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12月

 ジャパンカップが終わり、いよいよ12月になった。

 そんな中、村重厩舎ではユーアーザギターやフロントライン、さらにはホワイトリリーとクノイチなど、多くの馬達が休養に入っていった。

 一方、厩舎に所属している2歳馬で唯一勝利を挙げているフォークヒーローは、馬主の意向で朝日杯FSに登録することになった。

「馬主さんの気持ちは理解できますが、どうなんでしょうか?」(道脇君)

「正直、この馬は1勝馬で500万クラスの状況ですからねえ。」(紅君)

「抽選では10分の3の確率ですから、出るのは運しかないでしょう。」(善郎)

「たとえ出たとしても印はまずつかないでしょうし、厳しいですね。」(アキ)

「でも馬主さんはレースに出したいそうですし、出ればベストを尽くすまでです。」(鴨宮君)

 厩舎のメンバー達は半信半疑になりながらも、心の中ではフォークヒーローが抽選をくぐり抜けてくれることを願っていた。

 しかしこれまで重賞に出走すらしたことのない馬をいきなり大舞台に立たせてくれるほど、世の中は甘くなかったようで、結局あっさりと除外となってしまった。

 馬主さんからは「お手数をおかけしてすみませんでした。」という言葉をもらったが、陣営は「大丈夫です。」、「気にしないでください。」というような言葉でねぎらった。

 そして500万下のレースに目標を切り替え、地道に2勝目を目指すことになった。


 そんな中、阪神JFが行われる週に、ライスフィールドは有馬記念に向けて本格的に調整を始めた。

 調教でのタイムや、疲労の抜け具合などを聞いた野々森牧場の陣営は、少し重い顔をしながら顔をしていた。

「ライスフィールド、併せ馬でライスパディーを追い抜けないようじゃあねえ…。」(蓉子)

「本番まであと2週間半しかないのに、本当にちゃんと仕上がるのかしらね。」(葉月)

「仕上げてもらわなきゃ困るよ。勝利のないまま年越しなんて迎えたくないしさ。」(太郎)

 彼女達がそのような気持ちになっている中、阪神JFが盛大に行われ、また2歳の牝馬チャンピオンが誕生した。

 勝ち馬に乗っていた騎手は、今年通年免許を取得したばかりのベニー・ベラクア騎手だった。

 彼は短期免許で来日していた時には、ユーアーゼアでGⅠレースを勝ったことがあったが、通年になってからは初制覇だった。

 それだけに本人にとってこの勝利は格別だったようで、勝利ジョッキーインタビューでは感極まったような表情をしながら、今年の流行語に選ばれた日本語を用いて喜びを表現していた。


 阪神競馬場が大盛り上がりを見せる中、村重厩舎で留守番をしていた紅君は、ライスフィールドの馬体をチェックする中で、気になる点を見つけた。

(うーーん、今日は少し脚をかばうような歩き方をしていたし、ちょっと検査をお願いした方がいいかもしれないな…。)

 彼はライスパディーのレースのために中山競馬場に行っていた善郎や村重君、アキが帰ってくると、早速ライスフィールドのことについて報告をした。

 それを受けて、陣営は早速検査のお願いをした。

 その結果、骨折はしていないものの、筋を痛めているということが判明した。

 仮に無理をして出そうと思えば有馬記念に間に合わせることは可能だが、もしレース中に故障を発生すれば取り返しのつかない事態を招きかねないため、有馬記念はあきらめた方がいいということだった。

 それを聞いて、善郎達は動揺を隠せなかった。

「せっかくファントムブレインに雪辱したいという一心で頑張ってきたのに…。」(紅君)

「仕方ありません。おおごとになる前に気付いてくれたトッキーに感謝です。」(アキ)

「とはいえ、来年からはGⅠで最低57kgは背負いますし、斤量とも闘わないと…。」(善郎)

「小さな体に斤量はこたえますし、しかも脚部不安まで抱えるとなると頭痛いですね。」(鴨宮君)

「少なくとも今後、中3週はあきらめ、最低でも4週は空けることにしましょう。」(道脇君)

 彼らは悔しさと必死に闘いながら、野々森牧場の陣営達にこの事実を伝えることにした。

「何だよそれ。じゃあライスフィールドは今年未勝利で終わっちゃうじゃないか!」(太郎)

「しかもこれから中4週以上ってなると、秋天→ジャパン→有馬ができないじゃない!」(葉月)

「仕方無いでしょう。とにかく深刻な事態にならなかっただけでもよしとしないと。」(蓉子)

