暮れの大レース発走
12月。秋のGⅠ戦線も終盤に差し掛かり、2歳馬のGⅠも行われた。
その中、レインフォレストは阪神JFの週に未勝利戦を勝つことができ、レース後に勝利のご褒美として、野々森牧場に放牧に出されることになった。
翌週、朝日杯FSの週では、パーシモンがようやく3勝目を挙げることができ、1000万下から1600万下へと昇級を果たすことができた。
(2勝目を挙げてから次の勝利まで1年以上かかったか。実に長かった…。ライスフィールドの弟ということで注目を浴びていたが、なかなか思うように活躍馬って出ないものだな…。まあいい。今は心からしっかりと喜んでおこう。)
記念撮影に臨んでいる根室那覇男は、内心では悔しいを抱えながらも、ほっとした表情をしていた。
そして彼は、稚内平調教師と相談した結果、勝ったご褒美として休養を与えることになった。
(休養か…。確かパーシモンの妹のレインフォレストは野々森牧場にいるし、兄のライスフィールドも来週に行われる有馬記念の後、やはりその牧場に行くと聞いている。だったら、この馬もそこに行かせることにしよう。)
そう考えた那覇男は、早速稚内調教師にそのようなお願いをした。
「那覇男さん。僕は寒さを避けるため、いつものように近くにある施設に出したいと思っているのですが…。」
「確かにこれまではそうしてきましたが、今回ばかりは何卒お願いします。一度兄と妹と一緒の時間を過ごさせてやりたいんです。」
「そう言われましてもねえ…。競走馬である以上、僕達にとって一番大事なことはレースに勝たせることです。そのためには休養の仕方にもこだわりたいんですよ。」
稚内調教師は元々近場での施設で休養させる傾向が強く、長距離輸送や寒い場所を避けているため、難色を示していた。
しかし那覇男さんの熱意に押されるような形で最終的には折れ、野々森牧場で休養させることにした。
それから間もなく、パーシモンは馬運車に乗って放牧に出されていった。
翌週。いよいよ今年最後のGⅠ、有馬記念が迫ってきた。
レースはフルゲートとなる16頭が出走した。
主な馬達の枠番と馬番、そして人気は次の通りだった。
ファントムブレイン 7枠14番、1番人気、単勝2.7倍(前走:天皇賞(秋)2着、有馬記念が引退レース)
パースピレーション 3枠6番、2番人気、単勝5.8倍(前走:チャンピオンズカップをレコード勝ち)
ライスフィールド 2枠4番、3番人気、単勝6.3倍(前走:天皇賞(秋)優勝)
フォークテイオー 8枠16番、4番人気、単勝6.6倍(前走:ジャパンカップ2着)
ソングオブリベラ 3枠5番、5番人気、単勝7.0倍(前走:ジャパンカップ優勝)
トランクロケット 5枠10番、6番人気、単勝9.8倍(前走:マイルCS2着)
他に、シドニーメルボルンが1枠1番(9番人気、単勝40.5倍)、スターマインが7枠13番(12番人気、単勝63.5倍、有馬記念が引退レース)、シルバーリリー(Silver Lily 3歳、メス、関東馬)が4枠7番(14番人気、単勝120倍)が出走してきた。
(※なお、トランクゼウスは脚を痛めたため、枠順が決まる前に同レースを回避しており、トランクミラクルはGⅠ戦線から離脱して中山金杯に向かったため、出走せず。)
「ライスフィールドは朝日杯を勝った時と同じ枠番、馬番になったか。」
「これは縁起がいいですね。勝てるんじゃないでしょうか。」
「そんな予感がする。野々森さん達の気持ちにこたえるためにも、絶対勝つぞ。」
善郎、道脇君、鴨宮君は明るい表情で会話を交わしていた。
有馬記念当日。村重厩舎ではクリスタルコンパス、クノイチ、ライスパディー、ライスフィールドの4頭が中山競馬場でのレースに出走してきた。
ライスフィールド以外の3頭の結果は次の通りだった。
クリスタルコンパス … 3レース 2歳未勝利戦 8着
クノイチ … 5レース 3歳以上500万下 6着
ライスパディー … 7レース グッドラックH 4着
「8→6→4と来ましたか…。これだとライスフィールドは有馬記念で2着になるということになるんでしょうか?」
