春の大一番発走
天皇賞(春)の1つ前に行われた端午賞に出走したレインフォレストは、ベストを尽くしたものの、6着に終わった。
これによって春のクラシック戦線に名乗りを上げることは不可能となってしまった。
「すみません、皆さん。ペースについていけませんでした。」(鴨宮君)
「仕方がない。これがオープンの壁というやつだ。」(善郎)
「今後は条件クラスへの降格を待ってレースに出すことにしましょう。」(蓉子)
「次はいよいよ春天だ。頑張ってくれよ、シン。」(道脇君)
「はい、分かりました。」
鴨宮君は悔しい気持ちを抱えながらも、そう言われて素早く気持ちを切り替え、天皇賞(春)に向けて気持ちを高めていった。
天皇賞(春)には15頭が出走した。
その中には今年からGⅠに昇格した大阪杯を1番人気で制したパースピレーションと同レースを2番人気で2着に入ったフォークテイオーが出走していた。
パースピレーションはファントムブレイン引退後、関西を背負って立つ存在になると見られており、天皇賞での前売りではずっと1番人気となっていた。
当初、このレースは16頭立ての予定だったが、前走で阪神大賞典を勝ったトランクゼウスが脚部不安を発症してしまったため回避となり、結果的に15頭となった。
主な出走馬の枠順、馬番、ならびに人気は次の通りだった。
パースピレーション 8枠15番 1番人気
フォークテイオー 3枠4番 2番人気
ソングオブリベラ 2枠2番 3番人気
ライスフィールド 8枠14番、4番人気
シドニーメルボルン 5枠9番 5番人気
トランクミラクル 2枠3番 7番人気
クリスタルロード 6枠11番 9番人気
(※単勝倍率はパースピレーションが2.6倍、フォークテイオーが5.0倍、ソングオブリベラが5.9倍、ライスフィールドが6.6倍、シドニーメルボルンが9.7倍となっており、単勝10倍を切るのはこの5頭だった。)
(外枠にはなったが3200mの長距離だし、あまり気にする必要はない。後ろの位置取りになろうが、外を回ろうが、とにかくペースを乱したら負けだ。ライスフィールドに合った走りをすることを心がけよう。)
パドックを回る鴨宮君は自分の頭の中で色々な作戦を考えていた。
一方、パースピレーションに乗る網走騎手、ソングオブリベラに乗る久矢君も同様に色々なことを考えていた。
(他に、ベニー騎手はシドニーメルボルン、坂江騎手はトランクミラクル、赤嶺騎手はフォークテイオー、弥富さんはクリスタルロードにまたがりながら、やはり発想直前まで作戦を練り続けていた。
レースがスタートすると鴨宮君は後方待機を選択し、少しずつ下がっていった。
その考えは網走騎手も同じだったようで、パースピレーションもライスフィールドと同様に下がっていった。
一方、内枠に入ったソングオブリベラ鞍上の久矢君はこれまでの主な作戦だった中段待機から一転し、このレースでは先行策に打って出た。
(あれっ?リベラは前からか。僕の思っていた作戦と違うな。)
鴨宮君は一瞬驚きを隠せなかったが、すぐに冷静さを取り戻した。
ソングオブリベラのすぐ前にはクリスタルロードが走っており、トランクミラクルが中段よりやや前につけてソングオブリベラをマーク。フォークテイオーは中段、シドニーメルボルンはさらにやや後方につけ、ライスフィールドとパースピレーションはさらにその後ろを走る形となった。
クリスタルロードは最初、3番手につけていたが、前の馬がペースを落としたため、いつしか先頭に立ってしまった。
(うーーん、押し出されるように先頭になったわね。最後まで先頭をキープできるか分からないけれど、こうなったらスタミナの無駄な消費は極力抑え、逃げ切る作戦で行こう。)
弥富さんは素早く作戦の修正を行い、他の騎手達に気づかれないようにゆっくりとペースを落としていった。
先行馬が次々とその作戦を取ったため、最初は平均だったペースどんどん落ちていき、かなりのスローペースになった。
1週目の正面スタンド前に入ると、それまで外を走っていたライスフィールドは内に入った。
それとほぼ同時にそれまで後方2番手から最後方に順位を下げた。
