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大記録のかかった大レース

 中山大障害に出走したオーバーアゲインはすでに11歳ということもあって跳躍力が衰えており、大竹柵や大生垣でバランスを崩しそうになった。

 そのため、あわや競走中止になりそうになったが、鞍上の騎手がどうにか踏ん張ったため、レースを継続することができた。

 しかしレースが進むにつれて先頭からの差はどんどん離れていく一方で、結局勝ったマドリガル(英語表記:Madrigal)から10秒以上も遅れてのゴールになってしまった。

 単勝が190倍ということもあって、馬券の影響を受けたファンの人達は少なかった。

 しかしそれでもほとんど勝ち目のないレースに出走させたということで、オーバーアゲインが引き上げ場に来た時には、ファンの批判めいた声も上がっていた。

 その声は善郎達の耳にも聞こえていた。

(確かに体力的には限界に近づいている。ほとんど勝ち目のないレースに出ることについてあれこれ言いたくなる気持ちも分かる。でもこの馬は引退後の進路がまだ未定なんだ。このままでは哀れな末路になる可能性が高い。だからこそ障害GⅠを走ってアピールをしたいんだ。)

 善郎は口には出さないものの悲壮な覚悟を持ってこのレースに臨んでいた。

 もちろん馬主の人も牧場や乗馬施設などに連絡を取り、オーバーアゲインの引き取り先を探した。

(※馬主さんは自分で牧場を所有しているわけではないので、自分で引き取ることは不可能だった。)

 しかし中々OKをもらうことができなかったため、結局は現役を続けるしか選択肢のない状況だった。

 会場からはマドリガルコールが沸き起こる中で、善郎をはじめとする厩舎の陣営と、馬主の関係者達は、悔しい気持ちをじっとこらえながら競馬場を後にしていった。


 翌日。有馬記念の当日にはライスパディーが3歳以上500万下のレースに出走した。

 最初は4番人気だったが、時間が経つにつれて評価を上げていき、最終的には2番人気にまで推された。

 その勢いに乗って勝利を挙げたいところだったが、最後の直線であと一伸びが足りなかったこともあり、結局3着に終わった。

 2年前のセリ市ではライスフィールドよりも高い評価を受けていただけに、馬主さん達にとっては悔しい結果だった。

 レース後、馬がかなり疲れていたこともあって、陣営は厩舎に戻さずにこのまま休養させることになり、生まれ故郷である野々森牧場にこのまま向かうことが決まった。

 これによってライスパディーは1歳のセリ市以来となる、母親のクォーツクリスタルとの再会を果たすことになった。

 前日、中山大障害に出走したオーバーアゲインはすでに近くの施設に放牧に出されていたため、村重厩舎にはほとんど馬がいない状況になってしまった。

 そのため、馬主さんと別れた後、善郎、道脇君、アキ、紅君は今後のことについて話し合いをした。

 結果、善郎以外はしばらく厩舎を離れ、各自で自由時間を取ることになった。

 そして道脇君と紅君は1週間ほど家族のもとで過ごした後、2人で地方競馬場巡りに出かけることになり、アキは旦那の実家で義理の親の世話をしながら過ごすことになった。

(鴨宮君は有馬記念の後に行われるハッピーエンドカップでの騎乗を控えていたことに加え、その後は他の厩舎での自身の売り込みや、馬の調教などの仕事があるため、休暇を取ることはできなかった。)


 そんな話し合いのさなか、いよいよ今年最後の中央競馬のGⅠレースである有馬記念が行われる時間がやってきた。

 このレースに出走した主な馬は次の通りだった。


・ファントムブレイン(前走 ジャパンカップ1着)

・トランクロケット(前走 マイルCS1着)(オス、英語表記:Trunk Rocket)

・ユーアーゼア(前走 ジャパンカップ4着、この有馬記念が引退レース)

・トランクゼウス(前走 ジャパンカップ11着)

・ホタルブクロ(前走 ジャパンカップ3着)

・フシチョウ(前走 マイルCS2着)

・インノケンティウス(前走 天皇賞(秋)3着)

・トランクミラクル(前走 菊花賞17着)

 (出走馬は14頭)


 注目は天皇賞(秋)とジャパンカップを制したファントムブレイン注がれており、マスコミや多くの競馬ファンの人達が秋の古馬GⅠ3連覇なるかどうかに注目していた。

 前売りでは単勝1.7倍と断然の1番人気で、2番人気のトランクロケットが6.3倍、3番人気のホタルブクロが7.8倍となっており、単勝10倍を切るのはこの3頭だけだった。

 レースではファントムブレインが後ろから3頭目辺りにつけ、すぐその前をトランクロケットやトランクミラクル、ホタルブクロが壁のように立ちはだかって走っていた。

 先頭はフシチョウで、ユーアーゼアが3番手、トランクゼウスとインノケンティウスは中盤につけていた。

 他陣営が何としてもファントムブレインの偉業を阻止しようと奮闘している中、鞍上の坂江騎手はそのプレッシャーを楽しんでいるかのように騎乗をしていた。

 ファントムブレインは3、4コーナーの中間辺りからスパートを開始しようとしたが、前にトランクゼウス、左右にはホタルブクロとトランクミラクルがそれを阻むような形になり、動くに動けない状況になった。

 結局ファントムブレインがスパートを開始できたのは最後の直線になってからだった。

『ファントムブレインはまだ後方。これはもう無理か?』

 残り300mを切ってもまだ8~9番手辺りにいるだけに、アナウンサーがそう叫ぶのも無理はなかった。

 坂江騎手は絶望的とも言える位置に立たされながらもあきらめずにムチを振るい、懸命に順位を上げていった。

 先頭を走っていたフシチョウは前走で2着に逃げ粘ったのが嘘のように馬群に飲み込まれていき、一旦は先頭に立ったユーアーゼアもトランクロケットに交わされていった。

 トランクゼウスとインノケンティウスは中段から伸びていき、トランクロケットにも並びかけていきそうな勢いだった。

 ファントムブレインの壁になるように走っていたホタルブクロは、ファントムブレインと並走するような形で伸びていった。

 一方のトランクミラクルは直線で一旦は伸びたものの、屈辱の17着に沈んだ菊花賞の再現のようにずるずると下がっていってしまった。

『残り100m。先頭はトランクロケット!粘り切れるか!?』

『ホタルブクロも来た!しかし外から来た!ファントムブレインだ!トランクゼウスも頑張っている!』

『トランクロケット!ホタルブクロ!ファントムブレイーーン!!』

 アナウンサーの絶叫と大勢の競馬ファンの叫び声の中、3頭は一斉にゴールインしていった。

 それに続いてトランクゼウスが4着、インノケンティウスが5着に入った。

 一方、直線で交わされていったユーアーゼアは8着、坂で失速したフシチョウは13着、トランクミラクルはシンガリとなる14着に沈んでしまった。

 しばらくするとターフビジョンにリプレーが流され、トランクロケット、ホタルブクロ、ファントムブレインがゴールインする映像が映された。

 その中でトランクロケットの鼻先は他の2頭よりも一瞬遅れており、この時点で3着が確実になった。

 果たして勝ったのはホタルブクロか?それともファントムブレインか?

 秋の古馬GⅠ完全制覇は果たして達成されたのか、それとも阻止されたのか?


(決着は次号にて)


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