 知らせを受けた牧場の陣営の中で、蓉子だけはどうにか冷静さを保っていたが、葉月と太郎はやりきれない気持ちを抑えられずにいた。

 しかしそんな彼らも数日後にはどうにか冷静に考えることができるようになり、ライスフィールドを温泉施設で治療したいという村重厩舎の陣営の提案を受け入れることができた。


 翌日、ライスフィールドはダービー後にもお世話になった温泉施設に行ってしまい、さらにはライスパディーも休養のために厩舎を後にしていった。

 その結果、厩舎に残っている馬はオーバーアゲインやフォークヒーローなどわずかとなってしまい、寂しい状況になってしまった。

 当然預託料収入も激減してしまい、従業員への給与はライスフィールドの稼いでくれた賞金を切り崩して支払う形になった。

 しかもライスフィールドは春まで休養することが確定的で、それ以外に活躍馬もいないだけに、今度2歳になる馬達の獲得にも影響しそうな雰囲気があった。

 当然、陣営には焦りもあったが、とにかく今は耐える時期だと割り切ることにした。


 そんな中、今年もまた朝日杯FSが行われる日がやってきた。

 このレースでは去年このレースを勝ったライスフィールドの弟、パーシモンが出走を表明しており、そのことがマスコミや競馬雑誌でも報道されていた。

 パーシモンはデビュー戦で敗れた後、小倉での未勝利戦で初勝利、小倉2歳S 6着となり、しばらく休養を取った後、11月に行われた黄菊賞(500万下、京都、1800m)できわどい勝負をクビ差で制した。

 この賞金のおかげで朝日杯での切符をつかみ、無事に出走にこぎつけることができた。

 馬主の根室那覇男さんは、持ち馬が初めてGⅠに出走し、さらには印もいくつかついたことで、マスコミの記者からも色々と取材を受けていた。

「那覇男さん、いよいよ待ちに待ったGⅠですね。」

「はい。今からドキドキしていますが、鞍上のベニー・ベラクア騎手ならきっとやってくれると思います。」

「その鞍上ですが、娘さん(弥富伊予子騎手)に乗ってもらいたいという思いはありますでしょうか?」

「無いと言ったらうそになりますが、陣営としては1%でも勝てる可能性を上げたいでしょうから、その点は割り切っています。レースでは妻の空子そらこと息子の政永まさながと一緒に観戦し、勝ったら皆で喜びを分かち合いたいと思っています。」

 彼は緊張した面持ちでインタビューに答えていた。


 朝日杯FSでは直前で回避馬が1頭出たため、当日は17頭の馬が出走した。

 パーシモンは前走での勝利が評価されたこともあって最終的に4番人気となった。

 レース前の出走馬の紹介の時、パーシモンはアナウンサーによって次のように紹介されていた。

『去年、兄が勝ったこの舞台に今年は弟がやってきました。目指すは兄弟そろっての同一レース制覇だ。パーシモンとベニー・ベラクア。』

 そのパーシモンはレースがスタートすると中段につけた。

 ペースは平均的になり、先頭からシンガリまでそれ程の差にはならなかった。

 ベニー騎手は4コーナーで外に持ち出してスルスルと上がっていき、直線での抜け出しにかけた。

 パーシモンは直線で何頭もの馬を追い抜いていったものの、前にいた全ての馬達を追い抜いていくことはできず、4着でゴールインしていった。

 人気と同じ着順だったこともあって、根室那覇男さんの顔に悲壮感はなかった。

「まあ、来年になればきっとクラシックにも出てくるでしょうし、多くの賞金を稼いでくれるでしょう。大丈夫です。」

 これがレース後の彼のコメントだった。

 その一方、空子と政永は悔しそうな表情を浮かべていた。


 それから1週間後、いよいよ有馬記念の週がやってきた。

 ライスフィールドこそ同レースには不在だったが、その前日に行われる中山大障害(J・GⅠ、芝4100m)には、オーバーアゲインが出走してきた。

 同馬はすでに11歳で、年が明ければ12歳になることもあって評価は低く、新聞での予想は無印だった。

 だが、陣営は収入と従業員の不安をぬぐい去るためにどうしても勝ちたいという意気込みだった。

 さらには馬主さんの間でも、やはりどうしても勝ちたい理由があった。

 その理由とは。そして中山大障害の結果は…。


ちなみにフォークヒーローは有馬記念の当日に500万下のレースに出走する予定です。

本文では表記がありませんが、忘れているわけではありません。


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