先頭のクリスタルロードがかなりスローペースのため、15頭の馬達はまるでジョギングでもしているかのようにゆっくりとスタンド前を通過していった。
そしてゴール板を通過し、順番に1コーナーへと入っていった。
先頭はクリスタルロード。リードは1馬身。
ソングオブリベラは5番手。その後ろにはトランクミラクルがピッタリとマーク。
フォークテイオーは中段からやや後ろ。
後方にはシドニーメルボルン、1番人気のパースピレーションは後ろから2頭目。
そして最後方にはライスフィールド。
15頭の馬達は一段となったまま2週目の向こう正面に入っていった。
(さあ、ここから他陣営に気付かれないようにペースを上げていくわよ。そして徐々にロングスパートに入っていくけれど、最後まで頑張ってね、クリスタルロード。)
弥富さんは残り1000mの標識を通過すると、即座に作戦を実行した。
(弥富騎手ならもうそろそろペースを上げるはずだ。こちらも仕掛ける準備をしよう。)
久矢君は彼女の性格を読んでいたようで、2人の間では心の探り合いが始まっていた。
一方、鴨宮君はまだ仕掛ける気配がなく、最後方のまま内ラチ沿いを走っていた。
「あれだと最後にかなり追い込まないと届かないのではないでしょうか?」
「しかもすぐ外に他の馬(シドニーメルボルンとパースピレーション)がいるから外にも出せないですし。」
「ということは、コーナーでは内で他馬をすり抜けていかないと。」
「それはダイジョブでしょうか?ちょっとRiskyだと思います。」
蓉子、葉月、太郎、ジャンは心配そうにライスフィールドを見つめていた。
すでにシドニーメルボルンは外に持ち出して順位を上げ始め、スパートを開始しているようだった。
一方、パースピレーションとライスフィールドは3コーナーが近づいてきてもまだ後方のままだった。
3コーナー。すでにペースは目に見えて上がっており、ソングオブリベラは3番手にまで順位を上げていた。
フォークテイオーやシドニーメルボルンはコーナーが緩くなったところを見計らって外に持ち出し、スパートを開始した。
その他の馬も何頭か外に持ち出したため、内にはある程度スペースができた。
それを見たパースピレーション騎乗の網走騎手が逃すはずがなく、一気に間をすり抜けるような形で順位を上げていった。
一方、ライスフィールドは最内にスペースができたことも手伝い、内ラチ沿いを走ったままの状態だった。
(良かった。ふさがったままだったらどうしようと思ったけれど、これで一気にスパートできる。内ラチ沿いで4コーナーを回るのは大変だけれど、お前ならできる。頑張ってくれ。)
鴨宮君はそう思いながら手綱をしごき始めた。
ライスフィールドが最短距離で4コーナーを回っている時、先頭を走っているクリスタルロードはすでに最後の直線に姿を現していた。
(まだまだ手ごたえは十分にある。このままあと400mを逃げ切るわよ。ここは直線に坂もないし、あんたなら行ける。頑張って!クリスタルロード!)
(先頭まで3馬身。一気に交わしていくぞ。そして最後まで逃げ粘れ。絶対に手を抜くんじゃないぞ、リベラ!)
(コーナーで大外まで持ち出さずに済んだし、距離のロスを防げた。あとは他馬をゴボウ抜きにしていくだけだ。行け、パースピレーション!)
(Everything’s been alright. Do your best, Sydney Melbourne! If you think you can, you can!)←(訳:全ては順調に進んでいる。ベストを尽くせ、シドニーメルボルン!できると思えばできる!)
(初めての3200mだけれど、バテる気配もない。お前の俊足ぶりを見せてくれ!そして一緒に勝とうぜ!ライスフィールド!)
(手応えは十分にある。ダービー以来のGⅠ勝利に向けて走れ!そしてまだいけることを証明してやれ!トランクミラクル!)
弥富さん、久矢君、網走騎手、ベニー騎手、鴨宮君、坂江騎手はそれぞれの思惑で最後の直線での攻防に臨んでいた。
すでに各馬は内回りコースとの合流地点にまで差し掛かっており、場内からの歓声もひときわ大きくなってきた。
中央競馬のGⅠで最も長い距離を誇るこのレースも、残りは300m余りを残すのみ。果たして先頭でゴールに飛び込んでくる馬は…?




