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11月と12月

 11月。天皇賞(秋)の後、中1週をはさんで毎週GⅠレースが行われるようになった。

 エリザベス女王杯ではシルバーリリーが1番人気に応えて見事に勝利を収めた。

 翌週のマイルチャンピオンシップでは、3歳馬のシルバーサイレンスが横一線の叩き合いを制して優勝した。

 そのマイルCSにはトランクゼウスが出走していたが、18頭立ての15着に惨敗してしまった。

 同馬は皐月賞制覇後、長いトンネルに陥っていたが、今年の阪神大賞典で見事に復活を果たした。

 しかしその後はなかなかレースに出走することができず、秋に復帰を果たしたものの、かつての輝きを取り戻すことはできなかった。

 思えばこの馬は新馬戦と小倉2歳Sを勝ち、ライスフィールドと並んでその世代を代表する馬だった。

 しかし、京王杯2歳Sと朝日杯FSではどちらも2着、日本ダービーも2着、神戸新聞杯3着、菊花賞4着というように、もどかしい結果が続いた。

 その状態が続いた結果、4勝(24戦)しか挙げることができず、悲運の馬という形で引退することになった。


 マイルCSの翌日から、世間ではジャパンカップの話題があふれるようになった。

 日本からはフォークテイオー、ホタルブクロ、グリーンレジェンド、トランクミラクルなどのメンバーがそろった。

(※ソングオブリベラは天皇賞(秋)の反動のため回避。パースピレーションはチャンピオンズカップに向かったため、回避。)

 一方、海外からはパーマフロスト(Permafrost)、セットメルベイユ(Sept Merveilles)、アブソルートゼロ(Absolute Zero)がやってきた。


 下馬評では日本馬有利と言われる中、同レースを制覇したのは久矢君が騎乗したセットメルベイユだった。

 日本で日本人騎手が海外馬に乗ること自体、異例のことで、東京競馬場では久矢君に向けて「裏切り者!」と叫ぶ声もあった。

 しかし彼はそれさえも力に変えて、見事にセットメルベイユを優勝に導いた。

 オーストラリアから来た同馬の関係者に囲まれて表彰式を終えた後、久矢君は突如、今年の有馬記念を最後に、騎手を引退することを打ち明けた。

 あまりに唐突な発表だったため、マスコミやファンの人達は一斉に驚いた。

「あんなに活躍しているのに何故?」

「彼の身に何かあったのか?」

 世間やネットでは様々な憶測が飛び交い、彼の周囲はにわかに騒がしくなった。

 さらには彼の両親や咲さん、そして彼女の両親にも影響が及ぶようになった。

 久矢君は当初、自分に対するコメントなら何を言われても構わないと静観していたが、周りの人達にまで迷惑をかけるわけにはいかないと思い、自身のサイトで次のようなコメントを掲載した。


 今回、僕が引退を決意することになったきっかけは、僕自身が妻のサキが経営する英会話教室で働こうと思ったからです。

 実は10月のある日、彼女が新たなスタッフを雇いたいという意向で、募集広告を打ちだしました。

 それを見て、僕は今まで自分を支えてくれた彼女に恩返しをしたいと思うようになり、応募をすることにしました。

 サキはまさか自分が応募するとは予想していなかったため、かなり驚いていました。

 でも自分の熱意に押される形で、僕に対して面接をしてくれることになりました。

 彼女の採用の決め手は、まず英語が話せること。さらには営業や事務仕事がある程度でき、授業で使う資料の作成に協力してくれるということでした。

 僕は英語が話せるので、まずこれはクリア。営業の経験はないけれど、知名度があるので、十分に宣伝効果があると判断してもらえたこと。

 一方、事務に関しては皆無だが、これは彼女が自分で鍛えて最低限度必要なスキルを身につければ何とかなると思ったこと。

 自分はこれまでサキが作った資料をたくさん見てきたので、彼女の書きたいことや考えていることはよく分かります。

 以上を考慮した結果、彼女は自分が十分に戦力になると判断してくれたため、この度採用に至りました。

 決してコネで英会話教室のスタッフになるわけではありません。

 収入も激減することになりますが(※サイト内では公表していませんが、大体年収250万円程度)、これまでたくさんの賞金を稼いできましたし、今の僕にとってはお金よりもサキとの時間が大事だと思っています。

 正直これまで彼女には毎週寂しい思いをさせましたし、いつ事故にあうのかという不安も抱かせてきました。

 来年からはその心配もなくなりますし、彼女と2人で頑張っていきたいと思います。

 どうかファンの皆様のご理解をお願いします。

 そして僕や僕の両親、彼女や彼女の両親にこれ以上あれこれ言うのだけはやめてもらいたいと思っていますので、何卒ご協力をよろしくお願いします。


 このコメントを受けて、騒動は少しずつ終息に向かっていき、翌週末、久矢君は競馬場でほぼ通常通りの環境の下で騎乗をすることができた。


 12月。世間ではそろそろ有馬記念に関する話題が持ち上がり、日が経つに連れてますます盛り上がりを見せるようになった。

 出走を予定していると見られる馬達は現時点でライスフィールド、ソングオブリベラ、エリザベス女王杯を勝ったシルバーリリー、マイルCSを勝ったシルバーサイレンス、チャンピオンズカップ2連覇を飾ったパースピレーションをはじめ、グリーンレジェンド、フォークテイオー、ホタルブクロ、トランクミラクルなどがいた。

 ジャパンカップを勝ったセットメルベイユは当初、有馬記念参戦の意向を示していたが、直線の短い競馬場で大レースを経験したことがなかったため、最終的に辞退を選び、結果的に外国馬の参戦はなくなった。

 天皇賞(秋)での雪辱を果たしたいソングオブリベラは、仕上がりがいまいちで、タイムがなかなか伸びない状況だった。

 ソングオブリベラを管理している人達は、口をそろえて

「天皇賞(秋)での激走が相当響いているようです。このままでは有馬記念に間に合わないかもしれません。」

「ファン投票で1位という高い評価をしてもらった以上、何としても出走にこぎつけたいと考えているのですが…。」

 と言わざるを得ない状況だった。

 一方、ファン投票で2位のパースピレーションとほぼ同じ数の票を集めて3位になったライスフィールドも調子が上向かず、調教でライスパディーと併せた時でさえ遅れを取ってしまう状況だった。

 そんな中、野々森牧場の陣営は善郎達に次のようなお願いをしてきた。

「天皇賞(秋)を勝ってから、私達は意気揚々と種牡馬の交渉をしてきました。しかし関係者の人達からは『この血統は今の時代にそぐわないかもしれないからなあ。』、『それでもこの馬には欠点が色々あるからねえ。』と言われる有様でした。」(蓉子)

「正直、色々言われて悔しかったです。こちらからは『一体GⅠを何勝すればいいのよ!ライスフィールドは必死になって頑張ってくれたのに!』と言い返したくなりました。」(葉月)

「この状況を変えるには、GⅠ4勝目をあげるしかないと思っています。陣営の皆さん、どうかよろしくお願いします。ライスフィールドをもう1度だけ頑張らせてください。」(太郎)

 それを受けて善郎は正式に出走を決意し、ライスフィールドに気合を入れようと、連日声をかけていた。

「何とか元気を出してくれ。秋天の時にはあの状態の中であの走りを見せてくれたじゃないか。」

「次が引退レースなんだ。何とかあともう一度だけ頑張ってくれ。」

 果たして善郎や蓉子、葉月、太郎達の願いはライスフィールドに届くのか?

 有馬記念が行われる時は、刻一刻と近づいてきた。


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