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パーシモンとレインフォレスト

 ここではライスフィールドの一人称で物語が進行します。

 有馬記念が終わってから数日後、僕は野々森牧場に放牧に出されていった。

 牧場に到着し、馬運車を降りると、一足先に放牧に出されていたレインフォレストが真っ先に僕に気がついた。

『あっ、フィールドお兄ちゃんだ。お帰りい。』

 すでに休養の日々をすっかり満喫している彼女は、ニッコリとしながら出迎えてくれた。

『ただいま、レイン。元気だったか?』

『うん、すっかり元気になったよ。フィールドお兄ちゃんは?』

『正直、疲れた。ただでさえプレッシャー半端なかったし、それにレースのせいで脚の具合がまた悪くなった。今は休むことしか考えられないよ。』

『そうなんだ。でもそんな中でもオールカマーと秋天を勝ち、有馬記念でも僅差の勝負をしていたんだよね?』 

『まあそうなんだけれど、あのレース、あそこまで行ったら勝ちたかった。』

 僕は有馬記念を勝ったソングオブリベラからタイム差なしの4着に敗れた悔しさをまだ引きずっていた。

 そんな中、普段は僕のことを「お兄ちゃん」と呼んでいる妹が、今日は「フィールドお兄ちゃん」と呼んでいることが気になり、問いかけてみることにした。

『確かに私、普段はそう言っているけれど、今、牧場にはもう一頭お兄ちゃんがいるから、名前をつけて呼ぶことにしたの。』

『えっ?もう一頭って、もしかしてパーシモンがいるのか?』

『いるよ。馬主の根室さんの思惑で、ここで過ごすことになったんだよ。案内してもいい?』

『うん、いいよ。』

 僕がそう答えると、レインは早速弟のいるところに案内してくれた。


『パーシモンお兄ちゃん。』

 レインは暖房の効いた部屋でブルブル震えている、黒鹿毛の馬に向かって呼びかけた。

『何?』

『あのね、フィールドお兄ちゃんが牧場に戻ってきたよ。』

『えっ、兄貴が?って、えっ?その小柄な馬が兄貴か?』

『うん、そうだよ。パーシモンお兄ちゃんの方が体が大きいから、一見すると逆に見えるかもしれないけれどね。』

 レインの言う通り、パーシモンは明らかに僕より体が大きかった。

 レースで発表される馬体重では、僕は今年の宝塚記念で432kgだった以外、430kgに届いたことがないのに対し、彼は平均で500kgくらいのため、一見すると僕の方が弟に見えてしまいそうな感じだった。

(※ちなみにレインの馬体重は本馬の希望により、秘密です。)

『というわけで、弟よりも体の小さい兄のライスフィールドです。久しぶり。っていうか、初めましてに近いかな。』

『かもしれないね。とりあえずちょっと初めまして、兄貴。』

 確かに僕とパーシモンは、前回会ったのがいつだったのか分からないくらい前だったため、お互い初めましてに近い感覚だった。

 僕らは性格も違うし、長所も違う。

 特に、弟が言うには彼は他馬と比較されるのを嫌う一面があり、「ライスフィールドの弟」として見られることがかなり気になっていたようだ。

 また、彼は体がとにかく丈夫で、中1週でレースに出してもケロッとしているため、ガンガンレースに出走した結果、僕より1歳年下にもかかわらずすでに24戦を走っていた。

 しかしその一方、スピードもスタミナも勝負根性も平均的で、能力的に抜け出たものがなかった。

 そのため、兄のような活躍を期待されながら結局3勝にとどまっている状況だった。

『兄貴、僕はこれからどうすればいいんだろうなあ。正直、兄を恨んだこともあるし、どう頑張ればいいのか分かんなくなった時もあるし…。』

『僕も分かんないな。かといって、僕もレースで負けるわけにはいかないし。お互い悩みは尽きないもんだな…。』

 僕達は心の中にあった気持ちを包み隠さずにぶつけあった。

 気持ちや考え方の違いはあったため、思わずカッとなりそうにもなったが、そこは兄弟ということもあるのだろう。喧嘩になることはなかった。

 するとそこにレインフォレストも会話に加わり、自身も悩みを抱えていることを打ち明けた。

 彼女はライスフィールドが2歳時に4勝、パーシモンが2勝を挙げ、2頭ともにGⅠ朝日杯FS(パーシモンは4着)に出ているのに対し、自分はここまで新馬戦と未勝利戦しか出走していないということが、いつしか劣等感になっていた。

『正直、お兄ちゃん達がうらやましい。私だってもっと活躍したい。重賞にも出たいし、GⅠにも出たい。』

 普段から厩舎で彼女を見ている僕は、別に驚くことではなかったが、弟には衝撃発言だったようで、思わず驚いていた。

『そうか、レインも悩んでいたのか。違いこそあれ、みんな悩んでいるんだな。』

 パーシモンはこれまで気がつかなかったことに気づいたようで、目から鱗が落ちたような表情をしていた。

 そうしているうちに、僕達3頭はいつしか打ち解けることができたようで、次第に表情も明るくなっていった。

(良かった。これなら3頭が仲良くここで過ごしていけそうだ。)

 僕はほっとしながらその後もパーシモンとレインフォレストと会話をしていた。


 その後、僕は外に出て3頭で一緒に散歩しないかと弟、そして妹に提案した。

 すると弟は『寒いから嫌だ。』と言って即座に断ったが、妹は『うん、一緒に行こう。』と言って同意してくれた。

 それを受けて僕とレインは雪が降りそうな雲行きの中で外に出ていき、牧場の中を歩き回った。

 確かに外は寒いけれど、妹と2頭で一緒にいられる時間は僕にとって楽しかった。

 多分、レインも同じことを考えているのだろう。彼女もうれしそうな表情をしていた。

 広々とした牧場を半周程回ると、柵の外にはお花が供えられている場所があった。

 母さんから聞いた話では、この場所は亡くなった馬達が眠るお墓だということだった。

 僕達は2頭横に並んで立ち止まると、目を閉じてお祈りを捧げた。

 黙とうを終えた後、レインは白い色の花が並んでいる中で、1か所だけ黄色い花が供えられていることが気になったようで、僕に『どうしてあれだけ違うのかしら?』と質問してきた。

 僕自身はその理由を知る由もなかったため、『さあ。』としか言うことしかできなかった。


 その後、散歩を終えて馬房に戻ってくると、僕達はライスパディーとクリスタルコンパスの母であるクォーツクリスタルさんに会うことができた。

 パーシモンと合流した僕とレインは、クォーツさんにあいさつをした後、お墓で見かけた黄色い花について聞くことにした。

 それに続いてパーシモンは僕達の母親であるカヤノキが牧場に不在であることが気になっていたようで、彼女に質問をしてみることにした。

 そこで僕達は母親について驚くようなことを聞かされることになった。

 僕達3頭が厩舎にいる間に母に起きた出来事とは…。

(その内容は次回にて。)


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