「それは勘弁してください、アキ姉さん。そんなこと言われたら、何だか嫌な予感がする…。」
アキと紅君は苦笑いを浮かべながら会話をしていた。
そして準メインのホープフルSも終わり、いよいよ次が有馬記念となった。
クリスタルコンパスのレースを終えてから、しばらくリラックスしていた野々森牧場のメンバーには、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「運命の時間が近づいてきたわね。クリスタルコンパスは負けてしまったけれど、果たしてライスフィールドは勝てるのかしら?」
「勝ってもらわなきゃ困るんだ。天皇賞(秋)を勝ったとはいえ、種牡馬としての評価はまだまだだからな。何としても3つ目のGⅠタイトルを取らないと。」
「そんなこと言って、太郎はライスフィールドで金もうけをしたいだけなんじゃないの?」
「ち、違わい!そんなこと考えるもんか!」
「じゃあ、あんたは今年、カヤノキがあんなことになった時、何て言ったか覚えてる?」
「あ、あれは…。ほ、本心で言ったわけじゃないんだ!だから本気にすな!」
葉月と太郎はライスフィールドを種牡馬にしたいと真剣に考えているだけに、どうしても勝ってほしい気分だった。
(※なお、カヤノキに何があったのかは現時点では秘密です。詳しくは何話か後で。)
「ファントムブレインの1番人気は分かるけれど、パースピレーションが2番人気になるとはねえ…。前走でレコード勝ちしたことや、鞍上の網走さんの手腕を評価しているのか、それとも鴨宮君が過小評価されているのかしらね。」
蓉子はライスフィールドが3番人気に甘んじたことを不思議に思いながら、独り言を言っていた。
そして時計の針は3時20分を回り、いよいよ有馬記念の時間が近づいてきた。
ライスフィールドは奇数番号の馬がゲートインを終えると即座にゲートに入り、鞍上の鴨宮君はじっと発走の瞬間を待った。
その後、ファントムブレインが入り、大外の馬がゲートに納まると、いよいよ有馬記念がスタートした。
各馬は出遅れることもなく、一斉にスタートを切ることができた。
注目のファントムブレイン鞍上の坂江騎手は、後方待機を選択し、後ろへと後退していった。
(よし。狙い通りだ。3コーナー手前からのスタートだし、外を走りながらコーナーを回ることになるわけだから、ここは後ろから行こう。)
一方のライスフィールドとソングオブリベラは隣同士ということもあってか、スタート直後からお互いをけん制するように走りながら先行策に打って出た。
(リベラと一緒か…。もしかしたらマークしているのかもしれないな。でもどの馬が来ようと関係ない。ライスフィールドが全力を出し切れるレース運びをしよう。)
(フィールドと一緒か…。隣同士だからこうなることは覚悟していたが、いざこうなると面倒だな。だが、勝つのはリベラだ。負けるものか。)
鴨宮君と久矢君はお互いを意識しながらコーナーを回っていった。
1周目の直線に16頭が姿を現すと、スタンドからは拍手と共に、大きな歓声が沸き起こった。
その中、各馬に乗っている騎手達は馬が動揺しないように落ち着かせていた。
1回目のゴール板を通過した時点では、13番のスターマインが先頭に立っており、1番のシドニーメルボルンがそれに続いた。
ライスフィールドとソングオブリベラは並んだまま4~5番手辺りを走っており、トランクロケットやパースピレーションは中段にいた。
数少ない3歳馬の一頭であるシルバーリリーはやや後方、後ろから3頭目辺りには大外でコーナーを回ったフォークテイオーが相変わらず馬場の良い外を走り続けていた。
一方、人気のファントムブレインは外を回ったこともあってか最後方にいたため、少しではあるが会場からはどよめきも起きていた。
それぞれの思惑が交錯する中、各馬は1コーナーを回り、正面スタンドにいるファンの人達から一旦背中を向けることになった。
果たして勝つのはこのレースを最後に引退するファントムブレインか。
そのファントムブレインに土をつけたライスフィールドか。
今度ゴール板を通過した時、果たして先頭にいる馬は…。
(続く)




