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2000mの争い(前編)

 蓉子、葉月、太郎、ジャンら野々森牧場の陣営は、天皇賞前日の夕方に東京に降り立ち、都内のホテルで1泊した。

 そして当日の朝、電車を乗り継いで東京競馬場に到着した。

 この日は第2レースの2歳未勝利戦(芝1400m)でレインフォレストが出走し、直後の第3レースの2歳未勝利戦(ダート1400m)ではクリスタルコンパスが出走した。

 この後大一番が控えている陣営としては、所有馬の勝利で景気づけをしたかったが、結果はレインフォレストが13頭立ての10着、クリスタルコンパスが14頭立ての8着だった。

「うーーん、期待していたんだけれど、残念ね。」

「まあ、仕方ないです。それよりこの後どうします?」

「4時間以上時間があるし、少しゆっくりしましょうか?」

「賛成です。ずっと緊張していたら疲れます。」

 蓉子、葉月、太郎、ジャンはそのような会話をした後、どうするかについて話し合った。

 その結果、まだ午前11時台ではあるけれど混む前に食事をしたいということになり、一行は食事のできる場所へと移動していった。


 彼らは昼食後、ゆっくりとレースを見ながら過ごした後、2時半頃に善郎をはじめとする厩舎の陣営と再度合流した。

 そしてレインフォレストとクリスタルコンパスの今後やライスフィールドの調子について色々と会話をしながら大レースまでの時間を過ごしていた。


 天皇賞(秋)の人気は、ファントムブレインが断然の1番人気(単勝1.8倍)になった。

 2番人気はライスフィールド、パースピレーション、トランクロケットの3頭が争っている状態だった。

 金曜日に前々日オッズが発表になって以降、1頭が人気を集めるたびに他の馬が盛り返してくるということの繰り返しだったため、当日の午後までどうなるか分からない状況だった。

 最終的に2番人気はパースピレーションに落ち着き、単勝は8.7倍。以降、ライスフィールド(9.2倍)、トランクロケット(9.4倍)で締め切りを迎えることになった。

 ライスフィールドは宝塚記念では12頭立ての8番人気、オールカマーでさえも4番人気に甘んじていただけに、ここまで人気を盛り返してきたことは、村重厩舎の陣営にとっても、野々森牧場の陣営にとってもうれしいことだった。

 あとはレースで、1年間負けを知らない絶対的王者のファントムブレインを倒す。

 この馬には去年の同レースで、ゴール前あと少し間で迫りながらわずかに届かず、2着に終わってしまった悔しさを味わっているだけに、今度こそ借りを返したい。

 そして年をまたいでのグランドスラムではなく、同一年内でのグランドスラムを達成するという野望を阻止したい。

 陣営はそのような意気込みでレースの発走時刻を迎えた。

(ここまで来たらやるしかない。オールカマーを勝って天皇賞に出られることになったけれど、出るだけじゃだめなんだ。姉さんだったら『負けたら次走はGⅡに出します。』といつ言い出すか分からないし、やっぱり勝たなければ。そのためにはファントムブレインだろうがパースピレーションだろうが、トランクロケットだろうが、全部倒してやる!)

 鴨宮君は並々ならぬ気持ちでゲートに入っていった。


 レースがスタートすると、シドニーメルボルンが先頭に立ち、クリスタルロードが2番手につけた。

 ライスフィールドは3番手の位置を確保し、そのすぐ後をソングオブリベラが追走していた。

 人気のファントムブレインは中段辺りにつけ、パースピレーションとトランクロケットがマークするような展開になった。

 そのため、多くのファンがこの辺りに注目していた。

 短距離向きの馬であるストアーキーパーはトランクミラクル、トランクゼウスと共に後方につけ、長い直線勝負に打って出た。

 レースは2コーナーを過ぎて向こう正面に入った。

 ペースはそれ程速いわけでもなく、各馬の順番もほとんど変わらなかったため、淡々と流れている感じだった。

(この調子ならスタミナをロスすることもなくレースをしていくことができそうだ。人気馬がどこにいるのかは分からないけれど、とにかくマイペースだ。絶対にGⅠタイトルを取るぞ。)

 ライスフィールド鞍上の鴨宮君は確かな手応えを感じ取っていた。

 先頭のシドニーメルボルンは前半の1000mを58秒台半ばで通過した。

「ということは、シドニーメルボルンの3馬身程後ろにいるライスフィールドは59秒ちょうどくらいか。」

「どうやらスタミナも浪費しているわけではなさそうだし、この調子なら最後の直線に入っても十分に勝負になりそうですね。」

「ああ。バテなければ相手がファントムブレインであろうとも、十分にうちに勝算はあるはずだ。」

「ぜひそうなってほしいですね。ヨシさん。」

 善郎と紅君は緊張するそぶりも見せず、競馬場に戻ってこられた喜びを感じながら会話を交わした。

 そうしている間にもレースは進んでいき、向こう正面を通過して3コーナーに入っていった。

 3コーナーから4コーナーにかけて、後方に待機していたトランクゼウスやトランクミラクル、ストアーキーパーが外に持ち出しながら上がっていき、前との差が少しずつ詰まってきた。

 ファントムブレイン鞍上の坂江騎手の手は、4コーナーを回っている時に動き出し、それと共に場内からは大きな歓声が沸き起こった。

『さあ坂江騎手。ファントムブレインをGⅠ6連勝、そして天皇賞4連覇に導くために動き出した!栄光は700m先に待っているぞ!』

 アナウンサーもこの馬を後押しするかのような実況をし、ファンを後押ししていた。

(※参考までに、ファントムブレインは去年の天皇賞(春)を勝っているため、そこから去年の秋天→今年の春天と、天皇賞を3連覇しています。また、本編では表記がないのですが、去年の春天後の宝塚記念では4着でした。そして天皇賞(秋)ではライスフィールドをアタマ差振り切って優勝し、そこから怒涛の連勝劇が始まりました。)


 そしていよいよ直線。ファントムブレインは前が壁になることもなく、万全のレースをしていた。

「さすが坂江さんね。動きに全く無駄がないし、理想的なレースをしている。」

「そうなると、ライスフィールドが勝つには、それを上回る実力を出す必要がありますね。」

「確かにそうね。最後の直線はまさに真っ向勝負になるでしょう。」

「ぜひともライスフィールドには粘り切ってほしいです。」

 アキと道脇君はドキドキしながら展開を見守った。

 これまで終始ファントムブレインをマークしていたパースピレーションとシルバーロケットは、同馬につられるようにしてスパートを開始し、直線で差し切る作戦に打って出た。

『先頭はシドニーメルボルン。クリスタルロードも頑張っている!ライスフィールドとソングオブリベラも迫ってきた!』

 アナウンサーが先頭集団の実況をしている中、ファントムブレインはライスフィールドとソングオブリベラの後方4~5馬身後ろを、パースピレーションやシルバーロケット、さらにはトランクゼウスと並ぶように走っていた。

 ここからファントムブレインはきっと伸びてくる。馬群を交わしてきっと先頭に立つ。

 多くの人達がそう思っている中、果たしてレースの結果は…!


(決着は次号にて。)


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