指名し、新たな従業員を雇うことにした。
そんなある日、村重厩舎では1頭の馬がやってきた。
名前はザスーパーバトル(The Super Battle、オス)。生まれは道脇牧場で、父はライスフィールド、母はフロントラインだった。
「この馬がこの世代でたった1頭しかいない、ライスフィールドの仔か。」
「体つきを見たところ、どちらかと言えば母親に似ている感じがしますね。」
「ザスーパーバトルを通じて、また素敵な物語を築いていけるといいですね。」
善郎、道脇君、紅君は母親と同じ栗毛の馬体を見て、大きな期待を寄せていた。
そして善郎はこの馬を連れて建物の中に入ると、ある馬房の前までやってきた。
「ザスーパーバトル。この馬房は君のお父さん、ライスフィールドがいた馬房なんだよ。ここはね、ライスフィールドが厩舎を去って以降、この馬を忘れないようにということで、ずっと空けていたんだよ。だけど、今日からはここが君の住む場所だ。すでにミチやトッキーからも同意は得ている。僕としては、ライスフィールドが築いてくれた夢の続きを、これからは君に築いてほしいんだ。だから、この馬房を君に託すことにする。頼んだよ。」
彼はそう言うと、3年間ずっとかかったままだった入口のバーを外した。
そしてザスーパーバトルがゆっくりとその中に入っていく姿を見届けていた。
この馬に関する情報は野々森牧場の蓉子達の耳にも入った。
「ザスーパーバトルが来年デビューして活躍してくれるといいですね。」
「そうだね。そうなればライスフィールドの評価も料金も上昇するし。」
「フロントラインは毎年来ているけれど、もっと牝馬の数を増やしたいな。」
蓉子、葉月、太郎はこの馬の活躍次第で注目度が大きく変わるだけに、やはり大きな期待を寄せていた。
さあ、これからライスフィールドの仔、ザスーパーバトルによる、新たな物語が幕を開ける。
善郎、道脇君、紅君をはじめとする関係者の人達は、ライスフィールドが活躍していた姿を重ねながら、デビューの時を楽しみにしていた。
(終わり)
レインフォレストが愛知杯の他にどの重賞を勝ったのか、その中にGⅠが含まれるのかについては、皆様の想像にお任せします。
また、ザスーパーバトルがこれからどんな成績を残したのかについても、皆様の想像にお任せします。
あらかじめご了承ください。
トランクバーク号物語以降、5作品にわたって書いてきた競走馬に関する作品は、本作をもって完結となります。
今まで応援ありがとうございました。




